カテゴリー 52022年採択

一般社団法人 ELAB

対象者数 150名 | 助成額 740万円

https://elab.jp/

Program主体的・協働的学習を推進するための
「創造的コミュニケーション力」開発講座

 本プログラムでは、主体的・協働的な授業設計や地域社会と連携した学校運営などに必要とされる「創造的コミュニケーション力」を、体験を通じて深く学ぶことができる。

「創造的コミュニケーション力」を伸ばすために鍵となる力は、「表現力」「観察力」「共感力」「対話力」そして「自己認知力」の五つ。プログラムではこの五つの力を理解し、体験を通して高めていく。一方で先生において暗黙知化していることも多いコミュニケーション力を整理し、先生自身が自己理解を深め、先生同士が学び合うことを促し、その意義を共有。それにより自身の授業スタイルをアップデートすることができる。

 本プログラムは、これまでに子どもから大人まで2万人以上が受講し、大企業を中心に200を超える組織でも導入の実績とノウハウを有する創造的な学びのメソッド(EGAKU)とシステム思考をベースとして設計。

 EGAKUメソッドでは、「観る」「創造」「内省」「相手の想いを想像する」「自分の想いを表現する」などの創造的な活動を通じ、「答えは一つではないこと」や「バイアスの認知」を実体験できると同時に、自身に内在する価値観や想いを再発見し共有することができる。現在全国八つの教育委員会より高い評価を受けており、一部自治体では教員向け研修としても導入が決まっている。

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「創造的コミュニケーション力」の開発を通じて、探究学習の推進をサポート

 次世代の「自分らしく未来を切り拓く力」を育むために、「アートによる創造的学び」を学校教育の現場で活用できるようプログラムを開発・提供しているELAB(イーラボ)。その取組みの核となるのが、代表理事であるアーティスト・谷澤邦彦氏が考案したメソッド「EGAKU」である。

 EGAKUは、谷澤氏が「描く」という行為の意味を探究する中で生まれた。人間が本来持っている創造性を引き出し、不確実性の高い時代を生き抜くための「創造的思考」や「創造的コミュニケーション力」を総合的に高めていけるという。谷澤氏が武蔵野美術大学において長年教えてきた豊富な経験をもとに、2002年に小学生向けからスタートし、その後、中学・高校や大学・大学院、さらには社会人へと対象を拡大。現在では延べ受講者が2万7千人以上、導入組織は大企業・官庁を含め200以上に達している。

 教育現場では、これまで課題意識の高い先生と対話をしながら、生徒に向けて設計・提供してきたが、2022年度からは教員向けプログラムもスタートさせた。その背景には現場の先生方が感じている課題感があったという。「探究の時間において、生徒の主体性や学び合いをもっと効果的に引き出すにはどのようにすればいいのか?教員がファシリテーション力を身につけるにはどうしたらいいのか?といった先生方からのご相談が増えていきました」と、同法人の理事を務める長谷部貴美氏は語る。「探究の時間において生徒一人ひとりの主体性を引き出したり、地域のサポーターや企業などと連携が必要となる中で、日々多忙を極める現場の先生方が、これからの時代に必要とされている新しい学びを推進されていくことを何とかサポートしたいという想いで、教員向け講座を本格的にスタートしました」(長谷部氏)。

 高校教員が「創造的なコミュニケーション力」を培うことは、3つの観点から探究の推進に繋がる。1つは、生徒の多様な可能性を引き出し、探究活動の土台となる自己肯定感や主体性を高められること。次に、教員同士での課題やノウハウの共有を促し、学校全体で探究学習を推進できること。最後に、地域の企業や行政など学外の多様なステークホルダーの協力を得ながら、探究学習を進めていけることだ。

「講座を通じて開発できる創造的コミュニケーション力とは、自分の想いや価値観と深く向き合いながら、多様な他者と協働して豊かな組織や社会を創っていく力だと、私たちは捉えています。講座を通じて、先生方がより自分らしく、これからの『主体的・対話的で深い学び』や『個別最適な学び』、そして『地域に開かれた学校』を推進されていくことをサポートすることで、生徒一人一人の個性や創造性を伸ばしていく教育に貢献したいと考えています」(長谷部氏)。

一般社団法人ELAB(イーラボ)は「アートを通じて心豊かな社会を創造する」ことを目的に2001年に創業した(株)ホワイトシップから、2019年に非営利組織として分社化することで誕生。ホワイトシップが個人や企業向けのプログラムを展開し、ELABが生徒や教員など教育現場向けを担っている。

創造的コミュニケーション力を伸ばすための鍵となるのは、「表現力」「観察力」「対話力」「共感力」そして「自己認知力」という5つの力。中でも核となるのが自己認知力であり、これを高めることで、自身の内面で起こることをしっかり取り扱うことができ、他の4つの力を伸ばすことができる。これらはソーシャル・エモーショナル・スキルを伸ばすことにも繋がり、生徒と教員のウェルビーイングにも貢献できるという。

20代から社会起業家を目指した経験を活かして、谷澤氏が考案したEGAKUを「個と組織のクリエイティビティを引き出すプログラム」として体系化し、共にホワイトシップを創業した長谷部氏(写真中央)。現在は同社の代表取締役として経営を担いつつ、ELABの理事として教育現場向けのプログラム開発や講師役を担っている。

