Program学校間で切磋琢磨しながら『社会実装』に挑戦する長期ゼミナール
実社会における先進的な社会テーマを取り上げ、各領域の先駆者が講師として直接指導しながら、参加生徒が「社会実装(商品の製造販売や動画の配信、イベントの実施など社会行動を実際に起こすこと)」を目指す長期ゼミを実施する。
複数校が同じ講座を並行開催することで、継続的に講師の伴走を得ながら、学校間で切磋琢磨し合いながら社会実装を目指す。
また、社会実装を目指す探究活動を踏まえ、一人ひとりが自身の特徴や志、将来像といったキャリア像を内省することで、参加者の社会変革に対する心のエンジンを駆動させる。
本プログラムは全国から6校選抜し、学校の正課もしくは放課後の希望制講座として、2022年9月から翌3月までの約半年間にわたる長期講座として実施する。
4種類の社会テーマ・課題を取り上げ、各校2テーマ(=2講座)ずつ取り組む予定。
活動レポートReport
実社会にあるテーマを取り上げ、社会実装を目指すプログラム
2016年に創業した株式会社ミエタは、実社会の先進的な社会テーマを取り上げ、その第一線で活躍する社会人講師による指導のもと、「社会実装(商品の製造販売や動画の配信、イベントの実施など社会行動を実際に起こすことなど)」を重視したカリキュラムを高校などに提供している。
6年間にわたる、全国21の中学・高校、延べ約1万5000人の生徒に対する実績を基に、2022年度に新たにスタートしたプログラムは、同じテーマの講座を複数校で同時進行するというもの。例えば、「カンボジアの保健衛生の問題解決に向けて」「持続可能な都市モデルの構想発信に挑戦」の2テーマを選んだ4校は10月から翌2月まで約5カ月間かけて、また「楽しみながら社会課題を学べるおもちゃを作る」「社会課題を自分事にするグラフィックコンテンツを作る」のテーマを選んだ2校は年度末の2カ月間にわたってプログラムを実施した。各校でリサーチやグループワークを進めつつ、講義を対面で行った場合は、それをオンラインで結んだり、録画を見てもらうという形をとっている。プログラム後半には、フィールドワーク(海外の場合はオンライン)やユーザーヒアリングなどを行い、企画を形に落とし込んでいく。ミエタ代表の村松知明さんは「複数校で同時進行していくことで、中間発表など生徒同士が切磋琢磨する場を設けられること、また学校側の費用負担軽減にもつながるなどのメリットがあります」と話す。ミエタのスタッフはファシリテーターとして対面またはオンラインで毎回参加し、生徒たちとコミュニケーションを重ねていく。村松さんは「先生たちの負担を大幅に軽減するプログラムであることが、本プログラムの大きな特徴と言えます。極端に言えば、先生は最初に生徒の点呼を取るだけでよくて、企画や準備、運営中の指導や伴走は講師や私たちが担いますし、授業以外のやり取りはgoogleクラスルームを使って先生にも見えるような形で共有しています」と話す。
「社会実装」が生徒のリミッターを外す
医師や建築家、おもちゃクリエーター、事業プロデューサーなど、ミエタが擁する約50名の講師の専門性やキャリアは幅広く多様性に富んでいる。講師の選定については、長期間にわたるプログラムとなるため、ミエタの理念に深く共感し、生徒たちに寄り添った指導を行うことができる方、また生徒に親近感を持ってもらうため20・30代の方にお願いしているという。また講座の実施に当たっては、「答えを教える先生的な存在」ではなく、「生徒と対等に、共に正解のないミッションを考え抜いていく伴走者」であることを講師の皆さんにお願いしていると、村松さんは話す。「もともと講師の皆さんは強い信念をもって社会課題の解決のために日々“探究”しているので、自分が“成功者”だとか、自分のやり方が絶対に正しいとは思っていません。生徒たちに対して対等に向き合い、一緒に考えてくれることができる方々をアサインできるというのがミエタの強みでもあります」。
