Program「問い」で授業と出会い直す Question X
「Question X」は生徒が自ら問いをつくり、そして問いを持って生きることの面白さを体感するプログラム。
一人ひとりの「学びたい!」という心のエンジンを駆動させるために、生徒が学校において最も長い時間を過ごす教科の授業に着目。「Question X」の中で生徒は、教科性を帯びたさまざまな「問い」と出合い、考える喜びを体感する。その中で教科が持つ「見方・考え方」の面白さに気付くとき、生徒の学ぶことに対する意欲や関心が向上する。教科の授業が「受動的に知識を教えられる場」ではなく、「問いに出合い、自ら学びを深める場」であるという大きなパラダイムシフトが起きたとき、教科の授業を起点として、日本中の生徒たちの学びに向かう姿勢が探究的なものに変化していくと考える。
「問い」が持っている面白さに生徒自身が気付き、授業に限らず日常生活全てが「問い」にあふれて見える。そんな状態に生徒を誘い、全ての授業、生活から探究的に学び続ける生徒の姿を、全国の学校につくり出す。
活動レポートReport
「主体的・対話的で深い学び」の面白さを体感するプログラム
「授業では、分からないことを分かるようにすることに重きが置かれがちですが、学び続ける大人になるために本当に重要なのは、分かっていたと思っていたことがどんどん分からなくなっていく、そこに面白さを感じること。それが探究の神髄なのではないかと思っています」と、教育と探求社の平岡和樹さんは話す。生徒にこのような体験をしてもらう授業に変えていくことは、「知識を一方的に詰め込む」という教え方をしていた教員にとっては一種のパラダイムシフトでもある。文部科学省は2022年度の新しい学習指導要領で「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」を掲げているが、教科学習の探究化は難しい状況にある現場の状況もあるという。「『総合的な探究の時間』で対話的な学びをしているという理由で教科授業はこれまで通りのままだったり、もしくは教科の探究化の仕方が分からず困っておられる先生がいまだ多いのが現状です」(平岡さん)。「主体的・対話的で深い学び」の面白さと価値を知ってもらって、教員の学習観自体をアップデートしていきたい。19年にわたって探究学習を教育現場で模索してきた教育と探求社がこうした想いをもって新たに開発したのが、「問い」を起点とした探究学習プログラム「Question X」だ。
生徒が問いの面白さに気づくさまざまな仕掛け
「Question X」は6つのステップに分かれている。ステップ1・2は、生徒がカードゲームを通して「日頃考えもしない問い」とうっかり出会える場となっている。このカードゲームは同社が開発したオリジナルのもので、問いカード(30種類)とテーマカード(40種類)を掛け合わせて問いを作っていく。例えば、「○○の量が増えれば増えるほど、減るものとは?」という問いのカードとテーマカード「きまり」を選んだ生徒は、○○に「きまり」を入れて、その問いについて考える。一見意味をなさない、支離滅裂な問いも生まれるが、その偶然を楽しみながら、問いに対する「答えの納得度/びっくり度」や「もっと考えたい度」を生徒同士でジャッジし、ポイントを付与する仕組みになっている。カードゲームの開発について平岡さんは、「社内でそもそも『問い』とは何かという話をしていた時に、対象物と着目の角度という二つの要素が『問い』になっているのではという考え方に至りました。花という対象物に対して、美しいという角度を持つことで、『花はなぜ美しいのか』という問いが生成される。この二つの要素を掛け合わせると無限に問いが生まれるわけです。それを今回のカードゲームのモチーフにしました」と語る。ゲームにすることで楽しさという要素を取り入れ、生徒の関心を惹きつける仕掛けも、長年探究学習のノウハウや知見を蓄積してきた同社らしさと言える。このステップ1・2を経て、生徒たちは問いの面白さを感じるとともに、自分自身の思考やモノの見方にも気づいていくようになる。
ステップ3・4では、白紙の「クエスチョンカード」を持って、「問い探し」の宿題に取り組む。次の授業では各々の「クエスチョンカード」を持ち寄り、その中から自分が気になるものを1つ選び、今度はその問いの「○○」に当てはまるテーマを探す宿題に取り組む。あえて宿題とすることで、生徒たちは授業内だけでなく、日常の中で問いを意識することになる。「教室を出て問いを探すというワークも組み込み、机上だけではなく、日常の中で、体や心で感じる仕組みにしているところが工夫したポイントです」(平岡さん)。
