カテゴリー 22022年採択

一般社団法人 ウィルドア

対象者数 1200名 | 助成額 758万円

http://willdoor.org/

Program課外にある学びの資源を“選択・活用する力”を育み、
実行するための“つながり”を届けるプログラム「willdoor」

  willdoorは、高校生の「学び」を、本人の意図薄い「他者から与えられる学び」から、意識的に自らの興味・関心を基に選択し創造する「わたしから始まる学び」へと変化させるきっかけを届ける。

(1)単独のプログラムに閉じず、さまざまな社会教育団体や個人との連携を試みる点、また(2)バーチャル空間を活用する点を特徴とし、以下3種のイベントをベースに課外にある学びの資源を自分のものとして活用できる力を育む。

 

①課外にある学びの資源合同説明会:FORUM
 全国の高校生を応援する団体と連携して課外の学びを合同で説明するとともに、その機会を活用した先輩による紹介や個別相談を行う。

②わたしの学びを共有し合う未来共創の祭典:FES
 課外を活用して学び続ける高校生が、自身の学びと歩みの振り返りを通して、同世代同士で刺激し合いながら応援者・仲間を獲得し、さまざまな学びのモデルを収集する。

③わたしから始まる学びの計画書づくり:WORKSHOP
 初めて課外の学びに挑戦する高校生や、現状の活動の在り方に悩む層が、いつからでも自分軸での学びに踏み出し悩みを相談し合えるような機会を、さまざまな資源の活用経験を持つ大学生/高校生スタッフが定期開催、常設する。

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世の中にはさまざまな経験につながる扉があることを知らせたい

「一人ひとりが『will=自らの意思』という鍵を使って、世の中にあるさまざまな『door=扉(選択肢)』を開け、多様な経験を当たり前に得られるように後押しをしたい。『willdoor(ウィルドア)』という名前には、そんな思いが込められています」と語るのは、2015年に武口翔吾さんと一般社団法人ウィルドアを設立した竹田和広さん。竹田さん自身、高校時代に大学受験ベースの選択肢しか示されないことに強い違和感を覚えたことが、同団体の設立につながっているという。「世の中にいろんな扉があるにもかかわらず、当時は自分が何をしたいのかがわからなかった。そもそもいろんな扉があるということすら知らなかったという思いがあります」(竹田さん)

 これまでさまざまな試行錯誤を重ね、プログラムをアップデートさせてきたが、団体としての最大の特徴は変わっていない。それは単体のプログラムとして閉じるのではなく、教育課程外にあるさまざまな学びの資源(企業やNPO、学生団体などのプログラム、インターンなど)と参加者を結び付ける「中間支援」を活動の中心に置くというスタンスだ。主な連携先として密接に情報を共有している団体は現在約30。その中には「カタリバ」「高校生みらいラボ」など、三菱みらい育成財団の助成先である団体も多く名を連ねている。他にも20~30団体と協力体制を築き、参加者が自らの学びに踏み出すたくさんの「扉」とつながっている。

 そうした活動の中心となるのが「ウィルドア・コンパス」と名付けられた総合型オンラインサードプレイスで、約700人にも上る中学生を含んだ15~18歳の世代が登録している。このプラットフォーム上にいくつかのオリジナルプログラムがあり、参加者たちはそれらを緩やかに循環していく中で、それぞれが関心を持った団体の活動に参加し、その経験を持ち帰ってお互いに伝え合う。

 ハブとしての機能に並ぶもう一つの特徴が、プログラムやイベントのすべてがオンラインのメタバース空間で行われるという点。参加者たちは同時進行する複数のブースから興味ある場所を選び、自らのアバターを移動させてコンタクトする。リアル開催に近い感覚で進行できるので、参加者は臨場感を味わえ、グループの分割や統合もブレイクアウトルームなどの設定なしで自由に行えるため、スタッフにとってのメリットもある。

共同代表理事の竹田和広さん(左)と武口翔吾さん(右)。武口さんは竹田さんの6歳上で、高校の合唱部の先輩。部のOB・OG会の企画運営を通して知り合い、一緒に活動を始めたのがスタート

さまざまな活動をしながら時々戻ってきて経験を共有する

「ウィルドア・コンパス」上のイベントの一つに、年に2回開催されるForumがある。課外活動の合同説明会という位置づけだというが、「説明会といっても、連携団体の“大人”によるプレゼンではなく、一歩先を行く“センパイ”からアドバイスを得る場なんです」と武口さんは語る。連携先のプログラムやイベントなどを体験した生徒の中から、ロールモデルに相応しいと思われる生徒・学生を選んでプレゼンしてもらう。

「自ら登壇を希望する参加者もいますが、活動が一定以上の水準に達している高校生と大学1年生の中から毎回10人ほどを選抜し、こちらからゲスト登壇者としてお願いしています」と語るのは、メインスタッフとして現場でファシリテーターなどを務めている佐藤美優さん。そうした「センパイの話」を中心に、テーマを絞った対談や相談会、参加者とゲストやナビゲーターが一堂に会して共有し応援し合うコーナーなどで構成され、約4時間にもわたるイベントとなる。

