Program“探究とは何か”を問える探究者
-社会に根付くラーニング・プログラムを目指して
本校では、包括的な教育プログラムとして「総合的な探究の時間(La GAYA Scienza a Mitsuta※)」に取り組んできた。「社会探究プロジェクト(通称:シャカ探)」は,その一環として、2016年から本格化したラーニング・プログラムである。
2学年の全生徒が、実社会をフィールドとし、「自分たちが問うべき問いは何か」「なぜ、自分たちがそれを問わなければならないのか」など、問いに問いを重ね、思考のプロセスを個人・グループで言語化していく学びである。また関わる教員にとっても、生徒への関わりの適切なタイミングや表現などの教育力を高める機会として位置付けるものである。シャカ探は、地域住民や行政や企業の関係者など、シャカ探に関わる全ての個人・団体が、学び(ラーニング)を通じて問うべき問いは何かを探究していくことを目指している。本助成を通じて、単なる教育プログラムではなく、地域に根付き、社会の中に位置付いた組織的なラーニング・プログラムの実践を推進する。
※ニーチェ全集(8巻)から「La gaya scienza(悦ばしき知)」を引用し、『生きる力』の育成、自己の興味関心を大切にした軽やかな“知”の獲得という願いを込めて命名。
活動レポートReport
実社会を生き抜く柔軟性を生徒・教員も身に付けていく
広島県立呉三津田高等学校の「総合的な探究の時間」は、ニーチェ全集から“LaGAYA Scienza(悦ばしき知)”を引用し、“La GAYA Scienza a Mitsuta(通称GAYA〔ガイヤ〕)”と呼ばれている。1年生は基本的スキルの習得、2年生はグループでフィールドワーク(FW)などを行いながら「問うべき問いは何か」を探究していく「社会探究プロジェクト(通称:シャカ探)」、3年生は1・2年次を振り返りながら「社会の中で自分はどう生きていくか」についてまとめる。シャカ探は2016年にスタートしたプログラムで、「生徒たちの『問いたい』から始まると自己満足で終わる可能性もあるので、『なぜ自分たちがそれを問わなければならないのか』について、生徒同士、生徒と教員とで徹底的に議論していきます」と、GAYAを主導する川本啓正先生は話す。安易に社会課題の解決法のアイデアを競うのではなく、問いに問いを重ねる中で思考を磨き、そのプロセスを言語化していくことを重視している。「シャカ探で問いを深め、思考のプロセスをたどったことが大学でも活きていると卒業生から聞くと、うれしいですし、取組の意義を改めて認識します」(川本先生)。
一方、教員はシャカ探では到達目標の設定や具体的なアドバイスといった指導は行わない。教科教育の現場とは異なる「教育力」が問われることになる。またシャカ探は今年度で8年目となるが、教員向けのマニュアルはない。「この間も教員から『どうしたらいいかわからない』という声が出たんですが、それでいいと思ってます。マニュアルがあると生徒たちの探究そっちのけで、そちらに合わせようとする可能性があります。『わからない』『困った』という声に対して都度都度皆で議論する。それが大切だと思います」と川本先生は話す。年度末には大学の教授に入ってもらい、1年間を振り返りながら、教員の疑問や意見を踏まえて、来年度の重点ポイントなどを決めていくという。現在、理数探究類型の生徒は理数系のテーマで探究を進めているが、これも理数系を担当する先生からの意見を取り入れて変更したものだ。
7年前にシャカ探をスタートさせたのは、「様々な物の見方・考え方を柔軟に駆使していく力がなければ実社会では通用しない」という思いからだという。その柔軟性は、生徒だけでなく教員にも求められる。マニュアル不要は、同校のそうした考えの表れの一つでもある。