Programふるさとを支える人材を小樽で育てる探究活動
地域を支える人を次の三つのプロジェクトで育てる。そのために、ふるさと小樽をフィールドとする探究活動を通して課題解決に取り組む。
アスリートプロジェクトは、各分野で全国トップクラスの部活動に取り組んでいるスポーツコースの生徒が、スポーツ科学について学習したことや、日頃の部活動を通して培ってきた技術をスポーツ教室やボランティア活動に生かし、市民のスポーツ文化の継承や健康促進につなげる。
キズナプロジェクトでは、地域とのつながりから体験学習を重ねている。福祉施設や地域行事とつながり、吹奏楽部の出前演奏や生徒によるボランティア活動、職業体験などを通じて、主体的で深い学びに取り組んでいる。
ワインプロジェクトは、地元ブドウ品種である「旅路」の栽培・ワインへの加工・販売(6次産業)を通して「働くこと」を学ぶ。卒業後、生徒たちが20歳になった時、母校においてワインを皆で味わい、当時を振り返ることで3年間の時間軸を超えた活動となる。
三つのプロジェクトが三位一体となり、生徒が地域とつながり、課題解決を経て大きく成長し、地域創生に貢献できる人となる。全国各地から集まった生徒が卒業後、ふるさと小樽をフィールドに学んだことをそれぞれの地域で生かし、活躍できることを期待する。
活動レポートReport
ワインづくりから生徒の心も開拓
甲子園に春夏5回ずつ出場し12人をプロに送り出した野球部、長野五輪スキージャンプのメダリスト船木和喜選手などを輩出したスキー部などスポーツの強豪校として知られる私立北照高校。道外も含め多様な地域から生徒が集まるからこそ、小樽市を学びの場とする探究活動を通して、ふるさとを支える人材育成を目指している。
その典型が、地元ブドウ品種である「旅路」の栽培から加工、販売まで、6次産業に取り組む普通コースの「ワインプロジェクト」だ。
「入学当初は畑に体が拒否反応を起こしました」と楽しそうに振る返る石谷心さん(3年生)は、広報チームでクラウドファンディングの目標額を集めるためのウェブ担当として日々頭を悩ませる。実家が農家だというマネジメントチームの計良春月さん(同)は、進行状況を見ながら気持ちよく仕事をしてもらうための指示の出し方や話し方などを工夫しているという。
発端は2016年、職員室での何気ない会話だった。スポーツだけで学校が少子化時代を生き残れないのは、全国共通の悩みだ。なんとかできないかと話し合いを重ね、プロジェクトの実施が決まった。担当の号刀悠貴教諭は、千葉県出身で大学から北海道に来たが「いつの間にか畑の開拓をしていました」と笑う。
生徒は在学中、ワインの出来を確かめることは当然できない。20歳になって学校に集まって味わうことで、母校とのつながりを確認。学校側も卒業後に人材育成を評価する機会としている。
今ではワインプロジェクトをはじめ、スポーツコースの生徒が学習や部活動を通して培ったことを市民に提供する「アスリートプロジェクト」、職業体験やボランティア活動、地域行事の参加などで地域とつながる「キズナプロジェクト」という三つの目玉プロジェクトに発展した。
10月末に札幌市内で行われた新ビジネス創出を目指すイベントの一環として開催された「NoMaps EDUX札幌ラウンドテーブル2022」で、石後岡鷹治さん(1年生)は「緊張しています」と前置きしながらも、高校関係者や社会人を前にワインプロジェクトについて堂々と説明した。中学校には病気などのため、ほとんど通えなかったという。しかし活動を通して大人から褒められる体験を重ねることで自己肯定感を高め、半年間で教員たちも目を見張るほどの成長を遂げた。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)