カテゴリー 42021年採択

立命館大学

対象者数 500名 | 助成額 500万円

http://www.ritsumei.ac.jp/liberalarts/

Program学びのコミュニティ・オーガナイジングによる未来共創プログラム
〜自由に生きるための知性を磨く〜

 本プログラムは、立命館大学の全学共通教養科目群受講生の年間延べ10万人程度に、クオーター制を基本とする「未来共創リベラルアーツ・ゼミ」(以下、みらいゼミ)による継続学習の機会を創出する取り組みになる。

 立命館大学では、入学後の1〜2年だけを教養科目の履修期間と定めず、卒業直前までを自らの専門を研ぎ澄ませつつ、先人たちの知恵と同時代の他者に敬意を払う「ピア・エデュケーション」を重視してきた。正課科目と併行して展開される「みらいゼミ」では、学習者自身がテーマ設定・教材選定・論集など成果物公表までを行うことで、所属キャンパスや在籍学部・学年を越境した「学びのコミュニティ」を学生とメンタースタッフ(大学院生・教職員)と共に創出していく。

 コロナ禍を経た今、文献講読やフィールドワークや公開討論など、対面とオンラインの複合的なコミュニケーションを重ねながら、未来のより良い社会像を構想・設計する仲間の輪を広げることで、次代を開く言葉を探っていく。

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先行きの見えない時代に求められる「リベラルアーツ」を身に付けるために

 立命館大学では、「挑戦をもっと自由に」を掲げた「学園ビジョンR2030」を2018年に策定・発表し、先の見えない変化の時代に求められる「チャレンジ精神に満ちた人間」「社会の変化に対応し、自ら考え、行動する人間」「グローバル・シチズンシップを備えた人間」の育成を宣言している。

 こうしたビジョンの下、2020年度から大学における学びの基盤となる教養教育のカリキュラム改革を推進。「知識の伝達」から「付加価値を創出できる力の育成」に軸足を移し、自由に生きるための知性「リベラルアーツ」を身に付けるための学びを強化してきた。その一環として2021年度からスタートしたのが、「未来共創リベラルアーツ・ゼミ(通称:みらいゼミ)」だ。その最大の特徴は、「学びのコミュニティ」を学習者自らがデザインすること。正課科目での学びから芽生えた興味や疑問などをテーマに、より深く学び続ける場として、学生自身がゼミを立ち上げ、学部や年次を越えてメンバーを募り、教材の選定、さらには論集など成果物の公表まで、全て学生が決定する、学生提案型のゼミナールだ。

 

 みらいゼミの意義について、共通教育推進機構の秋吉 恵教授は「“私”から始まる学びを体験してもらうため」と語る。「正課科目では、教員から専門知識を教わったり、テーマを与えられたり、どうしても受け身な学びになりがちです。もちろん、そうした学びも必要ですが、自らの興味や関心に基づく自発的・内発的な学びを、自らつくったコミュニティで、多様な価値観を持つ仲間との対話を通して深めていくという体験は、これからの社会で活躍するための大きな財産となるはずです」。

 

教養教育センター副センター長として、みらいゼミを推進する秋吉教授。「VUCAと呼ばれる先行き不透明な時代にあって、“正解がある”前提の教育は限界にきている。探究学習の導入やAO入試(総合型選抜)対応など高校の学びの形が変りつつある中、大学も自ら“正解のない問い”に取り組もうとする学生に応える機会も提供すべき」と提言する。

みらいゼミの趣旨や取り組み内容を学生に伝えるため、分かりやすい言葉遣いや親しみやすいイラストを用いたホームページを作成。プログラム対象者である学生や生徒をはじめ、教職員を含む教育関係者を意識して、広く情報を発信している。

自ら「学びのコミュニティ」を生み出す体験から得られる豊かな学び

 みらいゼミは、8週間のクオーター制で、1クオーター当たり10ゼミ、年間で40ゼミの運営を目標としている。初年度となる2021年度は、コロナ禍のためオンライン授業が主となり、ゼミ立ち上げにつながる学生間の交流が不十分だったこともあり、第3、第4クオーターを募集・活動期間とした。

 ホームページや学内ポータルサイトでの告知に対し、多様な学部・年次から15件の申し込みがあり、11のゼミが立ち上がった。例えば、国際関係学部国際関係学科グローバル・スタディーズ専攻3回生の永島 花華さんが立ち上げたゼミのテーマは、「今の大学生は何をして、何に興味を持っているのか?(コロナ禍で変わった学生生活)」。コロナ禍で学生同士のコミュニケーションが減少し、互いが見えづらくなる中、学生一人ひとりの興味や関心を“見える化”したいとの思いで立ち上げたものだという。「同じ学科の友人と2人で立ち上げ、メンバーを募集したところ、多様な学部と他大学(立命館アジア太平洋大学)から8人のメンバーが集まりました。専門や意見の異なるメンバーと対話しながら活動指針を固めていくのは大変でしたが、発起人としてリーダーシップを執ることで自信が付きました。今後の大学生活はもちろん、社会に出てからも役立つ貴重な経験となりました」と永島さんは振り返る。

