ProgramW-EDGEユース・イノベーター(WEYI)育成プログラム
早稲田大学におけるアントレプレナーシップ教育(WASEDA–EDGE人材育成プログラム)の豊富な実績を基盤に、国内外の連携先の英知を結集し、高校生〜大学1、2年生を対象として、「実践」と「人間的成長」を重視したアントレプレナー育成プログラムを実施する。これにより、社会・産業構造の変革を起こす意欲を備えた、将来の起業あるいは社内での新規事業創出等による多様なイノベーションを担う候補生であるW–EDGEユース・イノベーター(WEYI)を育成する。
プログラム参加者は、意識醸成からビジネスアイデア発表まで3ステップで体系的に構築されたプログラムを受講する(参加プログラムは選択制であり、複数参加も可能)。具体的には、インターン形式で起業を経験するプログラム、地域創生や医療現場の課題などの社会課題の解決に取り組むプログラム、コーチングやリーダーシップ醸成など多様で先端的な教育を提供する。また、実践の場でのプレゼンテーション能力向上や育成した人材の活躍周知のため、選抜されたアイデアをDemo Dayや海外のステージで発表してもらう。
本取り組みを本学およびその周囲のイノベーション・エコシステムに接続し、社会や地域に対して革新的なインパクトを与える人材育成を目指す。
活動レポートReport
豊富な実績とネットワークを基盤に、先端的なアントレプレナー教育を提供
2023年12月、デザイン思考の総本山で知られるスタンフォード大学d.schoolの講師3名による「デザイン思考ワークショップ」が、早稲田大学本庄高等学院で行われた。早稲田大学系列の早稲田大学高等学院・早稲田大学本庄高等学院・早稲田高校・早稲田実業学校高等部から29人の高校生たちが参加。約3時間のワークショップでは、生徒たちはデザイン思考の概略を教わった後に、自分が熱中しているものを書き出す→その熱中しているものに関連付けて、ある果物の魅力を伝える→実際に広告画像を作ってみる→発表を行った。デザイン思考の、共感・問題定義・アイデア出し・プロトタイピング・テストの五つのプロセスを体験したことになる。講師が突然リアルな果物を出してきて、この広告を作って、という無茶ぶりに近いミッションが課されても、生徒たちは慌てることなく、工作したり、撮影して編集したりと、約18分という短い時間の中で全員が思い思いの広告を創り上げ、その狙いや制作意図をプレゼンした。英語かつ長丁場のワークショップとなったが、生徒たちは集中して取り組み、最後の記念撮影では疲れよりも楽しさと興奮が混じった表情を見せていた。講師たちも高校生たちの奇抜なアイデアに感嘆し、終始笑顔で生徒たちとのやり取りを楽しんでいる様子だった。
このワークショップは今回で2回目。d.schoolのこの3名の講師は世界中で教育を行っているが、高校生を対象としたものは初めてで、2022年度の最初の回は入念に準備して臨んだと、早稲田大学リサーチイノベーションセンター副所長の島岡未来子教授は話す。「d.schoolの講師からは、生徒たちは高度な英語を使って自分たちの想いをしっかり伝え、かつ創造性を発揮していると、絶賛の言葉を頂いています。2年目もd.schoolの講師と事前に何度も話し合い、前回の課題も踏まえ、枠組みを変えて実施しました。実際の果物を使いたいというのは講師からの提案です。社会人や大学生とは違う、クリエイティブな反応を見せる高校生との取組みを面白いと思ってくれているようです」。
意識醸成からビジネスアイデア発表まで、三つのステップで体系的に構築
早稲田大学が高校生、大学1・2年生を対象にしたアントレプレナーシッププログラム「W-EDGEユース・イノベーター(WEYI)」をスタートしたのは2022年度のこと。早稲田大学にはアントレプレナーシップやイノベーション研究の第一人者が多く所属しており、大学生、社会人を対象にしたプログラムは数多く実施していたものの、高校生向けプログラムは実施の機会がなかった。「大学生では遅い。もっと若い世代からアントレプレナー教育が必要だというのは関係者の共通認識となっていました」と島岡教授は話す。財団の助成を機に、学内の関係者にヒアリングしながら、高校生向けのプログラムを構築していったという。
WEYIは大きく「起業家マインドセット」「起業スキル学習」「成果発表」の三つのステップに分かれ、各ステップで同大学のリソースやネットワークを生かしたさまざまなプログラムを用意している。ステップ1「起業家マインドセット」では、23年8月に導入編のワークショップを実施。高校生17人、大学生22人が参加し、アントレプレナーシップの概論、グループワーク、発表、リフレクションを行った。参加後のアンケートでは「満足した」「非常に満足した」が100%と、高い満足度が示されている。
ステップ2「企業スキル学習」のプログラムでは、前述したd.schoolによる「デザイン思考ワークショップ」、東京都国分寺市・早稲田実業学校高等部・早稲田大学の3者連携による「地域創出アイデア創出プログラム」、早稲田大学・多摩美術大学・滋賀医科大学連携による「ヘルスケア×デザイン×ビジネスモデルによる価値創造講座」など、さまざまなパートナーと組んだ多彩なプログラムを実施している。
