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教員向け研修で創造的コミュニケーション力開発プログラムを実施
株式会社3in(カテゴリー5 │ 2024年度)
一般社団法人 ELAB(カテゴリー5 │ 2022年度)
2024年11月17日に、山口大学大学会館(山口県山口市)にて、株式会社3in(サンイン)主催の「先生の探究学習プログラム 先タン」講座が開催されました。3inは、主に山口県内の高校における探究学習・起業家教育の支援事業を行っており、2024年度から教員を対象とした探究学習・起業家教育の体験プログラム「先タン」をスタートしました。最終回となる第5回目11月17日の回には、日曜日にも関わらず、山口県や他県から教員や教育関係者など約100人が参加しました。
前半の講演では伊藤羊一氏(武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部長、LINEヤフーアカデミア学長)がリモートで講師を務め、後半は3inと同じく当財団のカテゴリー5の助成先である一般社団法人ELABが「創造的コミュニケーション」を体験を通して学ぶプログラムとして「EGAKU」を実施しました。
教員が生徒の立場で探究活動を体験する「先タン」
教員が生徒の立場になって探究活動を体験することを特徴としている「先タン」では、「第1回:なぜ今、探究学習・起業家教育が必要なのか?」「第2回:自己認知&探究テーマとゴールの設定」「第3回:企画書作成&フィードバック」「第4回:企画のプレゼンテーション」と、実際に生徒たちが探究活動をする際に体験する一連の流れをテーマとして扱ってきました。第5回目のテーマは「プロジェクトをどのように推進するか?」、中でも「巻き込む」ということに重点を置いて、講座が進められました。
伊藤羊一氏は「日本とアメリカの経済成長の差は、個人の“妄想”を仲間と形にできたかどうか、すなわちアントレプレナーシップの差である」と述べ、教育やビジネスの分野において、対話や議論の場で自分の思いを共有し、それを実現して新しい価値を生み出すことの重要性を強調しました。
「EGAKU」の体験を通じて創造的コミュニケーションを学ぶ
後半は、受講者にELABのワークショップ「EGAKU」を体験してもらいました。 EGAKUは人間が本来持っている創造性を引き出し、不確実性の高い時代を生き抜くための「創造的思考」や「創造的コミュニケーション力」を総合的に高めていくことを目的としたプログラム。ELABの理事である長谷部 貴美氏は「私達が教育事業者として提供するのではなく、先生自身が、体験を通して学んでいただきながら、一緒に授業を設計したり、先生自身が周りを巻き込みながら学校全体に探究型の学びを取り入れられるようサポートしています」と冒頭に事例を紹介。
また、本来EGAKUは鑑賞と創作を組み合わせ、言葉にならないものを絵で表現し、絵で表現したものを言語化するということを繰り返しますが、今回は短いバージョンとして鑑賞ワークのみを実施しました。グループごとに置かれた絵を見て、各々感じたことを書き、その後グループ内で共有していきます。同じ絵を見てもそれぞれ異なる感じ方をしていることを実感した受講者の前で、長谷部さんが絵を90度回してみると、また今までと違う見え方になり、会場内にどよめきが起きました。「同じものでも角度を変えるだけで全然違って見える可能性がある」と長谷部氏。今回参加者に体験してもらったことは、「自身のアンコンシャスバイアス(過去の経験や知識から来る決めつけ)に気づき、異なる他者との意見・感想を受け止める」ことであり、創造的コミュニケーションにおいて重要な要素であることを伝えました。そのうえで、創造的コミュニケーション力となる5つの要素、表現力・観察力・対話力・共感力・自己認知力について紹介。受講者はその要素について自己分析するワークシートに記入・振り返りをして、ワークショップは終了となりました。
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EGAKUの概要を説明する、ELABの長谷部理事。EGAKUは、2002年に小学生向けからスタートし、その後、中学・高校や大学・大学院、社会人へと対象を拡大。現在では延べ2万7千人以上が受講している。
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山口県内の教員のほか、他県からも教育関係者が集まった。
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絵を鑑賞した感想を、全員で共有。思いもよらぬ感想に、受講者も笑顔に。
最後に、本プログラムのアドバイザーである九州大学名誉教授で共創学部長顧問の岡本正宏氏、株式会社EXPE CEOの田口弦矢氏から「巻き込み方」についてのまとめ、本講座のファシリテーターを務めた3in CEOの岩本隆行氏から、全5回の講座の振り返りと今後の展開についてのご挨拶があり、閉会となりました。
翌日は、3inの岩本氏の紹介で、ELABが山口県立下関西高校の生徒を対象に、「先タン」と同様にEGAKUの鑑賞ワークを実施しました。
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講座の最後に挨拶をする3in CEOの岩本隆行氏。「先タン」の次のステップを紹介し、山口県からの教育改革を受講者に呼びかけた。
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下関西高校で行われたEGAKUのプログラムの様子。生徒160人が参加して行われた。
【参加者の「EGAKU」に対する感想】
〇価値観は多様だということを、楽しみながら認識できる点が良かった。
