Program多角的・物語的思考を育む「チーム探究」の開発
課題解決能力は、社会でも必要とされる力である。しかし、実際の社会では、1つのアプローチが課題の根本的な解決につながるかと言えば、多くの場合、そうはならない。なぜなら、1つの課題には、多くの問題が複雑に絡まり合っているからである。何が問題を起こしているのか、どんな順序、工程で解決に取り組むのか、自分たちの探究活動はその工程のどの位置にあるのか、探究活動によって工程はどれぐらい効果的になったのかなど、さまざまな視点から思考することが大切である。
「チーム探究」は、そのような実社会や実生活に近い環境を想定して、チーム全体で、1つの課題解決にアプローチするプログラムである。具体的には、クラスを8~10のグループを包括する1つのチームと見立て、地域に関連した大ビジョンの実現に向かって、さまざまなアプローチから課題解決に迫ろうとするものである。立場の異なる種々の意見を想定し、解決に必要な要素どうしを包括的・立体的に捉え、マッピングを通じて、大ビジョン実現に向かうストーリーを考えながらチーム全体で課題解決に取り組み、その有効性を検討する。これこそが、複雑な課題解決に不可欠な能力ではなかろうか。
活動レポートReport
大ビジョン実現に向けてのストーリーを発表
山口高校普通科2年生の探究活動は、クラス単位で一つの地域課題に取り組むスタイルだ。「地域課題を解決した状態=大ビジョン」を決め、その実現に必要な要素ごとに4~5人のグループを作って探究を行う。例えば、「新山口駅の発展」という課題に対し、「新山口駅を通過点から遊べる場所へ」という大ビジョンを設定。その実現に向け、デザイン・経理・内装・食品・イベントといった要素で班を作り、アプローチしていく。各班の進捗把握やとりまとめは、主・副ディレクターと書記の3名の生徒たちが担う。「本校が考案したこの手法をベースに、毎年改善を図っています」と、同校の津枝孝明先生は話す。2022年度はSDGsをテーマとしたが、実現性の低い提案が多かったため、身近な地域課題に変更。また協力先の一般社団法人の紹介で、各クラスに3~4人の社会人メンターを付け、外部連携の強化も図った。
その集大成として、2024年3月に探究発表会を開催した。津枝先生は「直前までなかなかまとまらないクラスもありましたが、ディレクターの生徒たちの奮闘もあって、見学された関係者からは好評価を頂きました」と話す。同じ内容を聴衆となるクラスを替えて2日間にわたり発表したことも思わぬ成果を生んだ。4組の副ディレクター木村美桜さんは「他クラスの1日目の発表に刺激を受け、皆が夜に練習してきてくれました」、ディレクターの西本琉晟さんも「僕は生徒会長として話す機会が多いため、皆には特に話し方について伝えてきたのですが、2日目のプレゼンは格段に上手になっていて感動しました」と話す。またリーダーとしての自身の成長を感じたという生徒もいる。5組のディレクター目優作さんは、「リーダーは皆の意見の聞き役だと思っていましたが、実際は自分もしっかり考え、意見をもって対峙しなければ皆をまとめることができないと実感しました」、副ディレクターの小廻柚葉さんは、「最初は自分の立ち位置がつかめませんでしたが、徐々に全体を見て円滑に進めていくために必要なことが分かり動けるようになりました」と話す。
同じ課題の解決に、観点の異なる複数のグループが協力しあう独創的な探究手法。その目指す先には、それぞれの要素の有機的な関係性を多角的にとらえ、解決に向けてどのような順番で配置していくのかという物語的思考の獲得がある。その達成に向けて同校では試行錯誤が続けられている。