2022年度の生徒の評価をアンケートから見ると、「とても満足」は48%、「満足」とあわせると87%が満足と回答しており、ミエタが通常展開しているワークショップと比較しても満足度が高いという。中長期的に取り組むことで、チームの結束力が高まったり、また講師やファシリテーター、校外の方々との関係性を構築できる点が、高評価につながっていると考えられる。本プログラムの設計・企画を担当し、ファシリテーターも務めている段原亮治さんは「カンボジアの保健衛生をテーマにした講座には、もともと医療や国際協力に興味があり、モチベーションが高い高校生が参加してくれていましたが、現地の方と直接オンラインで話すうちに、どんどん当事者意識が高まっていき、アクションを起こしたいという強い想いが感じられました」と話す。実際、このテーマ講座では有志者がカンボジアを訪れ、現地調達の素材で作れるせっけんなど、自分たちが企画制作したものを披露するというアクションにつなげている。
もう一つ、高い満足度につながる大きなポイントは「社会実装を目指す」ことにあると、段原さんは話す。「このプログラムの序盤から、生徒の皆さんには学んで終わりではない、社会に対して働きかけをしていくことがゴールで、中高生にできる範囲でと自ら限定する必要はないと伝え続けてきました。自分たちが行動していいとなったとたんに、生徒の学び方や姿勢も変わってきます」。また学校や自治体だけでなく、第三者が入ることが社会実装を具体化する上では重要だと、村松さんは話す。「例えば地域創生という課題に対して、学校や自治体の中だけで解決策を探ろうとしてもなかなか実現化することはなく、提案だけで終わってしまうことが多いと思います。しかし、講師を務める方々は実社会で悪戦苦闘しながら企画し、具現化し、行動に移している。アクションすることで変わることがあるという“社会の光”に生徒たちが実際触れることが重要だと考えています」。
子どもたちに実社会で自分にもできることがあると気づいてもらい、自信を持たせキャリア形成につなげていく。こうした教育の必要性を村松さんが感じたのは、三菱商事で海外事業を担当していた時だったという。海外から日本を見てみるとそのプレゼンスが下がっていることを実感するとともに、学生時代からの友人や後輩が社会人になって「自分自身が社会で何をしたいか」というビジョンを描けていない人が多いことに疑問を感じたと振り返る。「偏差値主義や詰め込み教育など、自分が受けてきた教育の中に、大きな社会課題があるのではないかと気づきました。人生をかけて教育を根源から大きく変えたいと思い、会社を辞めてミエタを立ち上げました」。
一流企業に入るためにはいい大学に入学しなければならない。そのために、高校では受験勉強に重きが置かれる。従来からのこうした考え方がさまざまな領域でひずみを生み出し、高校や大学では教育の在り方について見直されている中、企業はどのようなアクションを取るべきだろうか。村松さんは「教員の人員不足が問題になっていますが、今後は教員免許を持っていない人材が教育業界に流れていく時代になってくると考えています。そうした中で、例えば企業の社員の方に我々のプログラムに参加してもらい、実社会で生かしている専門性をもって週の3分の1でも生徒たちのファシリテーターをしてもらえたらいいなと思っています。一方で、企業にとってのメリットは何かといえば、実社会の体感値を高める機会になるという点です。大手企業になるほど現場の状況がよく見えず、表層的なところでビジネスをしてしまうケースが多い。社会創造には体感値が必要になってきますが、それを得る機会が教育にはあるのではないかと考えています」と話す。
段原さんも、テレビ局での新規事業立ち上げ、ベンチャー企業のCEO、インドでのスタートアップ支援などの経歴を経て、ミエタに参画している。ビジネスの現場にいたからこそ見えてきた今の教育に対する課題、それを変えていきたいという思いを持った人材がミエタに集まり、「社会に実在する教材(=実社会のテーマや課題)を使い、各領域の先駆者と教員が一体となって生徒を育てる」という教育モデルの構築に取り組んでいる。