Program生徒よし○ 学校よし○ 地域・企業よし○
「三重丸(さんじゅうまる)モデル」
豪商三井家の発祥地であり、本居宣長が居を構え、松浦武四郎が生誕した現在の松阪市に、県立松阪商業高校がある。創立百年超の歴史をもつ本校は、令和4年度に学科改編を実施し、ビジネスをテーマにした探究学習を系統的に積み上げる「三重丸“さんじゅうまる”モデル」を開始した。これは、地域・企業からの興味関心を、生徒の学びのモチベーションへと昇華するプログラムである。また、本校が核になり、産官学が連携し、コンソーシアムとして地域社会に貢献することで、生徒に○、学校に○、地域企業にとっても○となることを目指している。
1年次は「ビジネス基礎」をビジネス探究プログラムとして実施。2年次より、生徒全員が“半径5メートルの課題から”ビジネスプランを作成し、校内選考を経てコンテストへ出展する。3年次「課題研究」に向けて、デジタル田園都市国家構想「三重広域モデル」等、本校の教育資源を活用しながら自発的に課題を設定し、企業、地域社会に向けた最終プレゼンテーションを行う。社会への問いを立て、探究する学習のPDCAサイクルを構築することにより、課題に気づき、解決に向けて考え、行動を起こす自信と経験を育むことができる。
活動レポートReport
アントレプレナーシップ型の探究で地域と海外につながる
商人の町「松坂」の地に100年の歴史を刻む県立松阪商業高校。DXや生産年齢人口の減少、超高齢化社会といった社会課題に起業家マインドを発揮して解決できる人材を育てようと、探究型のアントレプレナーシップ教育を展開している。それが生徒、学校、地域・企業の三方に有益な「三重丸モデル」だ。
1年次は「ビジネス基礎」に取り組む。プログラムは県内4商業高校で作成したもので、商業の面白さに気づくことを狙いとする。2年次は総合ビジネス学科の「マーケティング」、国際ビジネス学科の「ビジネスコミュニケーション」でビジネスプランの作成に取り組む。身の周りから問いを立て、新たな価値を創造し、9月にはビジネスプランコンテストに応募して外部評価を受ける。
3年次は個人探究の「課題研究」に取り組み、7月初旬の中間発表会、最終成果を1月下旬に発表する。その際、大学教員や企業関係者、行政関係者などの外部助言者から指導・助言を受け、研究論文集にまとめる流れだ。
3年前までは探究にしても、課題研究にしても教員が課題を設定して生徒が選ぶ形をとっていた。
「でも、多くの教員も、生徒が本当に自分のやりたいと思う課題を探究するものに変えていきたいという思いを持っていた」と、西根正子校長は振り返る。
そのため分掌として「研究部」を立ち上げた。県外先進校への視察などの教員研修、4商業高校合同の「ビジネス基礎」のプログラム作成などのアクションにつなげた。日ごろからつながりの深い地域の企業にも「これからは生徒主体の学びに変わる」と探究の意義を伝えて理解を促した。
その結果、「生徒たちはいきいきと、自分から楽しそうに動いていた」と日比一海主幹教諭は言う。ビジネスプランの例として、誰もが気軽に楽器の練習ができる「楽器のサブスクリプションサービス」、「空き家を活用した映画館運営」など、生徒自身の体験や地域の課題に根差した提案が生まれたという。
昨年度は台湾で開かれた「日本の観光・物産博2023」に3年生4人が参加。三重県の観光PRをプレゼンすると同時に、姉妹校である新北市立三重高級商工職業学校との交流を深めた。現在もオンライン交流が続いており、観光ビジネスの視点から交流を深めたい考えだ。
長尾康子(教育ジャーナリスト)