Programプロや大学生、仲間と共に、好きを徹底的に探究!
『プロジェクト部(旧名称01ゼミ)』
全国の高校生の誰もが自身の「興味関心」「問題意識」を目いっぱい探究できるような環境をつくり出すことを目指し、学校の授業や部活、塾や習い事、家庭や地域などで充足されにくいニーズを満たす「仲間と共に好きなことをとことん探究するゼミ」を、オンラインを中心とする講座として開発・提供する。①独学を超えた、プロによる学問へのいざない、②共通の興味関心を持つ仲間とつながるグルーブ感、③本格的なアウトプット創出機会が特徴。
初年度は「建築・まちづくりゼミ」「デジタルアート・デザインゼミ」の2種類のゼミ(各ゼミの参加者は15人程度)を運営し、次年度以降ゼミの種類を拡充していく。ゼミ活動の内容としては、講義、ワークショップ、生徒の自主企画(マイ・プロジェクト)、企業から出される実際の仕事に近い本格的な課題への取り組み、オフ会、仕事現場へのフィールドワーク、年度末にゼミ活動の成果を発表・披露するゼミ文化祭などを予定。


活動レポートReport
既存の枠組みでは満たせない、ニッチな領域を探究する場をオンラインで提供
「全国の中高生誰もが、それぞれの興味関心や問題意識に沿ったテーマについて、仲間と共に思う存分、探究できる場を提供してあげたい」。そんな思いから、2022年度に立ち上げられたのがオンライン探究部活動「プロジェクト部」。
運営者である株式会社a.schoolは、学習指導要領の改訂以前から、社会に先駆けて探究学習の重要性を訴え、探究学習塾という形で実践するとともに、政府や自治体、教育事業者などとの連携のもとに多様な探究学習プログラムを開発・提供してきた。それらの実践を通じて多くの中高生と接する中で、同社は「探究学習の普及とともに、授業以外にも探究的な課外活動の場が求められるようになってきたが、その受け皿は決して十分ではない」との課題意識を抱いたという。「探究活動は生徒それぞれの興味関心や問題意識から始まるものであり、当然ながら探究のテーマは千差万別です。その中には、授業や部活動、塾などの習い事で満たされるものもあれば、既存の枠組みでは対応しきれない、いわばニッチなテーマも少なくありません。後者の場合、探究に取り組みたくとも、共に探究する仲間や、相談できるプロフェッショナルとの出会いの機会が乏しいため、独学に終始したり、探究を断念したりといったケースが多く見られます」と語るのは、同社創業者の岩田拓真氏だ。
「こうした中高生は、自分の興味関心が社会から認められないと感じ、自己肯定感が高まりにくいことが危惧されます。加えて、ニッチ領域における才能の発掘や育成が遅れることによる社会的損失も懸念されます。メジャーなスポーツや将棋、ITなどの分野では、早くから才能を発掘・育成する仕組みが充実していますが、例えば建築やデザインなどの領域は、社会がその才能を必要としながらも、中高生が本格的に取り組める場がほとんどないのが現状です。そこで、既存の枠組みとは別に、オンラインを通じて全国の同世代とつながれる場があれば、ニッチ領域であっても仲間を見つけやすく、探究を深めることができると考えたのです」(岩田氏)。

もともとは世界的な経営コンサルティング企業に新卒入社し、コンサルタントとしての経験を積んできたという岩田氏。週末起業で教育系NPOの運営に携わる中で「探究・創造的な学びの文化を生み出したい」との想いを募らせ、2013年に株式会社a.schoolを創業。現在は代表取締役兼クリエイティブ・ディレクターとして、企画開発などクリエイティブ全般を担う。