最終ステップ5・6では、問いが広がっていくプロセスや分からないことを楽しんでいく醍醐味を味わう。これまでの過程を踏まえたうえで「自分だけの問い」を決め、ここをスタートにして、「分かったこと、発見したこと、思いついたアイデアや自分の考え」と「問いを深めることで新しく生まれた問い」の二つに整理し、そのつながりを矢印で結んでいく。例えば、「自分の今の問い」を「天気が人に与える影響は」とした場合はこれをスタートに、「雨の日に頭痛になる人がいる」「雨の日は前髪がクルクルになる」という分かったことや発見したことを書き出し、そこからそれぞれ「気圧が健康に影響を与えるのはなぜ」「雨の日でも髪型が崩れない方法は」という問いをさらに導いていく。「これは実際に京都の高校の生徒が書いてくれた事例で、最終的にたどり着いた問いは『モテるために、髪型はどれぐらい大事?』。これが彼にとって一番重要な問いだったんだと思います。一見軽いように見えて、実は文化、ファッション、文学の面からも考察できるとても深い問いになっていると思います」と平岡さんは話す。
このプログラムの最後には、「今の問い」から繋がって発生した問いや最終的にたどり着いた問いまでのプロセス、一番ワクワクした時の気持ちなどを発表する。「調べたことを結論として発表するのではなくQuestion Xではプロセス自体を発表・共有します。そうすることで、問いは変わってもいいんだ、問いは広がっていくものなんだ、何か分かるということよりも、分からないとか知りたいという気持ちは尊くて豊かなものなんだということを、生徒だけでなく先生にも感じてもらう時間になればと願っています」(平岡さん)。
問いを通して世界観が変わった生徒も
実際の授業では先生自身が同社の教材やマニュアルを基に進めていく形になっており、現在、小中高あわせて176校・約2万9000人、高校では105校・約1万5000人が活用しているという。「今年は「問いづくりワークショップ」と名付けて全国16カ所・計22回体験ワークショップを実施、約430人の先生方にプログラムを体験していただき、高評価を頂きました。プログラムを導入いただいた学校には弊社のコーディネーターが付き、実施の相談や振り返りなども行います」と平岡さんが話すように、サポート・フォロー体制も整えているという。
「Question X」を体験した生徒たちからは「授業の後、帰り道や学校内、家などがいつもより華やかに、色とりどりに見えた。廊下を歩いただけでもいくつもの問いを発見したから、世界に行ったらもっと多く、深い問いがあるんじゃないかと思った。いつか、周りに何もないような所に行って、そこから問いを見つけてみたいと思った」「一見、なんのことだかよく分からない問いを考えてみることで、自分がこれまで狭い世界で生きていたことに気づかされた。自分は、見たいものしか見ておらず、その外側には知らない世界がたくさんある。普段見慣れているすべてのことが、考える視点を変えると全く違って見えてくる」など、問いの可能性に気づいたワクワク感が伝わる感想が寄せられているという。
一方、先生からも「教科の本質が問いであることを思い出させてくれた。Question Xに取り組んで以降、自分の理科の授業を『生徒が問いを立てる』ことからスタートする形式へと変えた」「生徒にとって問いとは『与えられるのを待っている』ものだが、Question X に取り組むうちに生徒たちは『自分で問いを立てる面白さ』や『答えがない世界に飛び込んでみる楽しさ』に気づき始めていた。そんな彼らの挑戦はすごくイキイキとしていて、私たち教員も一緒に楽しんで取り組むことができた」「教員研修としても、Question Xはとても有効。学ぶことの楽しさを、まず教員が思い出すことが大切だと思った」という声があがるなど、「主体的・対話的で深い学び」のヒントを得た先生方は多いという。
「年間を通して、『問い』を軸にした学年運営をしていきます、と言ってくださった先生もいらっしゃいました。遠足に行ったら必ず問いを持ち帰る、芸術鑑賞会後も感想ではなくそこで感じた問いを発表する、修学旅行も問いを軸に編成されているようです。そうすることで、問いの面白さや奥深さが自然と生徒・教員全員に染みわたり、日々の授業も探究的な内容に変わってきていると伺いました。私たちとしてはすごく嬉しい理想的な事例だと思っています」(平岡さん)
生徒も教員も、やらされ感ではなく、ワクワク感と主体性をもって、問いの面白さに気付けるQuestion Xは、開発に2年かけたというだけあって、教育と探求社がこれまで蓄積してきた知見とエッセンスが詰め込まれているプログラムだといえよう。