 2年目となる2022年度は、前年度の実施例や成果報告を含めて情報発信を強化したことに加え、ゼミ参加者からの口コミの効果もあり、学生から関心が寄せられつつあるという。中には経済学部経済学科経済専攻1回生の庄 拓夢さんのように、入学早々、ゼミを立ち上げたケースもある。「入学したらいろんなことに挑戦したいと思っていたので、みらいゼミは絶好の機会だと感じました」と語る庄さんがテーマとしたのは「世界から見る日本と日本から見る世界(あなたの考えって偏見じゃないですか?)」というもの。生まれ育った国・地域ごとに異なる教育や環境に左右されないグローバルな視点を獲得することが目的だ。「入学したばかりで学内に知人も少ないため、事務局スタッフに相談して、同じ課題意識を持つ他学部の3回生と引き合わせてもらい、一緒にゼミを立ち上げることに。ゼミでの討論で得られた気付きに加え、討議の進め方やモチベーションの高め方なども含めて、先輩方から多くのことを学べました。できれば今度は自分が新たなゼミを立ち上げてみたいですね」と庄さんは語る。

永島さんらが立ち上げたゼミでは、アンケートやSNSなどによる調査を通じて、現在の大学生の多様なアイデンティティーを分析。その結果を「ファッション雑誌」という形にし、キャンパス内や大学周辺の店舗に配布した。雑誌制作というクリエーティブな経験を通じて、正課の授業だけでは学べない多くの知見やノウハウを得られたという。

庄さんらのゼミには、留学生や附属高校生など多様なメンバーが集まった。それぞれ異なる視点を持つメンバーとの討議から「自分では偏見を持っていないつもりでしたが、メディアなどに影響されて無自覚な偏見を持っていた」「日本人は、相手を評価するとき、個人ではなく『外国人』など属する集団で判断しがち」など、多くの気付きが得られたという。

「ピア・エデュケーション」の文化を生かして、「対話する力」を育む

「ゼミの立ち上げや運営をサポートする中で感じるのは、最初の一歩を踏み出す難しさ」と教養教育センター事務局の川﨑 那恵氏は語る。学生主導の活動とはいえ、主体的な学びの経験が少ない学生の力だけでゼミを立ち上げるのは困難が伴う。そのため事務局では、みらいゼミの趣旨や意義を分かりやすく伝えるとともに、興味を持ってくれた学生と面談し、丁寧かつ継続的なサポートに努めている。三菱みらい育成財団からの助成を元に支援スタッフを増強するなど、体制強化に努めたかいあって、ゼミ立ち上げのハードルは低くなりつつあるという。

 その一方で、秋吉教授は「今の学生たちを見ていると、『会話』はあっても『対話』がない。もっと対話力を磨いてほしい」との課題意識もあるという。

 SNSで短い言葉を交わし合うだけで、多くが解決できてしまう現在、深いところまで意見をぶつけ合う機会が極端に減っている。加えて、周囲から浮き上がることを恐れるあまり、自身の価値観を表明することを避けがちな風潮もあり、学生たちの「対話する力」が衰えていることが危惧されているが、「自分の考えを周囲に伝える力は、グローバルな社会課題を解決する上で欠かせない」と秋吉教授は指摘する。

 同学にはもともと仲間と支え合う「ピア・エデュケーション」の文化があり、みらいゼミもその延長線にある。「ピア」とは「仲間」、対話を通じて互いの学びをサポートし、前向きなチャレンジを後押しする存在だ。同学では、多様なバックグラウンドを持つ学生同士の対話の場を整備することで、一人では得ることのできない成長を促してきた。コロナ禍にはキャンパスから会話の機会すら奪われたが、みらいゼミが広がることで、対話の火を灯し、活気を取り戻すことが期待されている。「仲間との対話では、必ずしも目標や目的が一致している必要はなく、同じ答えを導く必要もない。大切なのは、自身の考えを言語化し、価値観の異なる相手にも伝わるよう発信すること。そうした対話を積み重ねることが、『正解のない問い』を自ら設定し、自分なりの答えを導く力を培っていくはず」と秋吉教授は語る。

 みらいゼミは、立ち上げる学生にとっても、学生を支援する教授やスタッフにとっても、大きな挑戦と言える。「あらゆる人の自由な挑戦が 希望に満ちた未来につながる社会を目指して 私たちはこれからも挑戦を続けます」。学園ビジョンに記されたこの言葉の通り、立命館大学の挑戦が、社会を変革する力を持った人間を輩出し、希望に満ちた未来へとつながっていくだろう。

半期ごとに2クオーターのみらいゼミの成果を発表する「みらいゼミ成果報告会」を開催している。ゼミを立ち上げた学生にとって学びの成果を披露する場であると同時に、運営側にとっては、みらいゼミに参加する意義や魅力を学生・生徒や教職員、関係者など広く学内外に伝える機会でもある。

みらいゼミの副読本として、2022年9月に『自由に生きるための知性とはなにか~リベラルアーツで未来をひらく』を発行。2020年5月以降に開催してきたリベラルアーツをテーマとしたシンポジウムやトークセッションの内容をまとめたもので、学生が感じる「モヤモヤ」を言語化し、他者と共有する際のガイドとなることが期待される。

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