カテゴリー 32022年採択

国立大学法人 京都大学

対象者数 120名 | 助成額 1800万円

https://www.saci.kyoto-u.ac.jp/venture/ims/

Program京都大学異能プログラム

 京都大学では、社会のあらゆる分野で積極的に新しい価値創造にチャレンジし、独創的な夢の実現を目指すアントレプレナー人材の育成に取り組んでいる。エントリーレベルから実践的なものまで多様なプログラムを開発・実施し、これまで多数のスタートアップや先端・異能人材を輩出してきた。

 今回は、京都大学で蓄積されてきたアントレプレナー人材育成のノウハウを生かし、高校生および学部1・2年生を対象とし、二つのコースを展開する。

1.国際開発プランニングコンテスト: 途上国が抱える開発課題(貧困など)を解決するためのプロジェクトを立案しワシントンDCの世銀本部で発表する。プロジェクトの過程でリーダーシップなどコンピテンシーを伸ばすためのワークショップやリモート留学を受講する。

2.衣食住の技術と美: 伝統的な京都の衣食住の美を再提案(リデザイン)するワークショップを行い新たな価値をニューヨークで発信する。Web3.0時代に突入する今、吸収度の高い10代後半においてアントレプレナーシップに通じる審美眼を養成する。サイエンス(材料・生物工学等)に裏打ちされた京都の伝統芸術を体験し、リデザイン(若者の視点・サイエンスの視点・国際的な視点で)を提案、デジタルなプロトタイピング(NFT、VR/AR)で実際にニューヨークでの展示・実装を行うことで、テクノロジーとアートを融合して発信することのできる次世代の先端・異能人材の発掘を目指す。

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活動レポートReport

長年にわたるアントレプレナーシップ教育の知見・ノウハウを駆使

 京都大学では、1996年のベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの設立以来、起業家マインドを持った学生・研究者の育成に注力し、国内随一のスタートアップ創業実績を有している。現在、その役割を担うのが、 に属する「イノベーション マネジメント サイエンス部(略称IMS)である。IMSでは、成長戦略本部が掲げる「蓄積した知(ナレッジ)を社会に還元する」とのミッションのもと、学内にとどまらず、他大学の学生や院生、社会人、高校生など、広く若者世代にアントレプレナーシップ教育を提供。必ずしもビジネスとしての起業に限定せず、起業家マインドを持って新たな価値創造や社会課題の解決に挑む人材育成を目指し、エントリーレベルから実践的なものまで多様なプログラムを開発・実施している。

 IMSのアントレプレナーシップ教育の特徴の1つが、既存の総合大学では教えてこられなかった“社会との接点”を提供すること。2022年からスタートした「京都大学異能プログラム」では、同学に赴任する以前から多様な業務経験を通じて国際的な人脈を培ってきた2人の特任准教授が、それぞれのバックグラウンドを活かした取り組みを展開している。1つは、途上国の課題解決に寄与するプロジェクトを立案する「国際開発プランニングコンテスト」で、国際開発に従事する専門家とのネットワークを有する真鍋希代嗣特任准教授の企画・運営によるもの。もう1つが、先端技術を駆使して京都の伝統芸術をリデザインする「テクノロジーが美となるとき」で、こちらはアートとサイエンスを融合する取り組みを10年以上続けてきた本多正俊志特任准教授が企画・運営している。

国際協力機構(JICA)や世界銀行ワシントンDC本部での業務経験に加え、途上国での起業経験も有するなど、幅広い経験を通じて国際開発の最前線における知見と人脈を培ってきた真鍋希代嗣特任准教授。主催する「国際開発プランニングコンテスト」では、そのネットワークを活かして世界銀行本部での発表会や国際開発の専門家とのセッションを実現している。

出身研究室を母体とする東大発ベンチャーや名古屋大発バイオ企業の共同創業など 、国内外で事業 実績を重ねるとともに、コロンビア大学などで講義経験を有する本多正俊志特任准教授。伝統芸能を仕事にする家族のもとに生まれたことや、「ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」を掲げる米国NPO、TED(Technology Entertainment Design)のライセンスに基づく活動を日本で初めて企画した経験が「テクノロジーが美となるとき」にも活かされている。

途上国が抱える課題解決策を国際舞台で発表する「国際開発プランニングコンテスト」

「近年、国際開発に関心を持ち、将来的に国連やNGOなどで活躍したいと考える若者が増えていますが、その実現は容易ではありません。『国際開発プランニングコンテスト』は、そうした若者たちを応援するために企画したものです」と語る真鍋准教授。その背景には、次のような課題意識があるという。「彼らのビジョン実現を阻む要因を考えると、2つの課題が見えてきました。1つは、自分の手の届く範囲だけで考え、行動しがちなこと。そこで、より多くの人を巻き込むリーダーシップを磨き、活動をスケールアップさせていくマインドを培うべきと考えました。もう1つが、特に地方の方々に顕著ですが、身近にロールモデルが存在しないため自分事     として捉えづらいこと。国際開発のような社会的な仕事は、決して都会に暮らす人たちだけのものではなく、自身の延長線上にもあるものだと知ってもらいたいですね」(真鍋准教授)。

  こうした想いを込めて企画された本コンテストは、全国から募った高校生および大学1、2年生、計50名を10チームに振り分け、京都での集中講義とオンラインでのフィールドワークやディスカッションを通じて、途上国の課題を解決するプロジェクト案をプランニングしてもらうもの。各チームの成果は国際開発の最前線で活躍する専門家によって審査され、優勝チームにはワシントンDCの世界銀行本部でプレゼンをする機会が与えられる。

