カテゴリー 32021年採択

国立大学法人 東北大学

対象者数 100名 | 助成額 1970万円

https://mirai-eggs.org/

Program東北から世界へ みらい型「科学者の卵養成講座」
~集え、異能な高校生よ。創れ、未来の理想社会を~

 東北大学では、「科学者の卵養成講座」として平成21年から毎年100人規模で高校生を集め、広く科学研究の先端講義や大学実習を通じ、領域横断的「科学の眼」を持ち、真に国際的な視点と新しい価値観を創造できる高校生を育成してきた。

 これまでの「科学者の卵養成講座」の実績を生かし、未知なる科学に対する強い興味と探究心を持ち、これからの未来社会を切り開く卓越した能力を有した高校生が集う場を設け、科学の持つ力を理解し、次世代の傑出した科学技術人材を育成するプログラムとして、「“みらい型”科学者の卵養成講座」を実施する。

 東北大学を中心に、東北・北関東地区の大学や教育委員会等と連携し、オンライン等を積極的に活用することで、地域差を意識せず大学が有する多彩な教員と研究資源を活用した高度な教育研究活動を行う。さらに、実践的かつ現代的課題について地球規模で考える機会や同世代の高校生同士、そして留学生・大学院生との交流を通じ、英語力強化とともに、創造性豊かな発想力と、国際的な課題にも挑戦する能力を育成し、「みらい」を創造する教育を実施していく。

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大学が有する研究教育資源を活用して、「卵」の殻を破らせる科学者養成講座

 2022年11月12日、東北大学で「科学者の卵養成講座」の月1回の特別講義と「卵養成講座」の卒業生、通称「ひよこたち」と呼ばれるOBOGとの交流会が行われた。13時から始まった講座が終了したのは辺りも暗くなった17時すぎ。同講座の運営委員会の担当者である大学院工学研究科の安藤 晃先生が出入り口に立ち、帰途に就く高校生一人ひとりに「おつかれさま」と声を掛ける。と、一人の高校生が「探究学習で地域とつながりたいと思っているのですが…」と相談を始めた。するとその後ろにもう一人、また一人と相談待ちの高校生が並び始めた。内容は大学への進路相談や安藤先生の専門分野への質問などさまざま。会場内では、今日の講師を務めた渡辺 正夫先生が高校生たちの質問に応え、なかなか高校生たちははけない。自分たちの質問に、熱意に、必ず応えてくれる。高校生たちの姿からはそうした信頼が伝わってくる。一方通行ではなく、双方向の学問の交流の場、それが同講座の大きな特徴の一つだ。

2020年度から新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインを導入、この日は対面とオンラインのハイブリッド形式で行われた。この日の講義テーマは、大学院生命科学研究科の渡辺先生のキャリアを紹介しつつ、科学者としてのキャリアについて高校生と意見が交わされた。

集中して講義を聞く高校生。長時間かけて東北大学に来る参加者も多い。

OBOG会では、関心のある、または希望する学部の先輩たちから話を聞くことができる。45分×2回とたっぷり時間を取っており、高校生と大学生の絆を深める機会となっている。

帰りを見送る安藤先生に質問をする高校生たち。教員と高校生の距離が近いのもこの講座の大きな特徴の一つだ。

高校生一人ひとりと向き合い、その熱意に応える

「科学者の卵養成講座」は、2009年に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の助成を受けてスタート。第1次選抜では応募動機や科学分野で興味があることを書いてもらい、300~400人の応募者の中から約100人を選び、「研究基礎コース」として月1回の講座を受講してもらう。その中からさらに研究意欲の高い生徒を選抜して「研究発展コース」として、研究室に入って研究を行う。2年目にはさらに選抜された生徒たちが「研究重点コース」として研究を継続していく。この13年間で約1,400人の高校生が参加してきた。

