Program教育リソースの共有と連携を通した個別最適化によって、
小規模校の教育価値を最大化する「COLLABOハイスクール・ネットワーク構想」
本プログラムは、活用可能な教育資源が乏しいことで生徒の興味関心に沿った探究活動の実現に困難を抱える小規模校において、地域を越えた学校間連携を通じ、一人ひとりの興味関心にベストマッチする支援を実現する試み。オンライン連携授業や探究支援のエキスパート人材の招聘など、1校ではつながることができない教育リソースへのアクセスを、複数校連携とNPOによる側面的支援によって可能にし、高校生の心のエンジンを駆動させることを目指す。
<プログラムの特徴>
●複数校でのオンライン探究合同授業
授業時間を活用して、探究学習の合同授業を実施。お互いの地域紹介や、興味関心ごとのグループで意見交換や発表を行いながら、それぞれの探究に生きるヒントを見つける。
●放課後での交流プログラム
探究活動に生かせる講座企画や、自由に参加できる交流会などを定期的に開催し、学校の外に多様な人間関係をつくることができる機会を設定。
●教員間での情報交換コミュニティー
探究学習の支援を行う教員間での情報交換や勉強会を開催。それぞれの学校での伴走支援に生かせる知識を学ぶ機会を設定。
活動レポートReport
探究教育の格差解消に向けて、オンラインによる小規模校間の連携を実現
2001年の設立以来、「意欲と創造性をすべての10代へ」をミッションに掲げ、多様な出会いと学びの機会を創出・提供してきたカタリバ。その活動の背景にあるのが、日本社会における「きっかけ格差」の拡大に対する危機感だという。
生まれ育った地域・環境によって学習の機会や将来の選択肢が狭められてしまうという課題は、2022年度から必修化された探究学習にも表れている。「カタリバでは、高校生の学びの祭典として探究活動のロールモデルを発信する『全国高校生マイプロジェクトアワード』や、公立高校でのコーディネーター配置などを通じて、探究学習を実施する高校をサポートしてきました。そうした活動を通じて、生徒数の少ない小規模校は、大規模校に比べて探究活動を推進する上での課題があることを実感しています」と語るのは、本プロジェクトの責任者である起塚拓志氏だ。
「生徒数が少ないと、多様な視点からの学び合いが生じにくくなります。加えて、教員の人数も少ないため、生徒を支援するための知見・ノウハウが不足しがちです。こうした課題を乗り越え、生徒たちに気づきや成長の機会を提供するために、同じ課題を持つ小規模校同士をオンラインでつなぎ、探究活動を推進する後押しになる機会をつくれないかと考えました」と起塚氏は経緯を語る。
ネットワーク参加校の拡大とともに探究が深まり、活動内容も充実
2020年度に熊本と山形、岩手の3校から実験的に始まった取組みは翌年には参加校が6校に拡大。2022年度からは三菱みらい育成財団の助成を受け、2024年度には32校まで規模を広げている。単に数が増えただけでなく、商業高校や特別支援学校、通信制高校なども加わることで、多様性や専門性の広がりが生まれているという。
「より多くの学校・生徒が参加することで、活動の幅が広がっていることを実感しています。他校に仲間が見つかることで、意欲を高め、探究を深めるヒントの発見につながります。参加校が増えれば探究テーマも多様になり、同じ興味関心で生徒同士がつながる機会をつくりやすくなります」と起塚氏は確かな手応えを語る。共通の探究テーマを見つけやすくなった以外にも、合同授業の時間調整が容易になったり、山間部と海岸部など環境の異なる学校同士の交流が生まれたり、外部ファシリテーターの協力を得やすくなったりと、参加校の広がりは探究学習をより豊かなものにしているという。
ネットワークの拡大に伴い、プログラムの内容も多様化している。柱となるオンライン合同授業は、探究学習の時間帯が合う3~4校で実施。互いへの関心を高める「アイスブレイク交流」から始まり、テーマを共有する生徒同士が学校横断のグループを組み、教員や外部サポーターも加えて活動する「探究テーマ交流会」を経て、その成果を報告・評価し合う「相互発表/交流会」によって、自身の探究成果に対する自信を深めていく。
これに加えて、「もっと他校との交流を深めたい」との声を受けてスタートしたのが放課後交流プログラムだ。問いを深める講座や先輩が体験談を語る講習会、自由に参加できる交流会などの開催を通じて、意欲を持った生徒同士が日常的につながれる機会を提供している。
また、生徒間の交流に加えて、教員間の交流・研修会も実施。教員同士がそれぞれの成功・失敗体験を持ち寄ることで、探究活動を支援するための実践的なノウハウを得られる機会になるとともに、課題や不安・悩みを共有し合う場にもなっているという。「探究学習は始まったばかりで、先生方も試行錯誤しながら実施しているのが現状です。学校という枠を超えたネットワークが悩みや不安を解消するひとつの手段になりうると感じています」(起塚氏)。
生徒たちの出会いを広げることが、誰もが自分らしく成長できる社会づくりに
参加校が年を追うごとに増加している背景には、カタリバによる積極的な情報発信もさることながら、小規模高校の教員に共通する願いがあるという。「本ネットワークの参加校に限らず、小規模校の先生方と話す中でよく耳にするのは『生徒に新たな出会いの機会をつくりたい』『もっと大きな世界とつながる機会をつくりたい』といった声です。小規模校では、幼い頃から人間関係の幅が大きく変わらないケースが多く、気心が知れている反面、ふだんとは違う自分を見せたり、考えを率直に表明したりすることが難しくなる場合があります。その点、オンラインで出会う他校の生徒に対しては、先入観なく接することができ、自分が学びたいこと、興味のあることを率直に話せるケースが多いようです」と起塚氏が語るように、本プログラムは多くの生徒に新たな仲間との出会いをもたらしている。
実施後のアンケートでは、探究活動へのモチベーションや、他者と関わることへの自信の高まりが確認できるとともに、「これまで交わる機会のなかった地域の生徒と探究活動を共有し、共通点と相違点を知ることで、新しい発見や気づきが得られた」「最初は何をテーマにすべきか迷っていたが、他の人の発表を見て、自分のやりたいことをやってみようと思った」など、学校の枠を超えた学び合いによって生徒の意欲が高まっていることが見て取れる。
「2028年度に100校を目標に、今後もネットワークの拡充を目指しており、そのためには、より参加しやすいプログラムにするなどの工夫が必要だと考えています。また、県境をこえるネットワークが、探究活動を支える機能として継続していくよう、拡充するべきポイントや自走の方策を検証していきたいと考えています」と将来への意欲を語る起塚氏だが、その先には理想とする社会の姿を見つめている。「私たちは生まれ育った場所や環境によって、将来の夢を諦めざるを得ない生徒や、興味があっても学びを深められない生徒を目の当たりにしてきました。この活動を通じて、どんな地域の生徒でも、多様な出会いが当たり前になる社会をつくっていきたい」との願いが、広く全国の教員・生徒たちを巻き込みながら実現していくことを期待したい。