国分寺市との連携事業では、高校生9人、大学生5人、国分寺市役所職員5人、会社員1人、高校教員5人と、さまざま立場からの参加者が集い、2日間にわたって地域創生のアイデアを練っていった。「当初、国分寺市役所からは参加者がいるかわからないという反応でしたが、ふたを開けてみると5人の方が自ら手を挙げて参加してくださいました。アントレプレナーシップが行政にも必要だという認識が広まってくれたのは嬉しい成果だったと思っています」と島岡教授は振り返る。
3大学連携による「ヘルスケア×デザイン×ビジネスモデルによる価値創造講座」では、大学生をメインとしつつも、早稲田大学附属系属校の生徒も参加し、関係者のヒアリング、アイデア出し、ビジネスモデルの検証などののべ7日間にわたるプログラムを体験した。
そしてステップ3「成果発表」として、2024年2月に「WASEDA EDGE Demo Day」を開催。これまで実施してきたプログラムの参加者が出場するコンテスト形式の成果発表の場、という位置づけだが、スポンサーである10企業が審査員としても参加し、起業賞金も付くなど、単なる発表の場に留まらない、ビジネス化に向けた真剣勝負の場になった。高校生6名、大学1・2年生24名も参加した結果、高校生2チームがWEYI賞を受賞。大賞を受賞した大学生・院生のプログラムは社会課題に沿った実現性の高いものばかりで、高校生にとっては、同世代の成果発表とは異なる刺激を受けた場になったと思われる。審査員長を務めた大野高裕教授(早稲田大学理工学術院)は、「高校生の案は、ビジネスモデルという点ではまだまだ未熟でしたが、その分着眼点が面白く、かつ自治体と一緒に活動している、企業に交渉しているなど、すでに自ら動いている例が多く、心強いと感じています」と話す。
系列校とのネットワークの強化を促進
WEYIのスタートと並行して、早稲田大学と附属系属校の高大接続も組織立って取り組めるようになってきたと、早稲田大学リサーチイノベーションセンター アントレプレナーシップセンターの深見卓司課長は話す。「それまでは附属系属校7校が、それぞれ独自に大学と連携していましたが、早稲田大学教務部高大接続課が中心となって、各校のニーズを吸い上げ、横串を通し、事例共有やすべての高校が参加できるイベントの開催などを実施しています」。d.schoolの講師によるワークショップも初回は本庄高等学院の生徒だけだったが、23年度はすべての附属系属校校に門戸を広げ、国分寺市と早稲田実業高校とのプロジェクトは、前年度に行った埼玉県本庄市と本庄高等学院の連携ノウハウを基に実施されている。また高校生向けのビジネスコンテストを長年開催している日本政策金融公庫には、系属校5校を対象にした出前授業を実施してもらっている。「本庄高等学院には、放課後に自主的にアントレプレナーシップを学んで実践する有志団体がありますが、附属校を対象にしたビジネスコンテストを開催したところ、早稲田佐賀高校や早稲田実業学校高等部からも、高等学院を上回るチームが参加してきました。アントレプレナーシップを持った生徒たちが潜在的にいることを改めて認識できたので、高大連携の流れを加速化していきたい」と、深見さんは話す。
大学に豊富な実績とリソースがあっても、大学と高校の年間スケジュールが大きく異なるうえ、高校同士のスケジュール調整にも苦慮する。それだけに、高大接続課のような地道なネットワークを担う存在が、大学×高校との接続には欠かせない。附属系属校と連携を強化し、そのノウハウを蓄積することで、「現在受け入れている附属系属校以外の生徒の参加をさらに促すプログラムや広報の在り方を検討していきたい」と島岡教授は話す。
また同大学は、23年度からGreater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE)※1におけるkEDGE-PRIME Initiative※2にも取り組んでおり、このプロジェクトの相乗効果をどう出していくかも、これからの課題となろう。
※1『Greater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE:ジータイ)』は東京大学・東京工業大学・早稲田大学を主幹機関とした『世界を変える大学発スタートアップを育てる』プラットフォーム。首都圏を中心にした大学と地方公共団体、VC、CVC、アクセラレーター、民間企業などが結集し、Greater Tokyo(東京圏)におけるスタートアップ・エコシステムの形成を目指す。
※2 JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)が主催するプロジェクト。日本各地で小中高生等に対するアントレプレナーシップ教育の機会を拡大すべく、産業界・自治体等の方々とも連携しながら、省庁横断で一体的に推進することを目的としている。