Program大自然溢れる空間で、人と繋がり、自らの問いにひたすら向き合い暮らす、
次世代型探究プログラム“Co-living Camp”
準備期間3カ月を経て、高校生計200人と大人100人が、箱根や石垣島等の大自然あふれる空間で「1週間共に暮らし、自らの創造性を開花させる」Campを開催する(運営側ではCamp期間中の企画を一切用意しない)。高校生は事前ワークで自分の軸を言語化して参加し、合宿で企画を自ら実行する。すなわち「全員が意志を持ち、その場で創発し学び合いプログラムをつくる」という今までの教育の常識を覆す、次世代の教育空間を体現する。
・事前のアート思考ワークにより、参加者全員のビジョン・ミッション・ナラティブ、リサーチクエッションが言語化され可視化された状態でCampの場がつくられ、交流の質が最大化される。
・その上で全員が自らの疑問や仮説を持ってCampの場に臨み、暮らしの中でぶつけ合い、企画し合宿のコンテンツを自らつくり上げる。
・箱根・石垣島という大自然とアートがあふれる場での開催により、「暮らす中での気づき」を最大化し、参加者同士の対話によって自らの意見や哲学に吸収することができる。
・各回、コーチング技術を持つ熟練メンターが参加。その場で生まれる高校生の葛藤や苦悩を昇華させ、大きな気付きと変化をもたらし、事前3カ月・事後半年を通じてフォローアップ。



活動レポートReport
一人でも多くの高校生が、自身の望む将来を切り開いていくために
「一人でも多くの高校生が、自分の本当の想いに従って人生を歩んでほしい。その先でたくさんの人と繋がり、そしていずれは世の中をよくするようなソーシャルアクションを起こしてほしい」。高校生みらいラボのWebサイトには、活動の背景にある想いとともに、「意思を語り、つながりをひらき、未来をともにつくる、本音のセッションの場をつくる」とのミッションが示されている。
同法人は、コロナ禍で高校生が休校を余儀なくされ、進路選択を考える機会が失われることに危機感を抱いたことをきっかけとして、2020年2月に活動を開始、2021年10月に法人化された。運営者である喜多恒介氏が高校生向けのキャリア支援プログラムをスタートさせたのは2018年にさかのぼる。「それまでにも、大学生や若手社会人向けに、講演・講義やワークショップの開催、奨学金制度の創設など、さまざまなキャリア支援活動を行ってきました。それらの積み重ねにより、若者が成長するための機会や費用は充足してきたものの、期待したほどには活用されていないことが課題でした。後は何が足りないのかと考えたとき、それはモチベーションや目的意識だと気づき、これらを育むにはより早期の高校生から取り組まなければと考えたのです」と喜多氏は高校生に活動対象を広げた理由を語る。
現在、同法人が提供している高校生向けのキャリア支援には大きく3つの柱がある。1つはオンラインによる自己探求ワークショップ。ロールモデルとの対話の機会や、自らの目的意識を明確にするための自己探究プログラムなどを、オンラインを通じて全国の高校生に提供している。2つ目が学校活動支援サービス。生徒の進路指導を担う高校教員を対象に、生徒への進路ガイダンスやカウンセリング、データ提供など総合的な支援を行っている。そして3つ目が、財団の助成対象である探究合宿“Co-living Camp”。箱根という自然豊かな環境に、全国から約150人の高校生と、起業家やイノベーター、アーティストなど約150人の大人が集まり、約1週間にわたり共同生活を送るというものだ。参加者は、ロールモデルからの刺激を受けつつ、参加者同士で互いのやりたいこと、関心のあることを共有。共に学ぶ仲間を見つけながら自身の内面と向き合うことで、将来に向けたモチベーションや目的意識を深めるなど、内面的な成長を促す場となっている。

東京大学卒業と同時に「人と人との繋がりで社会をよりよくする」をミッションに株式会社キタイエを創業し、代表取締役に就任した喜多氏。「在学中から学生同士、学生と社会を繋いでエンパワーする取組みを続けてきました。そうした活動を通じて培われた起業家やイノベーター、さらには大学や企業、行政などとの幅広い人脈が、現在の活動につながっています」と自身の活動を振り返る。

