Program地域の新たなイベントづくりに向けた伴走型教育プログラム
~コロナに打ち勝つ「理想のイベント」をつくろう!~
教育事業会社である株式会社あしたの寺子屋と非教育会社との協働を通じ、課題の発見(テーマの設定)から企画実現までの一連の流れを高校生主体で行うプログラムを実施することで、心のエンジンを駆動させることを目指す。
「フェスづくり」をテーマに、全国各地の高校生を対象としたコンテスト形式での伴走型プログラムを実施。高校生主体で立案した企画を評価し、優れた提案については予算(賞金最大100万円)を付与して実現してもらう。企画設計から実現までの一連の流れに高校生が主体的に取り組むことで、社会参画・社会変革に必要な「実現する力(自ら構想したことを周囲も巻き込みながら具体的に形にする力)」の習得・向上を図る。
株式会社あしたの寺子屋×TSP太陽株式会社×CCCマーケティング株式会社という他に類を見ない協働体制で事業を実施し、「社会に開かれた教育」を実現する先進的なモデルとして、教育界・日本社会に対するインパクトを創出していく。
※ 「株式会社あしたの寺子屋(採択時)」から「株式会社コエルワ」に社名変更
活動レポートReport
高校生が自分のワクワクをカタチにする「イベント甲子園」
「第三者が引き寄せられるもの」であれば、テーマはどんなものでもOK。全国の高校生を対象にした、一人からでも参加できるイベント企画コンテストが「イベント甲子園」だ。優勝チームには100万円、準優勝チームには50万円の活動支援金が付与され、自分たちが企画したイベントを実現することができる。2022年の第1回目には、100名21チームの応募があり、函館の中等教育学校の5年生企画した、コロナ禍で薄れてしまった「対面でのコミュニケーションの楽しさ」を再創出する企画「変えよう!市電で、函館と自分を!未来を!」が優勝。そして2023年5月から開催された第2回目の「イベント甲子園2023」では、150名21チームの応募があり、福井の高校生・半田智咲さんの「ふくい魅力発見ロゲイニング」が優勝した。
ロゲイニングとは、地図やコンパスを使って、定められたエリア内に多数設置されたチェックポイントをできるだけ多く制限時間内にまわり、得られた点数を競う野外スポーツ。半田さんはこれをアレンジし、謎解き&宝探しゲームをしながら福井の魅力を感じるロゲイニングに仕上げ、優勝を勝ち取った。
イベント甲子園を運営する株式会社コエルワ(旧株式会社あしたの寺子屋)は、2020年に創業された教育事業会社。教育における地域間格差の解消を目指し、地域住民自らが、新たな世界へ踏み出そうとする地域の子どもたちを支援するためのノウハウやネットワークを提供している。高校生がイベントの企画を立て、その実現までサポートする「イベント甲子園」は、三菱みらい育成財団の助成を受けて2022年度から新たにスタート。その運営・サポートには、教育事業会社である同社だけでなく、非教育事業会社が2社、関わっている。国際大会や博覧会の設営など、多岐にわたるイベントの企画・運営を行う「イベントのプロ」TSP太陽株式会社(以下、TSP太陽)。そして、TSUTAYAや蔦屋書店で知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社であり、Tポイントなどを通じて取得したデータの活用に強みを持つ「マーケティングのプロ」CCCMKホールディングス株式会社(以下、CCCマーケティング)。この2社の協力を得て、高校生の考えたイベントの実現に向けてプロの知見をもって支援する。「広く一般に高校生に施される教育的なサポートの多くは、高校生に寄り添った、高校生に優しいもの、言わば『高校生基準のもの』だと感じています。私たちは高校生に対して、『本物』を見せてあげたいという気持ちがあります」と嶋本さん。ビジネスの第一線で活躍する「本物」との接点が、イベント甲子園というプログラムの独自性、ユニークさの源泉でもある。