創造的コミュニケーションを日常に活かすことで、教育現場に大きな変化が生まれる

 EGAKUメソッドを核とした講座では、アートの「創作」と「鑑賞」を通じて非言語表現と言語表現を繰り返す。まずはアーティストの作品を鑑賞してコメントを書き、その後、テーマに沿って自分自身で絵を描き、自分と他者の絵を鑑賞しコメントを書いていく。絵を描く中で自身の考えや想いと対峙し、他者の絵を鑑賞して対話する中で多様性を受け入れていく。こうした繰り返しの中で、自己認知の向上や内発的な動機付け、多様性の受容、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)への気付き、Growth Mindset(成長する思考態度)への変容など、さまざまな学びの効果が生まれるという。

「私たちが本講座で重視しているのは、アートによる学びの体験を通して『創造的コミュニケーション力』を総合的に高めながら、探究の時間はもちろん、日常の授業や学校運営に活かしていくことです」と事務局長の石井美沙子氏は語る。

 実際に受講した教員からは、「教員はどうしても『唯一の正解』を求めがちだが、アートには正解も不正解もなく、互いの感じ方を肯定し合えることを教えてくれた」「無意識のうちに生徒を『できる/できない』と決めつけがちだったが、誰もが大きな可能性を持っていることに気付かされた」「対話を重視した活動は日頃行っているが、そのときのシチュエーション、雰囲気などのつくり方に工夫を入れることで、もっと楽しく、生徒の社会力、人を信じる力などを伸ばせると思いました」といった声が聞かれるという。

 また、常務理事の高橋浩子氏は、次のようなエピソードを紹介してくれた。全校生徒を対象にEGAKUの導入を推進していたある教員は、受講当初「プログラムを通して起こる生徒の変化に驚いているが、自分の数学の授業においての活用はイメージできない」と語っていたが、継続的な受講を通じて「数学の授業においても生徒への問いかけが増えるなど、授業の進め方が変わってきた」という。「講座で創造的なコミュニケーションの体験を繰り返すことで、日常のおいても自然に実践できるようになり、探究の授業以外でも活用いただけた好例だと思います」(高橋氏)。

多忙な教員が受講しやすいよう「鑑賞」を中心とした1時間程度のセミナーも新たに開発した。「オンライン受講も可能にするなど、より受講しやすいプログラムにするとともに、まずは学校に予算がないことがハードルにならないよう、三菱みらい育成財団の助成をもとに受講費用のサポートも行っています」(石井氏)。

プログラムの提供は、学校現場向けだけにとどまらない。2024年6月には、東京理科大学教職教員センターの井藤元教授との共同研究もスタートしている。同教授の授業において、「主体的に探究する心を育むアートによる学び」を実施。教員を目指す学生や学び続ける現役教員たちからは、講座を通して、「答えが1つではない問いに向き合うこと」への多くの気づきの声があったという。

受講した教員が講座の学びを活かしながら仲間を増やし、取組みが拡大・多様化

 教員向け講座は、学校等での研修実施に加え、教員個々での受講も可能にするなど柔軟な提供に努めている。その甲斐あって、2020年度に37名、公立1校からスタートしたものが、2023年度には178名、公立8校、私立2校まで拡大。2024年度も10月時点で受講者が200名を超えている。

「教員向け講座は、プログラムを受講した生徒の変化に感動した教員の口コミに加えて、教育コミュニティ『先生の学校』主催のセミナーがきっかけで、そこに参加した教員から、『もっと学びたい』『自分の学校でも実施してほしい』との要望を受けて本格的にスタートしました。その後も、自ら体験して効果を実感したり、授業で実践して生徒の変化に驚いたりした教員が中心となって、校内研修として導入するなど取組みが広がり続けています。最近では、講座を受講した教員が、教育委員会や教員による研究会等に取り入れるケースも増えています。そのようなプロセスの中でも、講座で体験した『創造的コミュニケーション』が活かされ、先生方の仲間づくりやチーム力の向上に寄与していると感じています」(石井氏)。

 単に受講者が増えるだけでなく、講座自体が多様化しつつある。例えば、受講した教員が「生徒にも受けさせたい」と希望し、教員と生徒が同時に受講する合同プログラムとして実施されるケースも増えている。また、教員を目指す学生向けに教職課程の授業での活用も始まっている。さらに、大学教授と協働してアートによる学びの効果検証を本格的に始めるなど、その舞台は大きく広がりつつある。

 2024年6月には、経済協力開発機構(OECD)教育・スキル局でEGAKUが職員研修として採用され、フランス・パリのOECD本部でプログラムを実施。OECDが行う学習到達度調査(PISA)に「創造的思考力」が加えられるなか、EGAKUの価値を実感してもらうと同時に、ELABの活動についても理解を深めてもらう機会になったという。

 今後の課題として、長谷部氏は「発信力の強化」を挙げる。「現在は、先生や教育関係者による口コミで広がっていますが、今後は全国の教員や大学、教育委員会などに対しても、先生方との実践を共有したいと考えています。また、引き続きグローバルでの教育機関等とも連携しながら、日本発の先端的な学びとして国内外に広く発信することで、AI時代・不確実性の高い時代における教育のアップデートに貢献していきたいと思います」(長谷部氏)。

教員と生徒の合同プログラムは、2024年度には東京、福島、名古屋の3校で実施された。福島県立船引高等学校では、1・2年生135名が教員9名とともに受講。同校の校長からも「教員と子どもが互いの考えを突き合わせることで、子どもはもちろん教員にとってもいい勉強になる」と高い評価を得て、学年毎にプログラムを開催する展開になっている。

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