高校生みらいラボは、日本財団との提携のもとに設立され、三菱みらい財団からの助成に加え、休眠預金活用事業としての国の助成や、クラウドファンディングによるサポートを受けて運営されている。このため、オンラインワークショップなどへの参加は無料、キャンプへの参加費用も奨学金として支援するなど、高校生が参加しやすい環境を整備している。
「何も用意しない」環境で、創造性や積極性、自身の内面との向き合い方が試される
“Co-living Camp”の最大の特徴は、「運営側は何も用意しない。参加者がすべて自発的につくる」というもの。「この合宿はすべてが自由時間。約1週間の期間中、いつから参加してもよいし、いつ帰っても自由。食事の時間も寝る時間も自由。安全性を確保するための最低限のルールさえ守れば、強制される義務は一切ありません」と喜多氏は語る。
キャンプ内では、食やアート、ダンスなど幅広いテーマのワークショップに加え、進路相談、ディベート、起業家の体験談など、多彩なコンテンツが予定されているが、どれに参加するかは参加者の自由意思に委ねられている。予定されているコンテンツ以外にも「こんなワークショップをやりませんか」「話を聞かせてくれませんか」など、周囲に働きかけることで自ら場を生み出すこともできる。参加者の主体性・積極性が問われるからこそ、高い創発性が期待できるというわけだ。
学校での授業を含め、運営側に用意されることが当たり前だった高校生にとっては、ややハードルが高いようにも思われるが、参加者は数カ月に及ぶ事前ワークを通じて、自身のビジョンやミッションを明確にした上で参加している。「エントリーする時点で参加動機を文章で提出してもらっており、そのプロセス自体が自身の内面と深く向き合い、『このキャンプで何をつかみ取るか』を明確にする機会になっています。こうして事前に言語化した自分なりの仮説や疑問を、参加者同士がぶつけ合うことで、それぞれの可能性を開花させることができます」と語る喜多氏だが、一方で課題もあるという。「積極的に場を生み出している周囲と比較して、一歩踏み出せない自分に落ち込むケースも少なくありません。私も含めた大人たちが可能な限りフォローしますので、自分の殻を破ってくれる参加者もいますが、やはり全員とは言えません。義務がない、自由であるということが、相当なプレッシャーになっていることもあるかと思いますが、そうした厳しさがある分、非常にエネルギー密度の濃い場がつくれている実感があります」と、喜多氏は手応えを語る。
また、キャンプで得られた気付きや熱量をその場限りで終わらせないよう、事後プログラムも充実している。オンラインでのフォローアップや継続的な交流に加えて、メンターや高校生の発案による追加合宿も数回にわたり開催。その都度、日程の合う者が参加し、キャンプで生まれた繋がりを継続しながら、新たな学びや創発を生み出している。

メンターとして参加する大人たちには3つの属性がある。まずは喜多氏が運営するコーチングスクールのコーチたち。次に、過去のキャンプに参加経験のある社会人が、高校生に近い立場で伴走する。最後が社会で活躍中の起業家やイノベーター。活動趣旨に共感するのはもちろん、共に未来をつくる仲間を育て、見つけたいという想いで参加しているという。

実際のキャンプでは「本当にやりたいことを見つけるワークショップ」や「世界を変える方法を見つけるワークショップ」など各種ワークショップに加え、「温泉を活用したマインドフルネス」「食を通じたイノベーションのインスピレーション獲得」など、自然豊かな箱根という土地ならではの魅力あるコンテンツが実施された。

箱根のキャンプのサイト(Hakone Neighbor's Camp (studio.site))。キャンプ参加者はWebサイトやインスタグラムに加え、同法人と連携する学校を通じた告知などを通じて募集されるが、特に影響が大きいのが参加者からの口コミだという。キャンプ参加者の多くが、SNSなどを通じて、キャンプの感想や、そこで得られた感動や気づきを自発的に発信しており、それに刺激を受けた高校生が新たな参加者となることで、大きなうねりを生み出しているという。
これまでの社会になかった新たな教育の場を生み出していきたい
「周囲との対話を通じて、今やりたいと思っていることは本当の核ではないかもと揺るがされ、自分の弱さや痛みと本気で向き合うきっかけになった」「かっこいいな!と思える人は、皆何かを実行しているからイキイキワクワクしてるんだと気づいた」「今まで見ないようにしてきたけど、見えない制約が私を支配していたことを自覚した」参加者一人ひとりがキャンプを通じて得た気づきは、公式サイトや個人のSNSなどを通じて、それぞれの言葉で発信されており、「何も用意せず、自らの力で周囲と共に生み出す場」が、高校生にとって得難い機会であったことが分かる。「自分のあり方次第で世界が変わることに肌感覚で気づく、それが参加者にとって一番の収穫だと思っています。自分からアクションを起こせば、周囲の人々がリアクションし、結果として社会が応えてくれるという安心感が、参加者それぞれの支えになってくれれば嬉しいですね」と喜多氏は語る。
そうした気づきをより多くの高校生に得てもらうべく、同法人では、今後も同様のキャンプを継続するとともに、新たな取組みもスタートさせている。1つは探究学習の教材作り。やりたいことを見つける方法や葛藤を乗り越える方法など、これまでの活動で得られたノウハウを書籍や動画にまとめている。加えて、探究学習をサポートするAI開発にも取り組んでおり、両者をセットで全国の学校に提供することで、高校生一人ひとりがより深い探究学習を実現できる環境を整備していくという。
加えて、新たな奨学金制度「みらい探究創造奨学金」もスタートさせている。「探究と創造を続けたい」との想いを持った18歳以下を対象としたもので、用途は問わず、自由に使えるのが特徴だ。「いわば新しい教育スタイルの実証実験とも言える取組みです。今後は受給者だけでなく、資金を提供する側も拡大し、『若者の成長を応援したい』『一緒に社会を良くしていく次世代の仲間を見つけたい』という意欲を持った大人たちが、学校や教室という枠組みの外から若者の成長を支えていく、そんな社会的なムーブメントにしていけたら」と喜多氏は今後の展開を語る。

2022年3月の初回、2023年7月の第2回を踏まえて、2024年7~8月には、事前キャンプ、事後キャンプを含めたトータル14日の規模で開催。

過去の参加者の声を反映し、各種コンテンツの参加だけでなく、食事やリフレクションなども含めてすべての「義務」を撤廃したことで、より参加者の自立心が試される場となった。

2024年度には「キャンパスを持たず、世界を廻りながら学ぶ大学」として知られるミネルバ大学の学生約10名がメンターとして参加。参加した高校生にとっては、多様なバックボーンを持つ学生とのグローバルな交流を通じて、視野や世界観を広げる絶好の機会となった。