Program新潟大学ダブルホーム
~地域と共に創る「新たなふるさと」~
新潟大学ダブルホームは、学部・学科という専門分野の学びの場(第一のホーム)の枠を超えて、多様な専門分野に属する学生が教職員と共に第二のホームを運営し、地域活動に取り組む中で人間としての成長を目指す準正課プログラムである。
学生たちは、地域や仲間の思いを大切にしながら、正解のない地域課題に学生・教員・職員によるチームで取り組み、地域の思いと向き合う中で「自分たちに何ができるか」を考え、活動を計画・実践・省察することで、これからの社会生活に必要なシチズンシップやチームワーク力を身に付けていく。
学部を超えた仲間との交流を深める場となるだけではなく、多様な価値観の人々との触れ合いから生まれるコミュニケーション能力の向上、生活者の立場で社会課題を見つめることで実感する自分の専門分野や新たな知識の必要性と重要性の認識といったさまざまな効果が認められている。
活動レポートReport
学部や学科を超えた「第2のホーム」で地域課題に取り組む
新潟大学 教育基盤機構が運営する「ダブルホーム」は、学生と教職員が正解のない地域課題にチームで取り組む準正課プログラム。学生が社会で活躍するために必要な力、特に「人と関わる力」を教職協働で育むことを目指し、2007年から始動した。ネーミングには、第1のホームである「学部・学科」を超えた学びの場「第2のホーム」で、地域の暮らしに密着した「新たなふるさとづくり」を行うという意味が込められている。
現在、対象地域は新潟県や山形県の18カ所に広がり、2021年度は1~4年生、院生を含めた466人の学生が参加。各地域での活動には1~3人の教職員が付き、地域伝統の学習や環境保全活動、農業のお手伝い、子どもたちを対象としたイベント開催など、地域の方々とさまざまな内容の活動に取り組んでいる。
まずは導入授業(正課プログラム)「ダブルホーム活動入門Ⅰ」において、グループワークやケーススタディを通して、自己認識力・他者尊重の心・コミュニケーション力などの汎用的能力を身に付けていく。「入門Ⅰ」の受講中に希望するホームに加わり、「入門Ⅱ」では地域での実習やプロジェクト企画・報告会を通して、上級生と共にチームワーク力を向上させていく。入門科目を担当する教育基盤機構ダブルホーム支援室の櫻井典子特任准教授は、「地域での活動の前に地元の方々と関わるうえでの心構えを学び、地域に出た後はそこの魅力を発見して、自分がやりたいことをチームの中で見つけていきます」と話す。
ほとんどの学生が1~4年生まで同じホームに所属するため、「4年間の成長が見て取れる」と、同支援室長の大橋慎太郎准教授は話す。「それまでの家族や友人、教職員とは異なる距離感を持って、地域の方々とコミュニケーションをしていかなければならないということに1年生の時に気づき、そこから課題解決のためのスキルやリーダーシップを徐々に学んでいきます。社会と大学の懸け橋になるために自分がどうあるべきかという自覚が出てくる過程がよく分かります」。
そうした自覚が芽生えた学生を対象とした「リーダーシップ演習Ⅰ~Ⅲ」では、各活動の運営や、新入生向けの参加相談会、説明会、地域実習報告会など、全体イベントの企画・運営を通して、企画力・マネジメント能力・ファシリテーション力を身につけていく。
2011年から約10年にわたって、大学と地域の二つのフィールドで講義と実践活動を繰り返し、学生たちのシチズンシップやチーム力を育んできた。2022年度からは、その実績を基にダブルホームをさらに進化させた取り組みがスタートした。
副専攻(マイナー)学修プログラムとして、新たに「ふるさと共創学」を開設
新潟大学では、2021年2月に「新潟大学将来ビジョン2030」を掲げ、「社会とつながった学修者本位の教育システムの構築」を目標の一つとしている。この達成に向け、2022年度から始動したのが「全学分野横断創生プログラム(NICE)」だ。所属する学部の専門分野(メジャー)だけでなく、学部の枠を越えて複数の分野を副専攻(マイナー)として横断して学ぶことができる仕組みとなっている。そのマイナー学習のパッケージの一つとして、ダブルホームでは、従来の「入門Ⅰ・Ⅱ」「リーダーシップ演習Ⅰ~Ⅲ」に、「地域共創演習Ⅰ、Ⅱab、Ⅲab、Ⅳ」の6科目が加えた「ふるさと共創学」を開設した。Iではチームでプロジェクトを実施するためのファシリテーションやプロジェクトマネジメントを、Ⅱでは地域に入り課題を明確にするための社会調査方法やデータサイエンスを、Ⅲでは地域を深く理解する調査力を得るために民俗学や地域資源活用方法を、Ⅳでは学習と実践力の統合力を考察するためにラーニング・ブリッジ(複数の場面における学習をつなげて考えること)を学習テーマにしている。
「この授業を受けなければダブルホームの活動が成り立たないということではありません。これまで地域の中で得てきた情報を効果的に生かせるテクニックや考え方を『地域共創演習』で身に付け、それを地域での取り組みに活かせるようにする。そうした相乗効果を目的としています」と大橋准教授は話す。大橋准教授のほか、6名の教員が「地域共創演習」を担当しているが、2022年度にスタートしてみるとさまざまな課題が浮かんできたという。支援副室長の樋口 健准教授が担当している演習Ⅱでは、地域の課題を明確にするために、情報を洗い出し、構造化して、仮説を導き出し、調査に落とし込んでいくというプロセスを想定していたが、受講生の地域経験の少なさがネックになったという。「たまたま受講生の多くが1年生で、地域社会での経験が限られていたために、課題認識に甘さが出ました。上級生に入ってもらい、その経験を話してもらうなど、アドバイスを受けながら授業を進めることができました」と話す。また大橋准教授が担当するクラスは当初30人定員を想定していたが、実際は3年生一人の受講となった。「その分、一対一で私が理想としている授業はできましたが、これが定員近くまで受講していたら手が回らなかったでしょう。見込みが甘かったと思っています」と振り返る。
一方で、受講生からは「今まで気づかなかった多角的な視点を知ることができて刺激的だった」「地域課題に対する意見や見方、経験が皆違うということに驚くとともに、今まで自分の狭い経験の範囲内でしか物事が見ることができていなかったことに気づいた」などの声が出て好評だったという。こうした初年度の結果を踏まえて、授業の内容の精査、またダブルホームへの相乗効果を生み出す仕掛けに力を入れていきたいと大橋准教授、樋口准教授は話す。
この3年間、新型コロナの影響で活動は一部オンラインを取り入れたり、もしくは取りやめになったことも多かった。それだけに、地域の方たちの表情、声の大きさやトーンなど、オンラインでは伝わらない、直接的な交流から得られるものがいかに重要であり、「みんなが一緒になって喜んで、笑顔になって、感動できる。それがダブルホームの意義だと改めて感じる場面が多々ありました」と樋口准教授は話す。
大橋准教授は地域からの期待も大きいと話す。「学生たちだけでなく、地域の人たちにも影響を与えているように思います。18歳から22歳の人材を教育というプロセスを通じてどのように地域社会に還していくか、つなげていくかということは大学に課せられた社会的な役割ではないかと考えています」。
実際、活動していた地域へ移住・就職し、地域側の窓口になってダブルホームを受け入れる卒業生もいるという。地元に対して、「将来を担う人材」という大きな還元を行っているとも言える。「ふるさと共創学」はアカデミックな知識やスキルを「人材」にプラスして還元する一歩となるだろう。