 月1回の特別講義は工学から物理、生命、農学、医学、薬学、理学、情報科学等、理系全学部の教授が、「大学生・大学院生」を対象にしたレベルで各専門分野の講義を行う。講義後はレポートを提出(オンラインでは24時間後)するため、高校生たちもそれだけ熱心に聞く。そのレポートを教授たちは全て目を通し、採点やコメントを書き入れている。講師の一人である渡辺先生は、「100人分を見るんですからそれなりに負担は大きいです。今も大学の教授にとって研究が最も重要で、教育は二の次という考えがあると思います。でも先生一人ではやれることに限界がある。自分と同じレベル、または超える人物を育てていけば、結果的にその研究は加速的に進化する。私はその教育的価値を感じて、10年近く講座に関わっています」と話す。

 2019年からは参加者のマイページが設計されたシステムを導入、レポートの提出や質問、相談などができるようにし、いつでも教授や「ひよこたち」の大学生・大学院生とコンタクトが取れるようになった。秋田から参加した高校1年生の飯塚 凛人さんは、「月に1回話を聞いて自分でレポートにまとめるという活動は楽しいし、成長できているなと感じています。またマイページから、質問をすれば先生が必ず答えてくれる。講義がない日でも科学に触れることができるのはうれしい」と話す。生徒の熱意に、時間と手間をかけてしっかりと向き合い、その思いに応える。その繰り返しによって深まる大学と高校生との絆の深さは、講座の卒業生たちである「ひよこ」の活躍に見て取れる。

将来研究分野に進みたいという思いを持って参加した飯塚さん。「この講座に参加した先輩がブログをしていて、それを見て自分も学んだことを発信する力を付けたいとブログを書くようになりました。自分が伝える側にもなれると気付けたことは大きいです」と話す。

“卵”から“ひよこ”へ受け継がれる思いと人脈

 現在、この講座の運営は「ひよこたち」が担っており、OBOG会では高校生たちの質問や相談に親身になって対応している。所属は主に東北大学の学生だが、オンラインでのOBOG会では、全国各地または海外からも参加しているという。大学生になっても引き続き「科学者の卵養成講座」に関わる理由の一つとして、OBOGは「先輩たちはいつでも優しくて、皆さんのおかげでやってこれたと思う。今度はその先輩方と同じ立ち位置で活動ができ、輪を広げることができる」「重点コースの研究室とは違う研究室にも、その先生の好意で行かせてもらってました。いろいろな経験を積ませてもらえたことはありがたかった」と、「大学と先輩たちへの恩返し」を挙げる。「卵」を卒業後、大学や学部、学年が異なっても、科学に興味を持った仲間としてつながることができるという点も大きな魅力となっていることがうかがえる。渡辺先生は、「通常は選抜すると、選抜者だけのプログラムを実施することが多いと思うのですが、東北大学は基礎から発展コースに選抜した後も、1年を通じて講義を行います。選抜はするけれども全員に等しく講座は行う。1年かけて絆も深くなり、育ててもらったという思いが生まれてくるんだと思います」と話す。

(左から)“ひよこ”として、「科学者の卵養成講座」の運営を手伝っている、東北大学の工学部 高橋宏輔さん、医学部 原 俊太朗さん、工学研究科 門間 航輝さん、農学部 佐久間 結菜さん。「大学に入ると自分の学部の人としか関わる機会がない。一時期同じような関心と興味を持った人たちと定期的に会えるのは大きな財産」と話す。

