外部の人と交流し、「正解」のない世界を体験する
東京都立両国高等学校(カテゴリー1 │ 2020年度)
認定NPO法人 日本ファンドレイジング協会(カテゴリー2 │ 2020年度)
2020年度の助成先である東京都立両国高等学校と日本ファンドレイジング協会がコラボし、2021年7月から2022年2月にかけて、「総合的な探究の時間」の授業を18回にわたって行いました。担当の芝原 玲那先生と講師を務めた協会の大石 俊輔さんに8カ月間の授業を振り返っていただきました。
今回、日本ファンドレイジング協会(以下、協会)が実施されたのは、 「Learning by Giving(以下、LbG)」という授業でしたね。具体的な内容を教えていただけますか
大石: LbGは、協会に託された寄付金の一部を子どもたちに託し、寄付先候補となる複数のNPO を自分たちで調べ、議論し、選択をし、最後に一つのNPOに寄付していくというものです。今回生徒に託された寄付金は30万円でしたが、実際にまとまったお金を寄付するということで、子どもたちは真剣に悩み、意見を交わしてくれます。何校か実施してきましたが、こんなに長期間の取り組みは初めてでしたし、寄付先候補はこれまでは協会で用意してきたのですが、今回は生徒たちに調べてきてもらいました。これはいいアイデアでしたね。
芝原:夏休みの宿題としたのですが、例えばお母さんの知り合いの人がやっているNPOを調べてきたりなど、自分の身近にある知らない世界を知ることができたいい経験になりましたよね。生徒に提案してもらった32のNPOを議論し合って4つに絞っていきましたが、その議論も「自分事」として話すことができたんじゃないかと思います。
大石:どんなNPOが出てくるのかなとドキドキしていましたが、見事に全部バラバラで。絞った4つのNPOは協会とこれまでお付き合いがなかったところもありましたが、どこもありがたいことに協力的でしたよね。やはり学校や生徒たちに理解してほしいという気持ちが強いんですね。
芝原:高校生が、家族や学校以外の社会や大人と接点を持つということはとても貴重な体験だと思うんです。実際その4つのNPOにもフィールドワークとしてお邪魔したんですが、それもとても貴重でした。NPOが運営している子ども食堂がある場所を歩いてみたら、周りにコンビニも何もない。だからこそ食堂が必要なんだと分かったり、荒川に行ったら想像以上にごみが多くて、ごみ拾いがいかに大変で重要かが分かったり。子どもの貧困に取り組むNPO の方に、「今見えている世界はあなたの幸せな世界で、それは世界の一部分にしかすぎない」と言われた時に多くの生徒たちが衝撃を受けていました。模擬試験も受けたくても受けられない子どもたちもいる、自分たちが「普通に」暮らしている毎日は、誰かの愛情の下で成り立っているから、その愛情を誰かに返さなければならないということに気付けたんだと思います。
外部の方が「探究の時間」に関わる意義は そこにありますよね
芝原:私たち教師が「考えてごらん」と言っても、生徒たちは正解をくれると思って待ってしまうんですよね。私たちも正解を教えることに慣れ過ぎている。だから正解をくれるとは限らない外部の人に入ってもらうというのは大事なことなんです。生徒たちは正解を与えられる世界にいたからこそ、正解がないことに出合ったときに戸惑ってしまう。しかしそれが「社会」であり、「世の中」で、その中でより良い答えを見つけるにはどうしたらいいかというプロセスを体験することになるわけです。 実際外部の人たちと連携してみると、想像している数十倍助けてくれるんですよ。生徒に期待してくれている、生徒にこうなってほしいという思いを、私たちも生徒も肌で感じることができたのは大きな収穫だったと思います。
大石:最終回の授業では、「寄付とは何か」という話をしようと思っています。最初にこの話をしても、ピンとこないと思うんですね。しかし学校の座学で学んだことが、社会に出て話をして聞いて、体験するということがセットになると、確かな知識となって自分の中に定着していく。手前みそな話ですが、これが高校が求める探究の形なんじゃないかなという気がしますよね。戸惑いの中で、なんかよく分からないけど面白いとか気になるとか、そういう宙ぶらりんな「きっかけ」が、大学から先の学問を学ぶ動機付けになるんじゃないかなと。そういうきっかけをいろんな角度から伝えたり、引き出したりしていきたいと思っています。
生徒の皆さんにはどんな変化がありましたか
芝原:これまでは大人がつくってくれた社会の中で生活していたけれども、自分たちはその社会を「つくれる側にいる」と、気付いたことは大きかったんじゃないかと思います。今日の授業の中でも、一人の生徒から「寄付先を決めるときに功利的な観点で判断してもいいのか」という意見がありましたよね。あのような鋭い意見が出てきたことに驚きました。自分たちが社会の中で主体的な存在になり得ることを実感したからこその意見ですよね。当初想定していた以上の「成長」があったと思います。
大石:私も内心驚きました。実は今米国では、寄付した金額に対して10 倍・20 倍の効果が出るかどうかというような功利主義的な考えによる寄付が若い世代のトレンドになっているんです。一方で寄付はもともと他人に利益を与える行動、つまり利他的な行動であって、何か自分に返ってくる、効果が大きくなるということを前提にはしていないという意見もあります。海外では寄付をめぐって、功利的な考えは「利他的=寄付行為」であり得るのかという学術的な課題提議が出ている中で、今日両国高校の皆さんがまさにそうした課題を自分たちの肌で感じ、ポッとそういう意見が出たので驚きました。海外での議論に決着がついていないように、この授業の中でもその「答え」はないんです。あなたにとっての寄付はどんな意味や価値があって、どうすることがいいのかを考え抜く。調べれば調べるほど分からなくなってくると思うんですよ。生徒の一人から「頭がぐちゃぐちゃ」という意見も出ていましたが、まさにそういうことなんですよね。それが「探究」につながるんじゃないかと思います。
素晴らしい成果が確認できた取り組みでしたが、そもそもお二人とも連携当初は三菱みらい育成財団の助成先であることはご存じなかったんですよね
芝原:そうなんです。外部連携先として東京都が挙げている候補先に協会さんがありましたし、また私の知り合いも協会さんと縁がありまして。寄付先を生徒に意思決定をさせてもらえるという点が面白いなと思い、連絡を差し上げました。その後に、お互い助成先であることが分かったんです。
大石:助成先として同じ目標や想いを持っているということが分かって、安心感のようなものがありましたね。これまでもこっちも一歩、相手の高校にも一歩出てもらってという感じで連携してきたのですが、一歩踏み出すのが難しいという学校さんがいるのであれば…。
その橋渡しやコーディネートをしていくのが今後財団の課題の一つだと思っています。 お二人のコラボはその動きを後押ししてくれるものだと思います。本日はありがとうございました。