Program岐阜大学 アントレプレナー育成プログラム
~ 野心よ集え ~
世界的な製造業の集積地である東海地域において革新的な事業を創出・持続的に発展させ、従来の産業構造を変革し得る卓越的起業人材を発掘・育成する「体系的アントレプレナー育成プログラム」を実施する。
本プログラムでは、すでにアントレプレナーシップを有する野心的な受講生を対象に、さらなる視野拡大・意識改革を促す(出過ぎた杭になる)「マインドセットステージ」から、受講生一人ひとりが自ら社会課題を調査・発掘し、それを解決するための革新的事業アイデアを創造する「コンピテンシー形成ステージ」、自ら発案した革新的事業アイデアの具現化・事業化・起業化に向けた取り組みを行う「社会実践ステージ」までをシームレスに実施し、卓越的起業人材を育成・輩出する。特に、「コンピテンシー形成/社会実践ステージ」では、受講生一人ひとりが自らの原体験・内発的動機により心から解決したい課題を探索・発掘し、自らの強い意思と行動で課題解決を試み、革新的な価値創出を目指す。
本プログラムで育成した人材が、将来、イノベーション創出の礎となる「東海スタートアップエコシステム」の中心的メンバーとなり、地域経済の活性化・発展、新産業創出の促進、産業構造の改革、そして地域創生を実現していく。
活動レポートReport
東海地域の産業構造を変革させるような起業人材の育成を目指す
岐阜大学がある東海地域(愛知・静岡・三重・岐阜)は、トヨタグループに代表される自動車や工作機械、航空宇宙分野など、モノづくり産業の拠点が集積する地域。製造業が非常に活発である一方で、新たな分野の産業が芽吹きにくいという課題を抱えている。さらに、2050年カーボンニュートラルに向け、自動車の本格的な電動化が進めば、産業構造は大きく変化し、東海地域はより大きな影響を受けることが予測されている。
「本学では2017年に起業プログラムをスタートさせ、2020年には中部地域で初となる大学公認の「起業部」を立ち上げるなど、アントレプレナーシップ教育に力を入れてきました。これをさらに加速させ、東海地域において革新的な事業を自ら創出し、その持続的な発展により産業構造を変革しうるような起業人材の育成を目指して、独自の体系的アントレプレナー育成プログラムを開始しました」と、プログラムを担当する上原 雅行教授は語る。
プログラムの対象は、アントレプレナーシップを持つ野心的な東海地域の大学1、2年や高校生。受講生の視野拡大・意識改革を促す「マインドセットステージ」から、革新的アイデアを創出する知識・能力・行動特性を形成する「コンピテンシー形成ステージ」、そして受講生一人ひとりが自ら革新的事業アイデアを創造し具現化する「社会実践ステージ」まで、3つのステージで体系的に学ぶ。
メンターとのコミュニケーションやコンテスト参加などを通じ、着実に成長する受講生
まずマインドセットステージでは、学生起業家や若手経営者を招いたセミナーを定期的に行い、座談会などで起業家のマインドや体験談に触れ、受講生の視野拡大や意識改革を促す。2023年8月に開催したシンポジウムでは、6名の若手起業家による講演と、9名の起業家による座談会を実施し、会場とWebを合わせて100名以上が参加。学生と起業家が同じ目線で、本音で語り合い、起業家のマインドや体験談、事業創出法などに触れた。
この他、新たな試みとして高校生を対象に、新しい価値を生み出す考え方や姿勢を学ぶ「高校生アントレプレナーシップ研修」を実施。カードゲーム形式で、モノ、ヒト、おカネなど、経済の仕組みを学んだ他、同大学の起業部による特別講演や、未来創造についてのディスカッションを行った。参加した高校生は、「将来の選択肢の多さや自分の可能性について考えるきっかけになった」という。また、大学生起業家が高校生160人にアントレプレナーシップ教育を行う「出張アントレ講座」も実施。「この講座は、大学生が高校生に教えることで、どのような効果が得られるのか、その検証という目的もありました。高校生には年齢も近く親しみやすい存在として受け入れられ、大学生にとっても教えることで新たな気づきがあり、アントレプレナーシップ教育における相乗効果が期待できると、確かな手応えをつかみました。2024年度は正式に実施したいと考えています」と上原教授。
