Programグローバル・エシカル教育のための、
創作アートを応用したアクティブ・ラーニング・プログラムの開発と実践
グローバル・エシカル教育とは、「エシカル」を基盤として、地球上で起こっているさまざまな出来事や課題に関心を向け、広い視野を持つと同時に、異文化や、異なる価値観を持つ人々といかに共生していくかを学ぶことを目的とする。グローバルな事象と自分自身の生活との間に接点を見出し、課題解決に向けての方策を考案し、身近でできることを模索し、実際に行動に移すことを促すアクティブ・ラーニング型の学習方法である。
本プログラムは、演劇を中心とした創作アートを応用し、アーティストによる創作アートワークショップを体験し、学生自らがグローバル・エシカル教育のためのアクティブ・ラーニングのプログラム開発し、大学での教育実践を行う。
活動レポートReport
アクティブ・ラーニングと演劇の親和性
2024年2月3日、大阪大学、龍谷大学による、2023年度後期授業で行われた学習プログラムの成果発表シンポジウムが、関西大学梅田キャンパスで開催された。発表されたプログラム名は「グローバル・エシカル教育のための、創作アートを応用したアクティブ・ラーニング・プログラム」。一般社団法人アートをコアとしたコミュニケーションデザイン大学コンソーシアム(ACCD大学コンソーシアム)が全体のマネジメントを担い、各大学の担当教員と連携しながら実施したプログラムだ。2022年度のシンポジウムはオンラインで行われたが、2023年度は対面での開催が叶った。
グローバル・エシカル教育とは、「エシカル(道徳)」をベースに、世界中の出来事や課題に関心を向けることで広い視野を手に入れ、異なる文化や価値観の人々との共生を学ぶことを目的としたものだ。そうしたグローバルな事象と自身の生活に接点を見つけ、課題解決の方法を考えたり、身近でできることを探して、実際に行動に移すことを促す、アクティブ・ラーニング型の学習(学習者の能動的な参加を取り入れた授業)の開発に、両大学は取り組んできた。
当日発表された両大学のプログラムは、「SNSでのトラブル」「SDGsスタデイツアー」「場面によって異なる自分」「ストレスの発散」などテーマはさまざま。しかし、数分の演劇やクイズ、ジェスチャーゲームなどを中心に据え、それぞれが設定した社会課題を問いかけるというスタイルは共通している。シンポジウムに参加したのは、それぞれのプログラムを開発・実践した学生と担当教員、関わったアーティストなど限られたメンバーだが、お互いの発表を観覧するだけでなく、全員がグループワークやディスカッションにも参加する相互実践の形で進められた。参加者へのアンケートでも「バックグラウンドの違う人同士の交流による創発的な学びの多い時間でした」などの感想が寄せられ、リアル開催ならではの内容となった。
本プログラムを企画・運営するACCD大学コンソーシアムが設立されたのは2018年。以来、アクティブ・ラーニングのコンテンツ、アクティビティ、ワークショップなどの開発と教育実践を、さまざまな大学との協働によって展開してきた。提唱するプログラムの最大の特徴は、演劇を中心とする創作アートとソーシャルデザインの手法を応用している点にある。一見、アート系の学校・学部向けのプログラムに思われそうだが、創作アートの応用はあらゆる分野において効果があるという。
「アクティブ・ラーニングと演劇の創作過程には親和性があります。正解のない問いに向き合い、一つのアウトプットを集団で発表していく営み自体が、演劇の創作過程によく似ているからです」と語るのは、ワークショップデザイナーとして同団体のフェローを務める紙本明子さん。劇団に所属する俳優でもあり、現在は大阪大学の特任研究員として本プログラムに携わっている。教育現場に創作活動や演劇ワークショップを取り入れることで、学生が当事者意識を持って社会課題に目を向け、その課題解決と具体的なアクションを起こす力になるという。
こうした活動を各大学に広めるため、同団体ではさまざまな分野の学会などでワークショップを展開してきた。プログラムの有効性を証明するには、大学の先生方に直接体験していただくのが一番と考えたからだ。そうした活動を重ねるうち、「これ、いいね」「ウチでもやってみよう」という賛同の声を各所で頂くようになり、全国の大学とのネットワークが築かれてきた。
プログラムを開発・実践してこそ知り得る視点
2022・23年度は、大阪大学、京都外国語大学、龍谷大学の3校において、基礎教養科目やゼミでの授業に本プログラムが取り入れられた。プログラムは各大学1セメスター(半年単位)で、年間授業の前期か後期に実施される。演劇を取り入れると言っても、お芝居の練習をするわけではない。ワークショップを体験した学生たちが、その体験を基に、自ら演劇の要素を取り入れたアクティブ・ラーニングのプログラムを開発・実践していく。
プログラム前半では、ゲスト講師として招いた演出家・俳優などのアーティストをファシリテーターに、対話型や演劇創作ワークショップが行われた。その中で、議論・主張・投票という直接民主制による意思決定の模擬体験や、グループでのディスカッション、合意形成などを経験することにより、多様な世界観を認知し、価値軸や自己見識が拡大していくという。
プログラム後半では、アーティストのアドバイスも受けながら、学生たちがアクティブ・ラーニングのプログラムを作り上げ、自らがファシリテーターとなって、そのプログラムを実践する。
「ワークショップを受けるだけでは知り得なかった難しさや新たな視点に、プログラムを提供する側に回ることで初めて気づきます。ワークショップ体験とプログラムの開発・実践とによって完成するプログラムだなと感じています」と紙本さんは語る。
単位互換制度を利用したさらなる広がり
プログラムを作成するフェーズでは、まず5~6人でグループを組み、テーマとする社会課題と手法、対象を検討する。テーマや実践対象は、各授業によって異なる。基本的には他グループの学生に対して、それぞれが開発したプログラムを実践し合う形になるが、小学生向けのプログラムを開発した龍谷大学では、ゼミ内の相互実践に加え、子ども食堂を会場として20名ほどの小学生にも実践した。同団体のフェローであり、龍谷大学の客員研究員として本プログラムを担当する大山渓花さんが、その内容について語ってくれた。
「子どもたちを4グループくらいに分け、それぞれがアフリカや中東、北欧など、さまざまな国に行くという設定のツアー体験を、学生たちと一緒に演じてもらいました。例えばアフリカチームでは、子どもたちに象やゴリラなどの動物を演じてもらい、他の子どもたちに何の動物なのかを当ててもらうなど、クイズやジェスチャーと演劇を交えたプログラムが実践され、大学生もその国のガイド役などを演じながらファシリテーションしました」
各大学とも、それぞれの専門や特色を活かした取組みとなったが、このプログラムを通じて、社会問題や課題を発見し解決しようとするマインドと、正解が一つではない問いに向き合ってアウトプットする体験を得るという根幹の部分は共通している。
各大学の受講学生に対するアンケートでは、「ディスカッションに対するハードルが下がった」などという回答とともに、「演じることによって、自分をより客観視できるようになった」という回答も寄せられた。演劇といえば別人格を演じる面がクローズアップされがちだが、本プログラムでは、演出家のように舞台全体を見渡す力も取得できると紙本さんは語る。
2024年度は、京都外国語大学、龍谷大学に京都大学を加えた3校が前期に。後期には立命館大学を主幹とした大学コンソーシアム京都での開講と大阪大学主幹の開講(いずれも単位互換制度採用)が決定しており、継続的なカリキュラム化への道も開けてきた。その他の大学からの問い合わせも寄せられており、各大学の特徴を活かした形での広がりが期待されている。