Programグローバル社会における「防災教育」~防災を日本の文化に~
下北BOUSAIネットワークは、青森県むつ市にある県立学校4校(普通高校2校・工業高校1校・特別支援学校1校)による協働プログラムである。各校がそれぞれの特色や強みを活かし、独自の事業を展開するとともに、情報やプログラムの共有、合同報告会の実施などで緩やかにつながっている。各校がそれぞれの学校計画の中で、無理なく継続的にできることを目指している。
下北BOUSAIネットワークでは震災の教訓を後世に伝えるだけでなく、「防災の知恵」を蓄積する研修会やワークショップを実施し、「防災」意識を高める取り組みをしている。また、避難所運営プログラムは過疎化が進む地域で、避難所運営の担い手となる高校生を育成することを目指し、同時にプログラムを汎用性の高いものに作り上げることで、他地域(日本だけでなく世界)でも参考にできるモデルを目指している。
日本は地震をはじめとする様々な災害が多いが、同時に「防災」「減災」「復興」の経験と知恵を持っている。
様々な災害が多い日本だからこそ、その知恵を生かし「防災を日本の文化に」まで高め、防災の視点から世界へ貢献することを目標に取り組んでいる。
活動レポートReport
緩やかな連携と取組で担い手の育成を目指す
2023年10月10日、県立田名部高校で行われた学期に1回の防災避難訓練。6校時終了後、校内放送からキュッキュッキュッと乾いた音に続いて「地震」と告げる緊急速報が流れ、すかさず生徒が放送室から「訓練、訓練。地震です、地震です。強い揺れに警戒し、自分の身を守る行動を取り、その場で待機してください」と2度繰り返すと、各教室では生徒が机の下に隠れた。「揺れが収まりました。そのまま教室で待機してください」。ここまでは型通りだ。
一呼吸置いて前触れもなく「これから『Fukushima50(フクシマフィフティ)』という映画を見てもらいます」とアナウンスがあると、各教室がざわついた。機材トラブルで配信が遅れたものの、黒板のスクリーンに地震のシーンが流れると皆、真剣に見入る。福島第一原発の原子炉建屋が爆発するシーンでは耳をふさぎながら目は離せない生徒も。津波のシーンまで食い入るように見つめる中で、映像が途切れた。
再びアナウンスで「緊急速報です。先ほどの大きな地震で津波が発生。諸地域で原子力発電所の爆発事故が起こりました。直ちに避難をしてください」。迎えに来た家族と①外に逃げる②学校に待機する③青森方面に逃げる④大間方面に逃げる―の選択肢を選び、指定された場所に移動した。
この間、各所で投函された用紙の回収、集計も含め、プロジェクトチームの生徒7人が忙しく動き回っていた。東日本大震災の記憶はうっすらだが、下北BOUSAIネットワーク(他に大湊高校、むつ工業高校、むつ養護学校)の視察で福島第一原発や岩手県宮古市、宮城県石巻市などを訪れた経験を踏まえ、2週間前から生徒主体で企画。そんな同級生の訴えだからこそ、自分事のように受け止めた生徒もいた。
ネットワークでは、各校が特徴や強みを生かしながら緩やかに連携して「できることを、できるときに、無理せず、楽しく」防災活動を展開し、過疎化の中で避難所運営の担い手となる高校生の育成を目指す。
幹事校である大湊高校の南澤英夫・臨時実習助手によると、原発や関連施設(計画を含む)を多く抱える下北半島は大震災で揺れが強かったものの、津波被害が少なかったため自治体にも事故の危機感が薄い。そこで、高校側から対策を促したい狙いも込めているという。定年までに青年海外協力隊やマニラ日本人学校を歴任した豊富な経験を踏まえ、同校で「地域で取り組む防災」などの展開を計画している。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)