〇自分の授業でもさっそく夢を描きたいと思います。本日頂いたインスピレーションを言語化して実行してみたいです。
〇アンコンシャスバイアスは学校の至る所に潜んでいると知りました。今まで以上に意識したいと思いました。
〇創造的コミュニケーションが、絵を描くという簡単な方法から思いを表現し、相手を尊重するという人間力につながることに感動したので、実際に生徒と取り組んでみたいと思いました。
〇ペーパーテストでは測れない、生徒の深いところにアプローチする手法を学ぶことができました。
【山口県立下関西高等学校の生徒の声】
〇一人の考えには、限度があるし、考え方も一つしかないと分かった。だから他人の考え方や意見を聞くことが大切だと思った。また行き詰ったときなどに、考え方を変えてみようと思う。一つの考え方にとらわれずに、さまざまな見方をすることで浮かんでくる案もあると思う。
〇絵を鑑賞して、今まで自分の経験や知識、今の心の状態がそのまま絵の印象につながること、自分が意外といろんな見方ができていたことに驚いた。
〇何か分からないものを見るとき、自分が今まで経験したことや最近見たものが反映されると気づいた。自分の感じたことを言語化することで、気持ちがすっきりしたり、友達と共有することで、新しい発見があって面白いと思った。
〇絵の向きを少し変えただけで、絵から感じたことが大きく変化した。そのことから少しものの見方を変えるだけで気付けないことにも気づけるのだと分かった。
〇最初から持っている主観に縛られやすいことに気がついた。決めつけようとする前に、周りの人に意見を聞き、客観的意見を取り入れてさらに自分の考えをより良い方向へと導いていくことが大事だと思った。
〇普段真剣に絵を見ることはなかったので、「鑑賞」というと自分には難しいことだと思っていたけれども、いざやってみると、意外と感じたことや思ったことを文章化することはそんなに難しくないんだなと思いました。
〇自分の感情を色として形にすることで、自分の思いがより深く理解できたように感じた。絵に対する感想が一人一人違って、誰もかぶらなかったことから、やはり人間は十人十色で、みんな違うんだなと思った。絵に対する感想が、その人の特徴・性格をとらえているなと思った。人間がみんな違うことに気づけたことで、無理に自分の意見を押し付けなかったり、他人の意見を尊重することができるようになるのではないかと思った。
Voice
株式会社 3in CEO 岩本隆行さん
弊社では県内10校で起業家教育の支援をしていますが、その中で「学校の教員だけで探究学習や起業家教育を実施していくのは厳しい」という声が学校現場から上がっていました。「教科書」もなく教え方も分からない、外部と連携したいがどうしたらいいか分からない…。こうした現場の声に応えるべく、山口大学教育学部に共催、山口県と山口県教育委員会に後援をいただき、「先タン」を実施することとなりました。
当初エントリーは30人程度でしたが、口コミ等で広がり、最終的には100人近くの教育関係者がエントリー、5回のプログラムで延べ300人以上に参加いただきました。特に、現場の先生だけでなく、山口県教育委員会の方や教頭先生などの管理職も参加されている点や、また九州大学の岡本名誉教授が監修していただいている関係で、県外からの教育関係者も参加されている点などが、本講座の大きな特徴だと思っています。
全5回の講義は、前半は各テーマの有識者の講演、後半はワークショップという形をとっています。講演内容だけでなく、県内の先生同士の横のコミュニティができるという点についても受講者から大きく評価いただいています。
弊社のアドバイザーである株式会社EXPE CEOの田口弦矢氏から、ELABさんとつなげてもらいました。事後のアンケートでも、アンコンシャスバイアスに気づいた、異なる視点から見ることが大事だということが分かったという声が多く、大変好評でした。
ELABさんには弊社とつながりのある下関西高校も紹介し、高校生向けにもEGAKUを実施され、同校からも評価が高かったと聞いています。2025年度から山口県の進学拠点校は文理探究科を設置することになっています。理系のプログラムに比べ、文系プログラムはなかなかリソースがなく、模索している学校が多いので、そのような意味ではEGAKUはまさに高校のニーズと合致したのではないかと思っています。
一般社団法人 ELAB
理事 長谷部 貴美さん
クリエイティブ・ラーニング・ディレクター 森 真理さん
私たちもこれまで、先生向けの研修を何度も実施してきましたが、約100名の先生が日曜日に講座を受けられているということにまずは驚きながら講座をスタートしました。始まってみると、前向きに取り組まれる先生ばかりで、ますます驚きました。3inさんがこれまで教育現場に寄り添って支援をされてきたからこそ、こうした県全体での教育改革への熱い機運が生まれているのだと改めて思いました。
翌日は下関西高等学校の1年生160人を対象にEGAKUを実施しました。65分という短い時間でしたが、大いに盛り上がり、記入した振り返りワークシートからも、短時間にも関わらず、生徒たちがたくさんの学びを吸収してくれたことが分かりました。
「先タン」に参加していただいた下関西高校の先生からは、EGAKUにとても感動した、自分の授業で使えるエッセンスをたくさん見つけることができたので、自分の授業でも取り入れたいとお話しいただきました。校長先生をはじめ、多くの先生方が熱心に見学してくださり好評価を頂けたことも嬉しいことでした。
さらに「先タン」に参加されていた長崎県の教育関係者の方から、長崎でも実施してもらいたいというお声も頂き、今回の「先タン」をきっかけに、いろいろなつながりができ、3inさんの影響力の大きさに驚いています。
今後もこのようなコラボレーションにも力を入れながら、志ある団体と先生と力を合わせて生徒の可能性を引き出す学びを広げていければと思っています。