カテゴリー 42021年採択

国立大学法人 東北大学

対象者数 2400名 | 助成額 725.2万円

Program挑創カレッジと学問論でつむぐ
分野横断型リベラルアーツプログラム

 本教育プログラムは、既存の学部専門教育プログラムを柱として維持しつつ、新規開発科目「学問論群」と既存プログラムの「挑創カレッジ」を融合することで、新入生全員に専門分野を横断する少人数教育を提供し、さらに学部高年次でも他分野の学生と協働する高年次教養教育を提供することを目的としている。

 「学問論群」では、初年次学生に高校までの「答え探し(自分の考えを正解に寄せる)」から、大学での「知の創造」に向けた学びの転換の機会を与える。「挑創カレッジ」では、機械学習・国際教育・アントレプレナーシップという現代的リベラルアーツを学ぶ機会を与える。

 これらの科目を通して、知識のインプットだけでなく、自ら問い他者と対話する経験から、「自分達でも知を創造した」という実感を持つ、高い次元の挑戦心と探求心を持つ指導的人材の育成を目指す。

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2030年を見据えたビジョンのもと、転換期の社会に求められるカリキュラムを

 1907年(明治40年)に日本で3番目の国立大学として誕生して以来、杜の都・仙台において1世紀以上にわたる歴史を積み重ねてきた東北大学では、2022年度から教養教育「全学教育」の新たなカリキュラムをスタートさせた。

「そもそも本学で全学教育が始まったのは1993年のこと。大学設置基準の大綱化によりカリキュラム設定の自由度が高まったことを受け、教養教育の内容・体制を全面的に見直し、教養部による基礎教育から、全学が連携して実施する全学教育へと転換させました」と経緯を説明するのは、理事・副学長にして高度教養教育・学生支援機構長を務める滝澤博胤さんだ。

 その後も時代の変化に応じて全学教育の改善を続けてきたが、今回、大胆な改革を行った背景には、2018年に公表した「東北大学ビジョン2030」があるという。「同ビジョンは、2030年を見据えた挑戦的な展望として策定したもので、社会の転換期に生きる学生の創造力を伸ばす教育の展開を宣言しています。その一環として、全学教育についても未来社会に立ち向かうための基盤を身につけられるようなカリキュラム構築を目指し、3年がかりで準備を進めてきました」と滝澤理事・副学長は語る。

 全学教育改革の2本柱となるのが、現代的なリベラルアーツを学ぶ「挑創カレッジ」と、大学での「知の創造」に向けた学びの転換の機会を与える「学問論群」だ。2019年度から先行スタートした「挑創カレッジ」は、挑戦心がある学生が選択して受講するもので、当初は「コンピュテーショナル・データサイエンス」「グローバルリーダー育成」「企業家リーダー育成」の3つのプログラムでスタート。2022年度から新たに「SDGs」「プルリリンガル・スタディーズ(複言語能力)」が加わった。機械学習や留学生との国際共修、さらには企業家に関する知識を実際に体験し、体験知とすることに主眼が置かれている。

 2022年度から始まった「学問論群」では、学生同士で問いを発見し解決できる協働作業の場を設け、高校までの「学習」とは異なる、大学ならではの「学問」を実践するために必要なアカデミック・スキルズを身につけていく。1年次前期に約2,400名全員を対象とした「学問論」を実施し、より深く学びたい学生は後期に少人数によるアクティブラーニング「学問論演習」を履修できる。加えて、これまで低学年次のみを対象としていた教養教育を高学年次にも拡大し、3・4年次に異なる分野の学生同士で学ぶ「展開学問論」を来年度以降に授業設計していく予定だ。

 東北大学では、これら全学教育と、同学の強みである高度な学部専門教育を複合的に融合させることで、伝統的な教養教育と専門教育、さらには現代的な知識やスキルをバランスよく習得できる環境づくりを目指している。

「学問論」では、学問すなわち「学び、問う」姿勢を涵養するため「大学論」「科学史」「学習倫理」「科学技術論」「研究入門」の5テーマを設定。これらの履修を通じて「正解が1つではない問い」に主体的に取り組み、その成果をアウトプットできる人材育成を目指している。

「挑創カレッジ」で学ぶ「現代的リベラルアーツ」について、同学は「地球規模で変革する社会に生きる人材を育成するために必要な知識や技能」と位置づける。気候変動やSDGsなど従来の科目だけでは対応できない社会課題に挑む人材を育成するため、既存の枠組みを超えた科目を設定している。