進路の選択肢を広げるきっかけに

 山形県立米沢興譲館高等学校から来ている高校2年生の安齋 穂乃花さんは、「重点コース」として農学研究科の伊藤 幸博先生の研究室で、カリフォルニア大学リバーサイド校との共同研究に加わっている。研究室に来た高校生が、約1年で論文を出すのは難しいため、その中の図のデータ制作に協力してもらっているという。「小中高大と進むにつれ、物事に対する興味はどんどん下がっていきます。その下がり具合を高校生の時に止めて伸ばしていきたいという思いで、この講座に携わっています。実際、安齋さんのような熱い思いを持った高校生の存在は大学生にも刺激を与えていますね」と指導に当たる伊藤先生は話す。小学校の頃から自由研究が好きで、中学でも自主的に炎色反応や吸水実験などの自由研究を行っていた安齋さんは、学校に貼られたポスターを見て参加したこの講座が「私の居場所」だと話す。「学校ではなかなか関心事が合う友達がいない。ここでは、同世代と自分が好きなことを好きと言える正直な気持ちを出せて、それでつながりができていく。分かってもらえるという安心感がここにはあります」。研究室には月1回、片道2時間かけて通い、8~9時間研究を行う。先生方、先輩、海を越えた大学との交流が楽しくてたまらないと安齋さん。そろそろ受験が見えてくる時期だが、ご両親は安齋さんにとってこの講座がどれだけ大切か理解してくれているので、講座の活動を制限するようなことは言わないという。安齋さんが見つめるのは大学の先にある自分の将来だ。「病弱だったので病院に行く機会が多く、将来はお医者さんになりたいと思っていましたが、ここにきてさまざまな専門家の皆さんと交流するうちに、違う分野や研究の道も見えてきて今迷っています。一つのことに固執するのではなく、いざ進路を決めるときにやりたいことができるようにしておきたいと考えています」。

 安齋さんと同じく、将来の進路に影響を受けたと千葉の高校から来ている家本 康ゆにさんは話す。宇宙に興味はあったが、高校には科学の実験も科学部もなく、物足りない思いをしていた時に、高大連携の取り組みに関する記事を偶然読んだことがきっかけで、自分で調べてこの講座に参加することに。「先生方は自分が全然知らなかったことについて専門的かつ最先端の話をしてくれますし、直接質問できるのが楽しくて、なるべく手を挙げるようにしています」と話す。宇宙のことが知りたいと思って参加したが、ここにきてさまざまな分野にいろいろ興味が湧いて今は迷っているという。「日本だったら東北大学に行きたいと思いますが、今は海外も視野に入れています」。

「科学者の卵養成講座」の卒業生の進路を見ると、受講生の7割強が東京大学・京都大学を含めた国公立大学へ進学し、東北大学へも約2割強が入学している。安藤先生は「高校で勉強することが大学やその先の社会でどのように役立ち、つながっているのか。そのつながりとか、学んだ内容の次が見えてこないと勉強への動機付けが生まれないんです。受講生選抜時では学力はテストしていないんですが、この講座を機に学力が伸びたという高校生が多いのは、その動機付けをここでできている証拠だと思います」と話す。講座ではルーブリックを用意しており、高校生が自分の能力が講座の前後でどのぐらい伸びたのか、自身で評価し、見える化していることも大きいだろう。また講座に対するアンケートも取り、内容もブラッシュアップさせている。

 2022年度からは、岩手・弘前・秋田・山形・福島大学といった東北圏の大学とも連携し、教授がお互いの講座で講演し合ったり、東北大学の講座に参加している他県の高校生の指導を地元大学がフォローすることも徐々に進めているという。東北大学内でも、アントレプレナー教育、女性の活躍支援など複数のプロジェクトが走っており、それらとの連携も検討するなど、長年実績を出している同講座のリソースをベースに、新しい要素を加え、さらに進化を遂げようとしている。

伊藤先生と研究内容について議論を交わす安齋さん。「学校外の自分と同じ共通の興味を持っている子も知りたいし、自分が興味のある分野に精通している教授も知りたい。いろんな方向にアンテナを巡らせば、受信させてくれるのがこの講座」と話す。

数学も物理も苦手だが、宇宙の写真を見て関心を持つようになったと言う家本さん。「学校で理系に進むとなると看護や薬学がほとんどで、あまり話が合う子がいないんです。後輩に話が合う子がいて、この講座のことを話したら、来年やってみようかなと言ってくれました」と話す。

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