大学生・高校生が「平和」について考える合同授業

広島県立呉三津田高等学校(カテゴリー1 │ 2022年度)

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関西学院大学 ハンズオン・ラーニングセンター(カテゴリー4 │ 2021年度)

  2月8日、広島県立三津田高等学校にて、関西学院大学の学生との合同授業が行われました。これは、同大学ハンズオン・ラーニングセンター(HoLC)の社会探究実習「広島・江田島平和フィールドワーク(FW)」の一環として実施されたもの。被爆地ヒロシマと海軍の町・呉、またその二つの地域と深い関わりがある江田島を拠点にした6日間のFWを通じて、「昭和20/1945年の社会」を理解し、当時の「いま」を生きた人たちと、自分たちの「いま」をつき合わせて、「平和とは何か」を探究する内容となっています。

  実習の1日目は広島平和記念公園・原爆資料館を見学、2日目は海軍兵学校の生徒が訪れていた品覚寺を訪問、3日目は戦中のことを知る江田島住民の方にインタビューを行いました。そして4日目に、呉三津田高校で合同授業を実施しました。

 

実習には、大学1年生17人が参加。原爆資料館を見るのが初めてという学生も

1577年開山の品覚寺。明治時代に海軍艦艇の追突事故が起こり、追悼法要を営んだことをきっかけに、海軍兵学校の生徒が訪れるようになったという

品覚寺に伝わる、「津久茂帳」には、兵学校の生徒たちの戦争、故郷への思いなどが書かれており、当時の世相が伝わってくる。学生たちはそれらを読んで、当時の若者の考えに思いを馳せる

江田島町交流会館で、原爆投下や終戦間際の日々の生活について、当時を知る住民の方々へインタビューを行う学生たち

  両校の合同授業は、HoLCの木本浩一教授が、呉三津田高校の「総合的な探究の時間」の見直しに協力したというつながりから、7年前にスタート。大学生があらかじめ高校生たちと対話したい「平和」のテーマを提出し、高校生たちはその中から二つ選んで参加する仕組み。一コマ50分、大学生がテーマを設定した思いや背景について話した後、高校生たちと対話をしていきました。

「平和教育の必要性」のテーマについて話し合った高校生からは、「広島の平和教育で戦争について知った気になっていたが、修学旅行で沖縄に行って、自分が知っていたのは一面だということに気がついた」など、原爆だけでなく日本各地の戦災にも視野を広げたり、米国の意見なども聞いて多角的な視点を取り入れる、VRなどの最新技術の導入が必要、という意見が出ました。「日本国憲法から見た平和」のテーマでは、在日米軍は日本を守ってくれているのか、それとも逆に敵に狙われやすい、安全を脅かす存在になっているのかについて、ロシアのウクライナへの侵攻という社会背景も交えながら、議論が交わされていました。

  午前中に合同授業を終えたHoLCの大学生たちは、午後から体育館で行われた呉三津田高校の2年生による社会探究プロジェクト学習ポスターセッションにも参加。同校の1年生や地域の教育関係者や住民、保護者の方々と一緒に発表内容を聞き、高校生たちに質問をしたり、意見を交わし、感想やアドバイスをあらかじめ配布された評価シートに書き込んでいきました。

  この合同授業には、広島県教育委員会をはじめ、広島県立廿日市高校や島根県立隠岐島前高校の生徒たち、高知県梼原町教育委員会の方など、Good Practiceから学ぼうとするさまざまな立場・地域の教育関係者が参加。翌日には教員同士の意見交流会が行われ、大学生たちは呉三津田高校の高校生たちに呉市を案内してもらい、一連の実習を終えました。

合同授業は呉三津田高校の2年生全員を対象に実施。関西学院大学・兒玉真咲さんの「平和教育」をテーマにしたクラスに参加した高校生たちは、「平和教育そのものについて話す機会はなかったから新鮮だった」と話す