コンピテンシー形成ステージでは、アイデア創出法やファイナンス、マーケティング、知的財産、会社のつくり方、仮説検証法など、新ビジネスに関する汎用知識やスキルを習得し、その上で、自ら課題を発見し、解決策を考案するとともに、グループワークで他者から学びを得ながら革新的ビジネスアイデア創出にチャレンジする。このステージでは、スポットコンサルティングを生み出した日本最大級のナレッジプラットフォームを有するスタートアップ企業のビザスク社と連携し、アイデア創出法からビジネスモデル構築までを学べる講座を実施。プロ人材が講師となり、リアルな経験・知見を学生に伝授した。
また、プログラムを進める上で大きな課題となったのが、受講生それぞれのアイデアに対して助言を行う優秀なメンターの確保だったという。「本学のネットワークだけでは最適な人材の確保が難しく、全国の大学初の試みとして、リクルート社のサービスを活用して、副業人材2名を社会人メンターとして採用しました。起業や事業開発に関する知見はもちろん、学生の意見や相談に対して、否定や自身の意見を押しつけないコミュニケーションができる方々で、専門家の見方を知ることができると学生からも好評です」(上原教授)
社会実践ステージは、プログラムの総仕上げとして、ビジネスコンテストやプレゼンテーションに挑戦。2024年2月の「ぎふビジネスアイデア・プレゼンテーション」(同大学が主導で企画)には、本プログラムの受講者を中心に、高校生・大学生の36チーム(計100人以上)がエントリーし、11チームが本戦で発表した。コンテスト前には、プログラムの一環として地域の専門家(経営者など)を招いて、参加学生のビジネスモデルやプレゼン資料をブラッシュアップするグループワークを複数回行った。
この他にも、全国規模のビジネスコンテスト「第13回ビジネス創造コンテスト」において、受講生が最優秀賞とグローバルビジネス賞を獲得、東海地域最大級の「Tongaliアイデアピッチコンテスト」においても受講生2チームが最優秀賞を獲得するなど、確かな成果につながっている。
さまざまな社会課題の解決につながる思考力行動力を身に付けてほしい
コンテスト入賞という成果は出ているが、「アントレプレナーシップ教育において、ビジネスコンテストでの入賞が最終目的ではない」と上原教授はいう。「コンテストに参加すれば、審査員やメンターからアドバイスがもらえます。さらに発表することで、アイデアに対するリアクションが得られ、それは市場調査にもつながります。また、チームメンバーの募集など、人的ネットワークを広げる手段としての活用もあります。参加することで多くのメリットを得ることができます。入賞はあくまで成果を測る指標の一つでしかありません」(上原教授)。
同大学では次年度より、アントレプレナーシップ教育の効果測定手法として、早稲田大学アカデミックソリューション社(WAS)との共同開発による自己効力感を尺度にした効果測定の導入を検討している。また、メンターのさらなる充実化にも力を入れるという。「本プログラムは、受講者一人ひとりにマッチした多様な支援を重視しており、特に社会実践ステージは個別案件になるため、最適な社会人メンターの存在が重要になります。ビザスク社やリクルート社など外部機関と連携しながら、学生のプロジェクトに親和性の高いメンターのリスト化を行い、学生に最適なメンターをマッチングしていきたいと考えています」と上原教授。
「アントレプレナーシップは起業家精神と訳されますが、起業家の精神のみならず、新たな価値を創出する姿勢や行動様式を身に付けた状態を言います。本プログラムを通じて、一人でも多くの学生がさまざまな社会課題の解決に貢献する力を養ってほしいですね」と、将来への期待を語ってくれた。