 もう一つの大きなイベントが、年に1回開催されるFESだ。部活、課外活動、研究、起業、バイト、ボランティア、趣味など、あらゆるテーマやジャンルに関心を持つ高校生が集合し、自分の“スキ”を発表し合う5分間ピッチセッション。全員の発表後には参加者同士の交流の時間もとられている。実際に発表されたテーマを紹介すると、「世界の中心で、恐竜愛をさけぶ」「ディズニーの世界観から見る、理想の教育とは?」「理科好きを活かした探究学習について」「不登校で人生諦めかけたけど、なんとか生きてる話」など内容は多岐にわたり、成功体験・失敗体験取り交ぜて発表される。FESは基本的に参加者全員が発表する場で、それぞれが自由な形で次々とプレゼンをしていく。昨年度は約70名が参加し、朝から夜まで続く、二部制の一大イベントとなった。「それぞれの発表に順位をつけたり評価することはありません。一人ひとりが大切にしてきたことを全力で発信し合うことで、勇気を与えたり勇気づけられたり、共感から次の一歩を踏み出すような時間になってほしいと願っています」(武口さん)

 これらのイベントの間をつなぐのが、週2回というハイペースで開催されている約2時間のワークショップだ。「同世代と気になるテーマについて語りたい」「やりたいことを具体化したい」「課外活動などの情報について知りたい」などの望みを持つ高校生が集って語り合い、次の一歩を踏み出すための計画書を作成する「プランデイ」、テーマを特定し、その第一線で活躍するゲストを招いて知識を深める「ゲストデイ」など、いくつかのプログラムが用意されている。さらに月1回の企画として、高校生発案のプロジェクトをサポートする「月1イチ推しプロジェクト(推しプロ)」というミニアワードも2024年度からスタートした。応募されたプロジェクトに対して参加者が相互投票を行い、最高得票数を獲得したプロジェクトには支援金1万円を贈呈するとともに、大学生スタッフの個別サポート、必要な専門家や外部団体への紹介も受けられる。また、こうしたワークショップとは別に、大学生や社会人スタッフによる1対1の個別相談も、曜日や時間を問わず行われている。

「当初は何千人単位のイベントを柱にして、ワークショップを時々実施するという計画でしたが、イベントの規模を縮小し、忙しい高校生たちが好きな時に気軽に参加できるようにと形を変え、現在のプログラムになりました」(竹田さん)

 ワークショップの頻度は高いが、毎回欠かさず参加するという生徒はいないという。「ヘビーユーザーでも月に3回くらいで、それで十分だと思っています。ウィルドアに依存することなく、いろんな環境で活動しながら、時々戻ってきて話をして、また違う環境に出ていくという利用が理想です」(武口さん)

メタバース空間上で開催されるイベント。現在はMetaLifeというツールを利用して音声でコミュニケーションを取っている。顔出しは自由

1on1の個別相談も、希望に合わせて曜日・時間を問わず行われる

地域や年代、立場を超越したウィルドアファンを結び付ける

 活動も3年目を迎え、既に高校を卒業した“センパイ”の数も増えてきた。その中には卒業後もウィルドアとつながりを持ち続ける大学生が一定数いる。そうしたコアなウィルドアファンにファシリテーターを担ってもらうべく、研修企画も検討している。また、ウィルドアで背中を押された卒業生が、今度は誰かの背中を押してあげたいという思いから団体を立ち上げ、イベントを開催するという好循環も生まれているという。

 こうした年代を超えた縦のつながりを絶やさず続けていくことは、学校や地域には難しく、外部団体の存在価値の一つだと竹田さんは語る。「私たちは長野県との連携事業として、県内の高校における探究的な学びを促進する仕組みづくりも進めています。そこでは高校を卒業して県外に行ったOB、OGが、変わらずつながりを保って事業を手伝ってくれています。今後『ウィルドア・コンパス』においても、もっと学校や地域とのつながりを深めることで、そうした良い循環を生み出していけるのではないかと考えています」。

 卒業生だけでなく教員や教育コーディネーターなど、既に教育に携わっている人材向けの研修も同時並行で進行中だ。こちらはウィルドアのスタッフの拡充という目的よりも、外部団体への「扉」も併せて紹介することで、教育ファシリテーター/ナビゲーター人材を広く輩出したいという考えだ。

 次年度からの自走に向けた活動としては、ローカライズも構想の一つに入っているという。ユースセンターなど地域のサードプレイスにつながっている高校生から、「私たちだけではイベント展開が難しいのでウィルドアで開催してもらえませんか」という要望が寄せられることがあり、そのイベントを彼らにオンラインで届けると同時に、ウィルドア・コンパス上でも参加者を募ったところ、集客が伸びて大きなイベントになったという事例があった。「そうしたニーズを持つサードプレイスを有機的につないでいくことで、現在の活動の形を大きく変えることなく、コミュニティを拡大していけるのではないかという仮説を立てて試行しています」と武口さん。

 団体設立から約10年。情報や空間、年代のギャップを自由に行き来できる扉を増やし、自分軸の学びに目覚めた高校生世代を後押しする体制の整備がさらに進んでいる。

中高生の探究・課外活動をサポートする相談AIツール「コンパスさん」を2024年7月から提供スタートした

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