カテゴリー 12020年採択

京都府立海洋高等学校

対象者数 29名 | 助成額 100万円

http://www.kyoto-be.ne.jp/kaiyou-hs/cms/

Program高校生レストランによる「海業」後継者育成

 本校では、2015年から毎月定例で「高校生レストラン」を運営しており、水産庁長官賞を受賞した「ブイヤベースラーメン」 を軸に、地元の低利用資源を活用した弁当やスイーツの販売を行っている。低利用資源とは、底引き網漁業や定置網漁業で混獲される魚種で、本校の底引き網漁業においては水揚げ量の3分の2以上になることもある。今回のプログラムでは、未利用資源を利用した「高校生レストランの充実」と「高校生こども食堂の設置」を行い、生徒たちに福祉の精神と地元愛を涵養(かんよう)させ、地元の産業に積極的に貢献する人材の育成を狙う。

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資源を無駄にせず常に工夫・改善

 天橋立を西側(宮津湾)に望む栗田(くんだ)半島の東側(栗田湾)に位置する海洋高校を訪問した金曜日、海洋資源科食品経済コースの3年生19人が実習室で手際よく作業をしていた。翌週、デパートで販売する身欠きヤナギの干物と、校内で開催する高校生レストラン(2015年度から年間十数回)向けにブイヤベースラーメンのスープを製造するためだ。

 ヤナギとは関西で出世魚サワラの幼魚を指す(サゴシ→ヤナギ→サワラ)。定置網で採れても、成魚と違って売り物になりにくい。そこで干物に加工するとともに、頭や中骨はスープにすれば、無駄は出ない。ミシマオコゼやナヌカザメなど採れた魚によって臭みを取る野菜や煮込みの仕方を変えるなど、そのつど試行錯誤も不可欠だ。スープは一部をレトルトにしてストックし、客が多くても少なくても「売り切れなし」を目指す。

 このような「低利用資源」を一切無駄にしない取り組みは、いずれもSDGsの17の目標のうち14番目「海の豊かさを守ろう」などにかなうものだ。高校生レストランなどで出す食器も、すべて紙製にした。

 イベントへの協力要請はもとより、地元漁師や近隣農家から低利用資源が急きょ持ち込まれることもしばしば。そんな時は「ハイとイエスしかありません」と、担当の毛戸政知教諭は笑う。

 ある程度の依頼は年間指導計画に織り込み済みだが、急な無理難題も少なくない。そんな時には生徒にも「腹を割って話す」(毛戸教諭)ことで、自分たちで工夫して改善し実現しようとする実践力が、自然と身に付く。「実習では(作業を効率よく進めるために)周りを把握する力が必要になります」と話す升田実梨(みのり)さんは、兵庫県の短大に進学して缶詰の内面の塗膜の腐食を研究したいという。これも、実習を通して湧いた興味が高じてのことだ。

 3年間で印象に残る学習として生徒たちが口をそろえるのが、松坂屋高槻店(大阪府)での販売実習だ。同じ近畿圏といっても、地元住民とは言葉遣いもニュアンスも全然違う。客との会話は次の商品開発へのヒントになるだけでなく、コミュニケーションの面白さに気付き、接客が好きになることにもつながる。水産加工業の求人がほとんどない府内では、観光業や飲食業の就職に有利となる。水口ひよりさんは「日本にとどまらず、たくさんの人に会いたい」と、米国の大学への留学プログラムがある大阪のホテル専門学校を進路先に選んだ。

 森本海羽音(みうと)さんがパティシエを目指してデザートの菓子作りに力を入れながらも、兵庫県の老舗ホテルの厨房に就職を決めたのは「基礎は和食だ」と考えたからだという。「人の基本はあいさつです。一言目を習慣付ければ、コミュニケーションの力も上達します」と力説する。

 同校も他の専門高校などと同様、不本意入学で荒れ、生徒募集に悩んだ時代があった。そこで7年前、制服を一新するとともにアルバイト原則禁止、クラブ活動100%加入などをはじめとした学校改革に取り組んだ。その結果、目的意識の明確な生徒が入学するようになり、実習などを通して意欲や主体性がさらに高まるという好循環が生まれた。

 「府が赤字覚悟で水産高校を存続させると判断している以上、われわれもマックスで応えなければいけません」と毛戸教諭は身を引き締める。今回の助成を活用して「貧困をなくそう」(SDGs目標1)に取り組むため、8月から宮津市内でこども食堂「高校生レストランはままち」も始めた。

渡辺敦司(教育ジャーナリスト)

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