ProgramSPIRAL
(Social Platform with Innovation,Relationship,Activation and Learning)
SPIRALは高校生をチャレンジの軌道に乗せていくためのプログラムであり、主体的な高校生を育んでいくためのプラットフォームである。社会の最先端で起きている変革や、多くの仲間とのつながり、そして心のエンジンを駆動させる学びを提供する。
このプログラムは四つのコンテンツから成る。「Challengers Forum」では社会のさまざまな課題に向き合っているメンターから学び、自身の取り組む課題を見つける。その後、「Challengers Labo」で仲間と一緒に課題解決の方法を考え、「Challengers Competition」で最終報告をする。プログラムを経て次のチャレンジを求めている生徒を対象にNext Challenge Meetingを開催し、参加者を次の挑戦の場へと送り出す。
このプログラムから多くのチャレンジャーが生み出され、お互いに切磋琢磨し、次の世代のチャレンジャーを支える、挑戦者たちの生態系(Challengers Ecosystem)を創り出すこと目指す。
活動レポートReport
四つのコンテンツを通して、「学びの自走」を促す
「人間関係が下手な自分が大嫌いで。今まで行ったことがない世界に飛び込んでみれば、友達づくりが苦手な理由が見つかるかもしれないと思って、SPIRALに参加したんです。ここではどんなことでも喋れるし、話したいと思える子が初めてできて、毎日がすごく楽しい。何でもやってみるって大事だなって感じています」。愛知県に住む高校1年生の青木琴音さんは、10分足らずの取材の中で、「楽しい」という言葉を8回も繰り返した。彼女の話し方、表情からは、「自分が大嫌い」だった様子はみじんも感じられない。
青木さんが参加したのは、高校生をチャレンジの軌道に乗せ、主体性を育むことを目的としている公募プログラム「SPIRAL」。NPO法人アスクネットが主催するこのプログラムは、四つのコンテンツから成り立っている。「Challengers Forum」では各業界の第一線で活躍しているアドバイザーから刺激を受け、「Challengers Labo」ではグループで情報収集し課題解決の方法を考え、「Challengers Competition」で最終報告、「Next Challenge Meeting」ではさらなるチャレンジを促す場となっている。新学習指導要領にある探究学習に準じたプログラム「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」という学びのステップを、学校外の社会の中で体験するプログラムだ。
アスクネットは、地域と学校をつなぐキャリア教育のエキスパートとして1999年から活動を開始。20年以上愛知県内の地域社会と確かな実績を築いてきた中でも、今回のSPIRALは挑戦的な取り組みだったと、同法人の小柳真哉さんは話す。
「これまでは『リーダーを育てる』、または『生活困窮世帯への支援』など目的が分かりやすいプログラムは実施してきましたが、一見何も問題なく無難に過ごしている子どもたち、一番大きなボリュームゾーンを対象にしたプログラムを実践する機会がなかなかありませんでした。また学習指導要領に探究活動が導入されることになり、自分たちも探究活動のポイントを押さえていく必要性があると感じて、今回このSPIRALを企画しました」。
先に紹介した青木さんもまさにそのボリュームゾーンにいる高校生だと言えるが、他にもさまざまな理由で参加している高校生がいる。フランス人と日本人のハーフの父を持つ渥美 空さんはSPIRALでは「多文化共生」をテーマにしたグループに属しており、「進学予定の大学では、個々人がプロジェクトを設定しその実現に取り組むことになっています。私は移民2・3世に向けた言語教育の環境整備プロジェクトを考えているので、その前にここで幅広くみんなの意見を聞き、アイデアの出し方や課題解決の導き方を学びたいと思い、参加しました」と話す。約半年間という長期間のプログラムに飽きなかったのかという意地悪い質問をしたところ、「自分の意見に対しストレートに『違うんじゃないか』と言われたり、ひっくり返されたりするので、頭をリセットして一から考えなければならない。そうしたことが難しいけれども、面白い」という回答が返ってきた。「楽しい」「面白い」が、参加者のモチベーションを保ち続けているカギとなっている。
学びのスパイラルを回していくシステムづくりへ
こうしたモチベーションを保っている要因の一つが、充実した伴走支援者だ。IT、農業、医療、環境などテーマごとに10のグループがあり、それぞれにアドバイザー、コーディネーター、大学生サポーターの3人が付く。アドバイザーには、これまでアスクネットがキャリア教育の中で培ってきた関係性から「鉄板講師陣」と小柳さんが太鼓判を押す方々が参加。「アドバイザーは子どもたちに火を付ける、いわば“着火剤”。火が消えぬよう、まきをくべていく人としてコーディネーターと大学生サポーターが必要です。特に大学生サポーターについては、SPIRALを自分自身の成長の場にしてほしいという狙いもありました」と小柳さんは話す。
サポーターの一人で大学3年生の北島詩乃さんも、「普段自分は前に出てしまう性格なのですが、ここでは大人と高校生たちをつなぐ役割であることを意識しながら、意見やアイデアを引き出すようにしています。個人的に友人と教育に関わるプログラムを立ち上げていきたいと思っているので、SPIRALは勉強の場だと思っています」と話す。
伴走支援者のスキルがプログラムに大きく影響してくるため、21年度は各グループのコーディネーター・大学生サポーター横串のミーティングを実施。お互いのノウハウやテクニックを共有し合ってブラッシュアップを図っている。
もう一つの特徴が「Next Challenge Meeting」で、ここでの学びを次のチャレンジにつなげていく企画を考える場だ。例えば20年度に食品ロスに取り組んだ環境・農業チームのアイデアを基に、廃棄される予定だった牛乳をアイスクリームにするプロジェクトが実際に動いているという。「そのうちの一人の生徒は、先生に言われて参加した子で、最初は前向きではなく、目も合わせられないぐらい人見知りの子でした。それがプロジェクト実現に向けて動き、今回その進捗を発表してくれました。こうしたプログラムで振り返りというと感想を言い合うだけになっているパターンが多い。次につなげる形にしていかなければ意味がないと思っています」と小柳さんは話す。SPIRALで発表したアイデアを形にするだけでなく、留学のきっかけとなったり、また大学生になってSPIRALでサポーターとなり、支えられる側から支える側へ回るなど、自ら考え主体的に動く、いわゆる「学びの自走」をスタートさせる仕組みとなっている。これをアスクネットでは「Challengers Ecosystem(挑戦者たちの生態系)」と呼び、最終目標としている。
助成から3年目となる22年度の課題は、SPIRALの学校現場での展開だ。「このままのプログラムを落とし込むのは難しいので、学校でも実施でき、かつちゃんとエッセンスが残せるようにプログラムの精査に取り組んでいきたい」と小柳さんは話す。
(学年等の表記は2022年1月時点のもの)