Program地域企業と肝心(ちむぐくる)を育む公立高校向けPBL
Okinawa SDGsプロジェクト※に参加する企業40社を中心とした県内の企業と、高校生がそれぞれの当事者意識や原体験を掘り下げながら課題を設定し、解決するための「マイプロジェクト」を立ち上げ、企業のリソースを生かしながら実践を通して深く学ぶ、公立高校での「総合的な探究の時間」向けの企業参画型PBLプログラム。
特徴1:共創型の関係性
企業人材が高校生を「助ける・教える」という関係性ではなく、「共に生み出す」仕掛けをつくる。Okinawa SDGsプロジェクトには「何かを共に生み出したい!」という意欲と経験のある企業が集まっていることで実現する。
特徴2:my感の醸成
企業からのお題を出すミッション型ではなく、それぞれの純粋な興味関心、問題意識をプロジェクトの基軸にすることで、主体性を育む。それを実現するために、Social Emotional Learning(社会性と情動の学習)をベースにプログラムづくりを行う。
※2020年に琉球新報社が主催して発足したもので、沖縄の企業、団体、行政、教育機関などが、あらゆるセクターを超えて連携してSDGsに取り組むプロジェクト
活動レポートReport
火が付いた子どもたちが、学校の雰囲気を変える
沖縄県内でも倍率が高い人気校・宜野湾高校の探究活動は「みらたん」と呼ばれ、一昨年度からrokuyouのサポートを受けてスタートした。「火が付いた生徒たちが、周囲の生徒や先生たちにも影響を与えてくれて、学校の雰囲気を変えてくれましたね」と、rokuyou代表の下向依梨さんはこの3年間を振り返る。火をつけた生徒たちの取り組みの一つが、食べることと自然が大好きという生徒たちの「もぐもぐプロジェクト」だ。給食の残飯を集め、琉球大学の協力の下でたい肥を作り、そのたい肥を使った野菜を育てて、地元のお店で販売、売り上げを子ども食堂に寄付した。これだけの動きを一年の間でやり遂げた生徒たちは、「外のいろいろな人たちに話を聞きに行く中で、食品ロスや地産地消という課題が見えてきて、その解決にはこんなことができるんじゃないかって話し合って動いていったら、子ども食堂への寄付という最終目標にたどり着くことができた」と話す。自分たちの好きなこと、面白いと思ったことを行動に移し、校外の人たちとの接点から得た知識やアイデアを次の行動につなげていったら、こんな成果が出せた。そのようなワクワク感や達成感が、自分たちのプロジェクトについて説明するもぐもぐプロジェクトのメンバーから感じられる。rokuyouのスタッフで同校を担当する白石 綾さんは、「今2年生になった彼女たちの活動は、学校全体で注目されていて、後輩たちの『憧れの存在』が出てきたのはいい兆候だと思います」と話す。
同校での取り組みの一年目はまずは体育館で1・2年生を集め、rokuyouのスタッフが探究のテーマの見つけ方、進め方を教えていたが、現在は主にクラスの担任・副担任の先生が教室内で実施。先生方と相談しながら、約3回の授業で取り上げる1テーマとアクションを設け、授業中はスタッフが生徒や先生のサポートを行い、進捗を見ながら、次のテーマを決めていく。徐々に先生たちが主体となって進められるような体制にシフトしていっているという。
「みらたん」を取りまとめる同校の砂川佳隆先生は、「これまで経験したことがない探究活動に戸惑いを感じている先生も多く、さまざまな相談が寄せられます。そうした先生たちに細かに伴走してくれるrokuyouさんの存在は心強い」と話す。「みらたん」をスタートした年に入学した生徒たちが3年生となり、進路を決める時期になると、探究活動での頑張りや成果をアピールする生徒が増えたという。「PPTの作成スキル・プレゼンテーションも確実に上達しています。生徒の間でも温度差はありますが、全体的に『みらたん』を通して自分の強みや考えを再認識し、発信できるようになってきました。生徒の成長の手ごたえを感じる一方で、探究活動を深化させていかないとというプレッシャーも感じています」と、砂川先生は話す。
県内の企業と学校現場を結ぶ橋渡し役に