準備をしっかりして臨んだという関西学院大学の石上千尋さん。「それでも高校生の質問に答えられないことがありました。僕が教えられたことがたくさんありました」と話す

ポスターセッションでは、呉から見える社会課題、またはサイエンスの課題を発表。高校生たちの発表に、関西学院大学の大学生たちが今度はいろいろな質問を投げかけた

ポスターセッションには市議会議員や地元の中学校の校長先生、呉市役所、広島国際大学、また探究の過程でお世話になった地域の方々や保護者など多くの方が訪れた

Voice

呉三津田高校の高校生の皆さん

幼稚園の頃から平和教育は受けてきましたが、「平和の中の平等」というテーマはなかなか聞いたことがなかったので興味を持ちました。平等・公平に対する考え方は人それぞれで、皆がそうなってほしいと思っていてもなかなか現実的には難しい。他の皆はどう思っているのか、意見交換したくて参加しました。

原爆と絡めてカープファンを侮辱する言葉がtwitterで使われたというニュースに衝撃を受けました。広島で平和教育を学んだ僕からしたら信じられないことでしたが、平和教育は全国一律で行われているわけではないということを知り、ちゃんと戦争について知ればそうした言葉は出てこないのではないかと思いました。ずっと引っかかっていたこと今日みんなと話せてよかったです。

HoLに参加した関西学院大学の大学生

教科書など決められた教材で学ぶのではなく、自分で主体的に動く授業だと知って参加を決めました。FWだけの授業では、「こういうことがあったんだ」で終わってしまいますが、「高校生に伝える」となると、自分の考えを精査し、本質的なものは何かと考え抜くプロセスが生まれます。そうした経験ができるのがこのHoLの魅力だと思います。

大阪出身の私は、夏休みにHoLCの「平和学特別演習ヒロシマ」に参加し、広島の中高生の平和への意識がまったく違うことに初めて気がつきました。今回、「平和教育」をテーマに話をしたのですが、改めて呉三津田高校の生徒たちが受けてきた平和教育の深さを感じ、平和に対する自分の意見や考えをしっかり持っていることに驚きました。

びっくりするほど高校生が熱心に対話・発表してくれました。大阪出身の私には驚きでしたが、平和教育を受けてきた広島の高校生たちは「平和」というテーマにすっと入っていける素地があるんだなと感じました。今後、英語のプレゼンテーションの大会に参加する予定ですが、今日の体験をテーマにして発信していきたいと思います。

生徒の日頃の「社会探究」の成果を発揮する場に

呉三津田高校 川本啓正先生

  当校でも「社会探究」の授業を行っていますが、テーマはさまざまで、平和に限ったことではありません。その中でHoLCの「平和を考える合同授業」をどう位置付けるかという点について、教員間で議論してきました。そもそも「社会探究」の目的は考えることを鍛えるというもの。どのようなテーマや文脈であろうと、社会探究で生徒たちが身につけてきた批判的思考、本質を問う力、考える力を大学生に対して発揮できる場ではないかと考えています。実際生徒たちが大学生を相手に堂々と意見を述べている姿を見ると、日頃の頑張りを出せているのではないかと思います。

大学の枠を超えて社会の中で高等教育を展開していく仕組みを

関西学院大学ハンズオン・ラーニングセンター 木本浩一教授

 高等教育は大学だけしかできないという先入観が強くありますが、私たちは高等教育を大学から引き剥がして、社会の共有財産にしたいと考えています。目指しているのは、大学の枠を超えて、学外の関係者と一緒に高等教育を行う環境を構築していくような「多拠点型高等教育プログラム」。どのようなテーマや地域であっても汎用性が高い、高等教育の“オペレーティングシステム”の開発です。この呉三津田高校との合同授業をはじめ、HoLCのプログラムは全国で展開しています。学生たちによる学びの支援グループ「HoL+(ホルプラ)」も立ち上がり、今後、多拠点での展開の強化を図っていきます。HoLCのプログラムに関心がある方はぜひお声掛けいただければと思います。

コラボレーションに関わった皆さん

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