Program「揺籃」(ようらん)
予測不可能な時代に対応すべく「『合格』ではなく『その先で何をするか』を目標とする」キャリア教育をベースとした主体的な学習者を育成するプログラム。「何もないと思えば何もない、何かあると思えば何かある」という視点で、粘り強く探究し自己の物語を紡ぎ出す。より良い自分、より良い未来をつくる。多様性の尊重に基づく一人一人の平等「自由の相互承認」に立脚する。
スクールポリシーに沿って各学年で取り組み、教師は生徒成長のための環境を提供する。新1年次生は、「スタディーツアー(東京)」と「沼東ゼミ」、2年次生は1年次から培ってきた成果をさらに発展、進化させ、各自のプロジェクトを立案、両学年ともアカデミックスキルの向上を目指し、本格的な会場で発表もする。3年次には「志望理由書」をもとに、面談を進めながら、進路決定・適応支援を行なっていく。
継承に関しては1年次から3年次生までのすべての生徒を小グループに編成、交流する「大交流会」を設けている。これらの成果はPlanned Happenstance 理論※を背景とした境遇活用スキルCPFOST の測定や「進路決定チェックリスト」等により可視化し、現場に軸足を置きながら改善を重ねている。
※キャリアに関する理論で、以下の三つがポイントとなっている。①変化の激しい現代において、キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される、②偶然の出来事を利用して、キャリア形成に役立てる、③自ら偶然の出来事を引き寄せるよう働きかけ、積極的にキャリア形成の機会を創出する。
活動レポートReport
東京の企業40社を1年生がスタディツアー
静岡県東部地区の伝統的拠点校として、普通科と理数科を擁する県立沼津東高校。単位制を取り入れ生徒の進路希望を高いレベルでかなえてきた。
大学合格の「その先で何をするか」を目標に据え、キャリア教育をベースとした総合的な探究の時間「揺籃」に取り組んでいる。1年次生はスタディツアーと沼東ゼミ、2年次生は個人プロジェクトを立案、3年次は進路決定に結び付けた探究を行う。
1年次の前半では、伝統の海浜教室を変更し、東京へのスタディツアーを実施している。自分の興味・関心のある業界、企業がどのように社会貢献しているのかを事前に研究し、9月に実際に訪問してレポートする活動だ。企業訪問を1年次に持ってきた理由は、生徒たちに「社会に出る」という大学の先を想像してほしいからだという。訪問先は約40社にのぼる。
後半は少人数のグループで仮説を立てて調査や取材を行う「沼東ゼミ」が始まる。学科やクラスの垣根を越え、15の分野別のゼミで活動するのが特色だ。成果発表は学年末に校外のコンベンション施設を借りてポスターセッション形式で行う。1回30分4サイクルで合計70グループが発表する様子は圧巻で、招かれた外部講師や保護者、大学生からの質疑応答にも積極的に臨んでいる。
2年次では「沼東ゼミ」での探究を基に、今度は1年間という長期の探究に挑む。グループは学問領域がクロスする形で編成する。心理学に関心がある生徒と、医療に関心がある生徒で一つのグループをつくれば、複数の視点からテーマを深められる。さらに専門家を外部講師としてこれまで以上に積極的に招へいし、生徒の知的欲求に応える環境を整えた。年度末に作成する論文集はQRコードを掲載しデジタルで共有できる工夫も始めた。
授業や部活動、自治会や行事の実行委員会など生徒も教員も多忙な同校。以前からあった各種行事を見直して探究に結び付ける、学年縦割りで取組を紹介する「大交流会」を開き、生徒同士で刺激し合う場をつくるなど、より質の高い探究活動を実現するため、柔軟にアイデアを実行中だ。
「本校の生徒には自ら学ぶ力を身につけ、自分だけでなく、他者をハッピーにできる探究をしてほしい」と、市川幸子副校長は、社会への視野が広がることを期待している。
長尾康子(教育ジャーナリスト)