2019年に沖縄で設立した教育企画・コンサルティング会社rokuyouは、Social Emotional Learning(社会性と情動の教育)をベースにした活動を行っている。SELは、下向さんが米国の大学院留学中に出合った教育アプローチで、人と関わる上で良い関係性を構築するための能力(Social)と、自分や他者の気持ちの動きに気づいてうまく付き合える能力(Emotional)の二つを育むもの。「社会起業家育成プログラムをしていても響く人と響かない人がいる。その違いは何かを探っていた時にこのSELに出会い、この能力の素養があるかないかが影響しているのではと感じました」と下向さんは話す。SELは教室内での授業だけでなく、学校全体での文化・土壌の構築、また家庭や課外活動、コミュニティといった学校の外との連携も重要になる。下向さんは大阪出身だが、たまたま仕事で沖縄に滞在している中で、地域コミュニティの濃さやエネルギー溢れる子どもたちと触れ、拠点活動を沖縄とすることを決めた。
宜野湾高校との接点は、2020年度の財団助成先でもある認定NPO法人カタリバのプロジェクト「マイプロジェクト」の地域事務局をrokuyouが務めたことがきっかけとなった。同時期に、SDGsに取り組むために沖縄の企業、団体、行政、教育機関など約60団体が連携したネットワークグループ「Okinawa SDGs Project(OSP)」が立ち上がり、参加団体と以前から交流があったrokuyouが学校とこれらの地域コミュニティをつなげる橋渡し役となって、「みらたん」がスタート。その後、宜野湾高校の先生が異動した先の高校や、口コミなどでつながりができ、現在県内5校の学校で探究活動のサポートを行っている。「各校の校風や目標、生徒の特性に合わせて伴走しています」と下向さんが話すように、きめ細やかな対応がrokuyouの特徴といえるが、6名のスタッフという限られたマンパワーでどこまで県内に普及させていくかが課題だった。
そこで2022年の夏に始めたのが、OSPの協力のもとに開催したフィールドワークだ。伝統芸能「組踊」の伝承者やLGBTQの当事者と対話する、紅型の工房を訪れる、ビーガンアスリートと筋トレをしながらサステナビリティついて考える、などユニークなプログラムに県内の中高生約300人が参加した。その中でも最も人気だったのが、在沖米軍との対話だった。「このプログラムは私の個人的なつながりで実現しました。子どもたちに参加理由を聞くと、周囲の大人たちは在沖米軍が問題だと言いながらもなかなか正面から教えたり伝えてくれる機会がなく、結局何が問題なのかが分からない、という声が多く聞かれました」と下向さん。当日は子どもたちから、オスプレイの操縦者に「県民が反対している中でオスプレイを飛ばす気持ちはどんなものか」とストレートな質問が出たりしていたが、場が荒れるようなことはなく、米軍側も住民とのこうした対話を望んでいたと話してくれ、参加した子どもたちからも高評価だったという。「教育・公的機関がこうした場を設けるのはハードルが高く、第三者の私たちだからこそ実現できたと思います。こうして外とつながるための仕掛けを作り、子どもたちが自分の興味・関心に気づけるコンテンツ作りに力を入れていきたい」と下向さんは話す。
また今後取り組むべき課題として、下向さんは「学校や先生の評価」をあげる。「SDGsや社会課題に関するプロジェクトが賞賛される風潮が強く、『一人一人の心のエンジンが駆動している』『自分の価値観や興味関心と深く繋がっている』という観点が、あまり評価されていない傾向にあります。SELに特化した、より一人一人の興味関心を引き出し、それをプロジェクトにつなげていくより丁寧なアプローチを試みようと考えています」(下向さん)。
下向さんをはじめ、20・30代と若い人材が集まるrokuyou。地域に寄り添いながら、みずみずしいエネルギーで教育の在り方を変えていこうとするrokuyouの取り組みが、学校特有の「閉鎖性」を打ち破り、沖縄らしい探究活動をどのように引き出していくか、注目していきたい。