「参加者の声を聞くと、もともと高かった国際開発への関心が、より深く、具体的なものになっていることが分かります。加えて、多様なキャリアを持つ専門家との対話を通じて、自分の興味・関心に応じて仕事を変えていけるという気付きを得るなど、キャリア教育としても有意義だったと感じています」と真鍋准教授は確かな手応えを語る。

国際開発プランニングコンテストのワークショップの様子

国際開発プランニングコンテストに参加した高校生たち

2022年度はスリランカとカザフスタンの課題をケーススタディに、各チームで課題解決を検討してもらった。「カザフスタン×保健医療」に関するプロジェクトを発表したチームが優勝に輝き、2023年3月上旬に6日間のスケジュールで渡米。ジョージタウン大学を訪問した時の様子

ジョージタウン大学を訪問した時の様子

世界銀行のワシントンDC本部にて世銀職員とディスカッション

JICA USAでのセッション

京都の伝統美と先端技術を融合させた作品づくりに挑む

「“美”というものは、社会での価値創造における重要な要素ながら、複合的かつ学際的なテーマであることから、文系・理系に分けて考えがちな大学教育ではあまり議論されてこなかったという意識があります。私自身が大学時代にTEDxカンファレンスを立ち上げて情報発信した経験から、美に対して鋭敏な感性を持つ10代の若者が、文理に関係なくアートのような形で社会に発信する機会が必要ではないかと考えました」と本多准教授はプログラムに込めた想いを語る。

  初年度となる2022年度は、日本の伝統美を先端技術でリデザインすることをテーマに、全国から応募のあった高校生・大学生計23名が参加。工芸やアート、エンジニアリングに関する講義の受講や、京都の伝統職人・工房のフィールドワークを行った上で、チームごとに作品づくりに挑戦した。「自分の興味や関心を“作品”という形にし、専門家の評価をフィードバックされるという経験は、起業家マインドを持って社会で活躍するための重要な原体験になるはずです。その際、私自身が日米に拠点を置いている環境を活かして、日本の誇る伝統美を海外の方々に鑑賞・評価してもらう形にすれば、より大きな意義があるのではないかと考えました」と本多准教授が語るように、優秀作品はニューヨークのNowHereギャラリーで開催された     展示会「Technology Reimagines Timeless Beauty」で発表された。

「2022年度は京都の衣食住に焦点を当てましたが、2023年度は京都の都市データを扱うなど、少し視点を変えるとともに、一般への公開より専門家からのフィードバックを重視する仕組みとするなど、微調整を加えながら継続しています。年度ごとの違いはありますが、いずれも参加者の満足度は高く、『人生が変わった』との声も聞かれます。今後もそうした刺激的な機会を、地域や専門を問わず幅広い若者たちに提供していきたいですね」(本多准教授)

プログラムの前半では、清水焼や京唐紙、茶器、象嵌など伝統職人の技や美意識をリアルに体験するフィールドワークに加え、西陣織や日本酒など各分野で伝統を受け継ぎながら新たな価値を創出するクリエイターを招いての講義やワークショップを受講。美についての知識や考えを深める経験を通じて、自分なりの美を創出する手法を見出し、各チームでの作品づくりに反映していった。
(「テクノロジーが美となるとき」アーカイブ映像からのキャプチャ)

ニューヨークでの3日間にわたる展示会では、宇宙人を招いた茶会をCGや3Dプリンティングで具現化した作品や、機械学習により来場者を描いた浮世絵を自動生成する作品など、独創的なアイデアが多くのニューヨーク市民の注目を集め、日本文化への関心を広げる機会となった。地元の新聞に加えてNHK全国ニュースでも報じられるなど社会的なインパクトも大きく、参加した学生にとっては大きな自信につながったという。
(「テクノロジーが美となるとき」アーカイブ映像からのキャプチャ)

アントレプレナーシップ教育の新たな枠組みづくりへ

  両コースとも、実施現場で得られた気付きやアンケート回答などをもとに、改善を加えながら継続的に実施しており、プログラムとしての完成度は高まりつつあるというが、企画・運営を担う2人はさらに先を見据えている。

  例えば真鍋准教授は「国際開発プランニングコンテスト」の仕組みを他学校に拡大させることを検討している。「ある高校からは一度に5名の生徒が参加しましたが、帰国後に先生から『生徒たちの変化が目に見えて分かって感動した』とのお言葉を頂きました。その高校と対話を続けていて、修学旅行のメニューに本コンテストの要素を部分的に導入できないかと検討しています。もちろん課題はありますが、私の持つネットワークやノウハウを体系化し、他の先生方でも運営できるようにすれば、私一人の限られた時間ではできないような広がりを持たせられるのではないかと期待しています」(真鍋准教授)。

  一方、本多准教授はアントレプレナーシップ教育において“美”について学ぶ意義を強調する。「起業に際しては、扱う製品・サービスの機能や性能、コストなどのファクトが重視されがちですが、これからの個別化する時代においては、それらに加えて『なぜあなたはそれを売るのか』『どんなユーザーに刺さるのか』といったコンセプトやストーリーが重要になります。美という個人の価値観や文化に左右されるものを     ストーリーとして伝え、周囲の共感を生み、巻き込んでいく力は、起業家の大きな武器となるはずです。その意味でも、本プログラムを通してアントレプレナーシップ教育の中に美の要素を盛り込んでいきたいですね」(本多准教授)。

  2人が牽引する独創的なプログラムが、これからのアントレプレナーシップ教育に新たな潮流を生み出すことが期待される。

 

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