「本物」に触れた高校生自身は、どう感じただろう。イベント甲子園2023の優勝者・半田さんは「イベントをどう作り上げるかという点で、参加者の導線など、細かいところに目を向けることの大切さを学びました。イベントを開催するという経験がなければ得られないプロの知識に触れることができて本当によかったです」と振り返る。
半田さんはイベント実施に向けて、プロの支援を受けながら万全の準備を進めたが、試練に直面することに。イベント実施を控えた1週間前の天気予報では大雨が想定され、前日には予報通りの荒天となった。半田さんを中心とした高校生たちは、雨でも実現できる企画内容に急遽変更。最後まで諦めず、イベントをやり遂げた。「前日には暴風警報が出るくらいの荒天予報でしたから、イベントの開催自体を止めますという声が上がってもおかしくなかったと思います。でも、高校生たちは『実現させるにはどうすればいいか』を考えました。しかも、あの土壇場で、大人に対して『どうすればいいですか』というスタンスではなく、『できるだけ自分たちでやりたいと思っているので、雨の日のオペレーションについて、アドバイスをいただきたいです』というコミュニケーションが現場で生まれていました」と嶋本さん。嶋本さんがこのプログラムを通じて高校生に培ってほしいと願っていた「自ら構想したことを周囲も巻き込みながら具体的に形にする力=実現する力」を、プログラムを通じて参加者それぞれが十分に身につけていたことの表れであろう。予定通りいかなかったことにもめげず、半田さんも、「この経験は将来、必ず何かにつながると思います」と胸を張る。
「イベント甲子園」を今後自走させていくアイデアとは
プログラムとして継続するという面では、TSP太陽、CCCマーケティングの2社に業務委託という形でとして協力を得られたことは特筆すべきだろう。子どもたちの未来のためという形でボランティアでの協力を仰ぐこともできたかもしれない。しかし嶋本さんはこう語る。「ボランティアになってしまうと、協力してくれる2社のメンバーがそれぞれの会社の中で、『会社の利益になるわけでもないのに申し訳ない』という気持ちを抱えながらプログラムのための時間を作ることになります。『やり甲斐』があったとしてもいずれ立ち行かなくなるかもしれません。財団からの助成金があるおかげで、この2社には委託費という形でお金を支払い、あくまでビジネス、会社の業務としてプログラムに参加していただくことができました」。
助成期間の最終年となる2024年度の目標は、高校生からの応募数を今回の2倍に増やすことだという。コロナ禍が明け、高校生が参加できる各種教育プログラムの数は数倍になった。その中でイベント甲子園の参加者数を増やすには、どうすればいいのか。「教育プログラム全体の母数が増えるわけですから、イベント甲子園のプレゼンスがどうしても薄まってしまいます。これまでもやってきたFAXを使っての学校への告知は引き続き行っていきますが、過去に参加してくれた学校には直接電話をかけてご案内することや、他の団体とコラボして応募枠を合同で設けるといった方法も検討中です」と嶋本さん。
助成期間終了後の自走については、
①企業からの協賛を得て「○○社賞」といった企業賞を設ける
②「そもそも世の中にどういうイベントが存在するのか」を高校生に伝えるイベントツアーを通じてアイデアの種を増やすことで応募数増加につなげる
③ 国が認定した地方公共団体の地方創生事業に対して企業が寄付を行う「企業版ふるさと納税」の仕組みを活用する
等の案を検討中だという。
「地域の子どもたちが越境・挑戦するための奨学金を募る『きっかけプロジェクト』では、クラウドファンディングで毎月1,000円〜の支援を募る仕組みをすでにスタートさせており、一定のご協力を得られています。イベント甲子園は、プログラムそのものを自走できる仕組みを何とか作っていきたいと思っています。企画を実現したい高校生の伴走と、イベント甲子園というプログラムを継続させるための仕組みを作ること。この2つが私たちの大きな仕事だと思っているので、絶対にやり切ります」(嶋本さん)