Program異なる4者との”共創”を組織することにより、未来社会に生きる
「ものづくりの心」を喚起する教育プログラムの構築とその普及
このプログラムには、長いコロナ禍のなかで学校内に閉じ込められた生徒の学びを解放し、探究する喜びをふたたび呼び覚ましてほしいという願い、またこれまで日本社会を支えてきたものづくりの精神と技術を、生徒たちに学んでほしいという、二つの願いがある。そしてこの実現のために、同一校内や等質性のなかで進められたこれまでの学習スタイルから、校内の生徒同士の学びあいをベースとしつつも、その関係を飛び越え、相対化できる4つの”共創”を組織することにトライする。
生徒たちには、日本の機械づくりや住まいづくりを行っている地元の先端企業(DMG森精機、大和ハウス工業)と本校が協力して構想した、1年間にわたる授業が用意されている。その場には、共に学習する者として県内の他の学校の生徒が参加し、教職を目指す奈良教育大学の学生がチューターとして参画する。さらに並行して、住まいづくりをテーマとした高校生国際会議の場でのアジア各地の学生との議論の場を設定いている。
こうして”ものづくり”を学びの対象とした、異なる4者との”共創”を相互連関的にデザインすることで、この先の社会に必要とされる新しい価値を創出できる人財の育成を目指したい。
活動レポートReport
多様な“共創”を生み出す授業づくり
奈良女子大学と奈良教育大学を母体大学とする奈良女子大学附属中等教育学校は、国立大学附属校の役割の一つ「実験的で先導的な学校教育への取組」として、高校2年次の「総合的な探究の時間」に、他者との“共創”を横軸にしてものづくりの心を喚起するプログラムを実施している。
プログラムの前半は二つの講座が設けられている。「講座1」は、奈良県に第二本社を構える工作機械メーカーとの“共創”を通じてものづくりの精神を学ぶ。「講座2」は、奈良教育大学のESD・SDGsセンターとの“共創”によりSDGsの精神を学ぶ。生徒は興味・関心に合わせてどちらかを選択することができる。10月からの後半は、両講座の生徒が集い、大手住宅メーカーとの“共創”で、「すまいづくり・まちづくり」をテーマに学びを深める。
このプログラムの大きな特徴は、県内の高校に呼び掛け、希望する生徒と教員に授業に参加してもらっている点にある。「自校の探究活動のあり方を模索している学校に参加してもらって、参考にしてもらうことが狙いの一つ」と、同校の北尾悟副校長は話す。2024年度は、県内2校から15人が参加。高校の垣根を越えて“共創”し、探究活動に取り組んでいる。
またテーマを「ものづくり」にした背景を、北尾副校長は「IT分野へ進む生徒が増える一方で、工学部への進学は落ちており、現代の日本で『ものづくり』の力が衰えてきているという危機意識がある」と話す。講座1で技術的な面を、講座2で新しい社会の価値観をそれぞれ学んだ生徒が、後半は「文理融合」の形ですまいづくり・まちづくりに取り組む。「ものづくりの根本には“哲学”がなくてはいけません。この枠組みが実現できたことで、哲学的なものの見方、世の中の見方も学べるプログラムになったと思います」(北尾副校長)。
昨年度受講した生徒の一人は、「ものの見方が変わったことで、『この建物はどういう建築基準に従って、どういう構造で建てられたんだろう?』ということを考えながら街の風景を見るようになりました」と話したという。「この生徒の感想を聞いて、改めて『ものの見方、よのなかの見方』を探究活動のゴールにすれば、個々人の『学力』に左右されることなく、どのような学校でも子どもたちでも適応できると確信しました。この方向性で、プログラムをさらに発展させ、他校に波及させていきたい」と北尾副校長は力強く語った。