Program実践知を育てる
― 今とこれからを豊かに、確かに生きる人間力の形成プログラム ―
本プログラムは、東本願寺を本山とする真宗大谷派の宗門校として、不断の省察に基づく自己認識と他者への思いやりを備えた豊かな心を持ち、自律的・主体的なキャリアを形成することができる人間の育成を目指すものである。プログラムの運営は、2019年度に新たに設置されたリベラルアーツセンターが担当し、21世紀の社会において求められる教養を、人間性の深化、ウェルネスマネジメント、地域貢献、データサイエンス、知の探求の5カテゴリに整理し、12件の実行プログラムを提供する。
実行プログラムの中核は対話的活動による全学必修科目で、現代社会の課題を仏教的倫理観に基づき考察する。特色ある取り組みとしては、京都府および京都市が公開している種々のデータを分析する。1200年余にわたり形成された古都京都は、単なる歴史遺産というにとどまらない多様性に富んだ人間文化を備えている。その特性をデータ分析によって検証し、魅力を発見、発信する。
独自の実施形態として、正課授業と、教職員と学生との協働による正課外活動との組み合わせによるプログラムを展開する。授業と正課外活動とのシナジー効果によって、相互に学び合い独創性を高める環境を創出し、自ら一歩を踏みだす人材の育成を推進する。
活動レポートReport
確かな自己認識のもと、自律的・主体的にキャリアを描いていくために
1939年の設立から80年以上にわたり、仏教精神に基づく女子教育に取り組んできた京都光華女子大学。校名にある「光華」とは仏教の経典の一節に由来するもので、「清澄にして光り輝くおおらかな女性を育成したい」との願いを込めて名付けられたものだという。「本学の校訓に掲げる『真実心』とは『仏の心=慈悲の心』であり、寄り添う心、他者への配慮、共に支え合う心のこと。次世代型教育として重視される対話型のアクティブ・ラーニングや、昨今、世界的な課題となっている持続可能な社会づくりにも通じるものと考えています」と語るのは、リベラルアーツセンターのセンター長を務める朝比奈英夫教授だ。
同センターは2019年に新設されて以来、「現代社会を生き抜く力」と「ライフステージに対応する教養」を身に付けるためのリベラルアーツ教育を、全学共通の学びとして推進してきた。それらに加えて2022年度から「実践知を育てる」プログラムを立ち上げた。その目的は、情報やサービスが氾濫する現代社会において、しっかりと自己認識しながら、自らに必要なものを取捨選択し、自律的・主体的に世界を広げていく学生を育てることだという。
「自己認識を深めるには、多くの他者と積極的に関わり、対話することが重要ですが、本学は大学院や短大を含めて約2,000名という小規模校ゆえに、気心の知れた少数の友人のみで人間関係が閉じてしまう傾向があります。昨今のコロナ禍でそうした傾向に拍車がかかるなか、閉じた世界に安住してしまわないよう、未知なる世界と接する機会を増やす必要があると考えました。そこで、これからの社会で求められる知識・教養を、他者との対話や経験を通じて身に付けてもらうべく、本プログラムを立ち上げました」(朝比奈教授)。
2つの中核プログラムをはじめ、古都・京都の宗門校ならではの特色ある学びが充実
初年度となる2022年度は、12の実行プログラムのうち10件を実施した。なかでも中核と位置付けられ。全学科の1年生全員が参加した2つのプログラムを紹介しよう。
プログラム1「他者と生きる×仏教的倫理観」は、前期の必修科目「仏教の人間観」内で実施。「戦争」をテーマとした外部講師による講座を受講したうえで、10名一組でグループディスカッションを行った。戦争という非日常の環境下でどのように生きるかといった、普段は考える機会のない問いについて語り合うことで、「暴力がないこと=平和と思っていたが、構造的な暴力は日常的にも存在することに気付かされた」など、学生たちに新たな認識をもたらしていた。
プログラム8「AIの論理・人間の倫理×データサイエンス」は、これからの社会に不可欠なAIとの付き合い方について考えるもので、後期の必修科目「アカデミックライティング」内で実施。プログラム1と同様、講義を踏まえたグループディスカッションを展開し、その成果を各自がレポートにまとめて発表した。これら一連の流れを通じて、学生たちはAIという先端技術に対し、自身の日々の生活と照らし合わせながら主体的に向き合う重要さを認識していた。
中核プログラム以外にも、古都・京都で80年の歴史を積み重ねてきた同学ならではの学びが充実している。例えばプログラム5「京都の世界遺産×京都の観光データの分析」は、世界遺産寺院仁和寺を対象に、地域社会から得られたデータをもとに課題の発見・解決に取り組むもの。身近な存在でありながら、普段はあまり目を向けない地域の歴史遺産について、改めて考える機会になった。同プログラムは「大学コンソーシアム京都」との連携科目のため、他大学の学生との交流機会にもなり、異なる個性や価値観に触れることで多くの気づきが得られたという。
正課授業と正課外活動のシナジーで、より充実した学生生活を
「本プログラムの大きな特徴が、正課の授業と正課外活動との組み合わせで実施されていること。両者のシナジー効果によって、学生同士が相互に学び合える風土を育むとともに、必要な学びの場を自ら創出できる人材育成を目指しています」と朝比奈教授は語る。
大学における正課外活動と言えば、まず思い浮かぶのが部活やサークル活動だろう。同大学でも文化系、体育系とも多くの部・サークルが活動しており、プログラム3「ウェルネスマネジメント×日本の伝統文化」で和装を取り上げた際には、着付けサークルと連動して、より深い学びを実現している。
加えて、同大学独自の正課外活動として、2012年度から続いている取り組みがラーニングコミュニティ「学Booo(マナブー)」だ。読書やネイル、まちづくり、SDGsなど、多様なテーマのコミュニティの中から、興味・関心あるテーマを選んで自由に参加できる。「正課外活動は大学生活を豊かにする重要な要素ですが、興味のある部・サークルが見当たらない、通学に時間がかかるなどの理由から、参加できない学生も少なくありません。学Boooは各学部の教職員が幅広いテーマを用意しており、部・サークル活動に比べて参加のハードルが低く、掛け持ちも容易なため、より多くの学生が新たな出会いや気づきを得るきっかけになればと期待しています」と朝比奈先生はその意義を語る。
さらに2022年度には、課外の学びに目を向けてもらうための“呼び水”となるべく、少人数で行うサロン形式の講座「光華サロン」を立ち上げた。初年度はパイロット的に4講座を開催し、いずれも和気あいあいとした雰囲気のもとに実施された。
「2022年度の活動を振り返ると、プログラムに参加した学生からの評価は高く、以前よりも前向きな姿勢が見られるなど、大きな手ごたえを感じています。一方で、課題となるのが、いかに参加者を拡大するかです。全員参加である中核プログラム以外は、まだまだ参加者が限定されています。今後は学内外への広報活動を充実させるとともに、学Boooや光華サロンなど正課外活動との連携を強化することで、プログラムの目標である、豊かな心を持って自律的・主体的なキャリアを形成できる人間育成につなげていきたいと思っています」(朝比奈教授)。