2020年の学習指導要領改訂に先駆け、2014年に都内・本郷で開校した探究学習塾エイスクール(a.school)。現在はオンラインを含めた直営3校から中高生まで約150名に、「浴びる学びから、探す学びへ」をコンセプトとした実践型の学びを提供。同スクールでの実績をもとに、政府機関や自治体、教育事業者などと連携しながら、多様な探究プログラムを開発・運営している。
同世代やプロフェッショナルと交流しながら、多様なテーマのプロジェクトに挑む
ブロジェクト部が対象とするのは中高生。オンライン活動が基本のため、全国どこからでも参加可能で、年間を通じていつからでも参加できる。「当初は高校生を対象にスタートしましたが、ある程度のアウトプットを出すには相応の積み重ねが必要と考え、2年目からは中学生にも対象を拡大しました。現在は約140名の部員のうち、約4割が中学生です。高校受験を控えた中3には活動をセーブし、高校入学後に活動を本格化させるなど、学業などとのバランスを考え、長いスパンの中で緩急をつけながら取り組んでもらえる環境を整備したいですね」と岩田氏は語る。
プロジェクト部への応募は、公式サイトからのエントリーが基本だが、現状では、運営する探究学習塾や各種プログラムなどを通じた紹介や口コミ、または中高生向けの外部メディアへの掲載を通じた参加が半々だという。入部した部員たちは、まずは各分野のプロフェッショナルによる講義やゼミ・ラボ、フィールドワークに参加し、視野を広げながら自身の「好き・ワクワク」を見つけていく。並行して、SNSコミュニティやオンライン交流会での部員同士や大学生メンターとの対話を通じて、興味関心や課題意識を深めていく。
取り組むべきテーマが見つかれば、各種テーマに基づくプロジェクトに参加し、実践に挑む。その中心となるのが「共創プロジェクト」。オンラインでつながった全国の仲間たちと共に「社会のリアルな課題解決」に挑み、自分たちなりのアウトプットを企業や社会にぶつけるものだ。生徒が個人的にやりたいことがある場合は、一人ひとりの興味関心や問題意識を突き詰める「マイプロジェクト」を立ち上げることも可能だ。
初年度はプロフェッショナルとの人脈が豊富なテーマを優先し、「建築・まちづくり」と「デジタルアート・デザイン」の2テーマからスタート。その後、部員の要望をもとにプロジェクトを拡充させ、オリジナルの椅子をデザインするプロジェクトや、デジタル絵本を制作して子どもたちに読み聞かせるプロジェクト、ティーンズ向けに新しい駄菓子を開発するプロジェクトなど、多様なテーマで活動している。また、(株)Gakkenと共に小学生向けの教材動画を開発する「学研まなび動画プロジェクト」や、(株)日本経済新聞社と共に中高生向けのメディアサービスを開発する「日経未来プロジェクト」など、企業をパートナーに新たな商品・サービスを具現化する共創プロジェクトも始まっている。
「最近では、生徒主導で立ち上げるプロジェクトが活性化し、運営側で企画するものと半々くらいになっています。部員集めや公式ソング作成のプロジェクトも始まるなど、部活動の自治化も進んでおり、プロジェクト部への参加を通じて自主性が育まれていることを実感しています」と岩田氏は確かな手応えを語る。部員を対象としたアンケートでも「地域や学年が異なる生徒同士で長期間にわたって交流するのは初めての経験。学校というコミュニティでは得られない気づきがあった」「プロの話を聞いたり、自分で考えたモノを作ったりする中で、将来の方向性がまとまってきた」など、満足感の高さを物語る回答が多く見られるように、自身の興味関心に夢中になって取り組める場が、中高生にとっていかに大切なものかが窺える。

各種プロジェクトの成果を発表する場として、毎年3~4月に関東圏で文化祭を開催。展示内容を一般に公開するとともに、各テーマ領域における業界関係者やメディア関係者も招待し、部員たちの考えや問いかけをぶつけることで、さらなる学びや交流を促進している。

「共創プロジェクト」は3~5カ月スパンで活動し、一定のアウトプットが求められるため、中高生にはややハードルが高い。そこで、よりライトな活動として2024年度からスタートしたのが1カ月単位の「ゼミ・ラボ」だ。大学生をメンターに、同じ興味関心を持つ中高生同士の対話を通じて、探究心を深める場となっている。

「椅子デザインプロジェクト」では、デジタルファブリケーションを駆使して理想の椅子デザインに挑戦。朝練後にやりがちな居眠りを防止する椅子といったユニークな椅子が開発された。暮らしの中の「あったらいいな」を実現する「ちょい木工プロジェクト」でも、髪を乾かす合間にも動画を楽しめるスマホ台を開発するなど、随所に中高生ならではの発想が発揮されている。

「ティーンズ駄菓子プロジェクト」では、フードデザイナーのアドバイスのもと、10代が楽しめる駄菓子をパッケージにもこだわりながら開発。最終的には食品メーカーへのプレゼンを実施。「デジタル絵本プロジェクト」では、現役大学生が起業したオンライン読み聞かせスクールと共に、AIを駆使した絵本を作成。いずれも楽しみながら実社会との関係性を深める経験につながっている。
学校・自治体や企業との連携を深め、新たな教育の場を提供し続けていく
現在は三菱みらい育成財団の支援を得て、原則参加費無料としているプロジェクト部だが、今後はいかに自走化していくかを意識しているという。「活動を継続する中で、プロジェクト部を経験した高校生が大学入学後にメンターとして参加してくれるケースも出てきており、探究学習塾のOBも含めて、人材面では持続性が維持できています。一方で、ビジネスとして自走していくには共創・協賛いただける法人パートナーの拡大が不可欠です。活動の価値・意義やビジネスモデルを確立していく必要があると考えています」(岩田氏)。
特に注力しているのが学校・自治体との提携で、最近では確かな成果が出始めている。2024年5月からは、お茶の水女子大学附属中学校で学校公認の部活動として導入され、10月には山口県萩市教育委員会の後援のもと、同市全域の中学校14校でトライアル導入が始まっている。
「教員の業務負荷が課題となる中、部活動の外部移行が検討されており、萩市はその先進地域として注目されています。中高生にとって、部活動は自らの興味関心に従い取り組める貴重な課外活動ですが、部活動の外部化が進めば、受け皿の有無などによる地域格差の広がりが懸念されます。その点、オンライン部活動であれば、全国どこからでも興味関心を同じくする同世代やプロフェッショナルとつながり、学校の枠を越えて深く探究することができます。そうした価値をしっかりと社会に発信することで、すべての中高生がやりたいことを見つけられる社会づくりに寄与していきたいですね」と岩田氏は将来へのビジョンを語った。

情報発信の強化に向けて、2023年11月にプロジェクト部の公式ホームページを開設。共創プロジェクトやゼミ・ラボの告知とともに、活動の詳細や意義なども紹介されており、中高生だけでなく企業や学校関係者、対等の立場で参加する「おとな参加者(有料)」の募集も行われている。