複雑化する社会課題に挑むための分野横断型の知見を、対話型カリキュラムで学び取る

「挑創カレッジ」「学問論群」の大きな特徴の1つは、文理融合で行われる分野横断型のカリキュラムであることだ。「複雑化した地球規模の社会課題を解決するには、個々の専門領域を越えた横断的な知識が求められます。そこで、従来のように文系、理系といった枠組みを設けることなく、誰もが幅広い領域を学べるプログラムが必要だと考えました」と滝澤理事・副学長は狙いを語る。

 「もう1つの特徴が、知識のインプットだけでなく、レポートや対話などのアウトプットを通じて、自ら知を創造する経験を積んでもらうこと」と、副機構長を務める中村教博さんは語る。例えば「学問論」では、まずは大規模講義による座学で知識を習得した後、個人でレポートを執筆。その内容を少人数クラスによる対話を通じて相互評価を行う。「このようにインプットとアウトプットを繰り返すことで、他者視点からの“気づき”を得て、モノの見方・考え方を相対化することを学んでいきます」(中村先生)。

 こうした対話型カリキュラムを支えているのが、先輩学生が後輩の受講を支援するティーチング・アシスタント(TA)の存在だ。東北大学では、今回の全学教育改革に伴い、1990年代から続けてきたTA制度を改革。授業運営を補助するベーシック・ティーチング・アシスタント(BTA:学部3~4年対象)、運営補助に加えて学生と教員をつなぐ学習支援活動を担うTA(学部5~6年、博士前期課程以上対象)、そして授業の計画・実施・成績管理にも参画するティーチング・フェロー(TF:博士後期課程以上、ポスドク対象)の3段階を設け、授業運営の円滑化と同時に教育力の養成を図っている。「学問論」では約35名、「挑創カレッジ」では約50名のTAが参加している。

「TA制度は全学教育を受講する学生を支援するだけでなく、TA自身にとっても成長の機会となります。他人に教えることが最も学習効果が高いと言われるように、後輩の指導を通じて自身の学びを深めると同時に、難しい事柄を分かりやすく伝える力も身につけられます」と中村先生は同制度の意義を強調する。

仙台市内に4つのキャンパスを構える東北大学では、早くからICTを積極的に導入し、キャンパス間の移動を要しない受講環境を整備。そうした取り組みが、コロナ禍への対応はもちろん、全学教育改革を推進するうえでも強力な基盤となっている。

「挑創カレッジ」各プログラムの修了者には、修了書とともにブロックチェーン技術を用いたデジタルのオープンバッジが発行される。このバッジは大学での履修証明にとどまらず、就職や学び直しの際にも活用できるなど、生涯を通じた学びの道標となることが期待される。

「知の創造」によって変革期の社会を力強く先導するリーダー的な人材を育む

「東北大学における全学教育の改革は始まったばかりですが、『挑創カレッジ』や『学問論群』を履修する学生たちの変化から、大きな成果が実感できています」と中村先生が話すように、学生の間からも好評の声が上がっている。「もともと高校時代には理系専攻でしたので、理系入試の制度がある東北大学経済学部を選びました。入学前からデータサイエンスの分野に対し強い関心を持っており、その知識を実際のビジネス社会で活かすためには経済学も必要だと考えるようになりました。入学後に挑創カレッジでコンピュテーショナル・データサイエンスが選択できると知り、まさに自分がやりたかった学びがあると感じました」と語るのは、経済学部2年生の寄田祐真さんだ。「実際に受講してみると、学びの自由度が高いだけに、膨大な資料から必要な教材を見つけ出すのも一苦労でしたが、先生やTAの皆さんなど伴走者のアドバイスに助けられました。履修を通じて現代社会に必要な知識や技術を身につけられたのはもちろん、伴走者や学生同士の対話を通じて視点が広がり、物事を今までになかった視点から見つめられるようになったことが大きな収穫だと思っています」。

「挑創カレッジ」と「学問論群」、そしてTA制度を活かして、同学が育成を目指すのは、「大変革時代を迎えた社会において、世界的視野を持って力強く先導するリーダーであり、卓越した学術研究を通じて知を創造し、イノベーションの創出を推進できる人材」だと滝澤理事・副学長は語る。「社会を牽引するリーダーには、どの道を進むべきかを判断するための知識やスキルに加え、自らが正しいと選んだ道を進んでいく決断力や、なぜその道を行くのかを後に続く人々に伝える対話力も求められます。本学の全学教育が、そうした人材を育てるための豊かな土壌になるよう、これからも改善を続けていきます」。

「本学ではAO入試(総合型選抜)による入学者が3割を超えており、受験のための詰め込み学習に偏りがちな高校教育を変えていく一助になればと期待しています」と話す滝澤理事・副学長(写真左)。中村先生(写真右)は、「知の創造とは、知識や知恵による新しい価値の創造。本学での経験を糧にして、社会を変革に導く新たな価値を創造できる人材育成を目指しています」と話す。

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