カテゴリー 22023年採択

特定非営利活動法人キッズドア

対象者数 60名 | 助成額 868.8万円

https://kidsdoor.net/

Program大学で学ぶ IT&デザインプログラム(IFUTO)

 認定NPO法人キッズドアは、千葉⼤学デザイン・リサーチ・インスティテュート(dri)、及び一般社団法人プロジェクト希望を協働パートナーとして、女子高校生対象の大学で学ぶIT&デザインプログラムIFUTO(いふと)を実施している。

 今日、PCスキルを含むITリテラシーの有無は将来のキャリアに大きく影響するが、低所得家庭ではITに触れる機会が少なくなってしまうというデジタル格差が問題になっている。また日本では女子の理系離れが進んでおり、理系を目指す女子を増やすことが課題とされている。こうした現状に対し、キッズドア・dri・プロジェクト希望は、ITに親しみのない家庭環境の⼦どもたち、興味はあるもののIT教室に通うのは経済的に難しいという女子高校生に向けて、ファッションを通してITに触れ興味を深めてもらい、将来の仕事の可能性を広げることを願い、実践的なSTEAM教育「IT&デザインプログラムIFUTO」を2022年度に開始した。

 今年度は参加者のITへの苦手意識の払拭、何事にも挑戦してみるマインドづくり、社会により積極的に関わる前向きな意欲の向上、将来の選択肢を広げることを目指し、商品開発の全プロセス(企画、デザイン、マーケティング、販売等)についてデザイン思考を用いて商品開発を行うとともに、仮想空間で販売を行うプログラムを実施する。

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活動レポートReport

女子高校生と未来をつなぐ、「デザイン✕IT」のプログラム

  認定NPO法人キッズドアは、2007年に発足し09年のNPO法人化以来、「すべての子どもが夢や希望を持てる社会の実現を目指して」という渡辺由美子理事長の理念の下、無料学習会や体験活動の場、物資などの提供といった困窮子育て家庭の支援活動を行っている。 

  そんな同法人の理念を反映して生まれたのが、キッズドア、千葉学デザイン・リサーチ・インスティテュート、一般社団法人プロジェクト希望、そして三菱みらい育成財団の4者による協働プログラム「大学で学ぶ IT&デザインプログラム(IFUTO)」だ。達成目標としては、「ITへの苦手意識の払拭」「何事にも挑戦してみるマインドづくり」「社会により積極的に関わる前向きな意欲の向上」「将来の選択肢を広げる」の4点を設定した。

 プログラム立ち上げの理由の一つには、渡辺理事長がそれまでの活動で感じた、ある危惧があった。プログラム運営に携わる両國浩太朗さんは、「子どもたちのコミュニケーション力不足と自己肯定感の低さが気になっていました。社会に出ていく上で、他者とのコミュニケーションは避けて通れません。また、自己肯定感が低いままでは、前に進むための一歩がなかなか踏み出せないのです」とその思いを語った。 加えて、経済的に困窮している家庭の子どもは、パソコンなどのITツールに触れる機会が少ない傾向があるという。「スマホさえ使えていれば十分、という考えもありますが、それではITを消費しているだけです。ITを使って何かを生み出す経験をしてほしい」と、企業との連携を担当する五十嵐光喜さんはプログラムの必要性を強調する。参加対象は女子高校生に絞っている。同法人が開催する無料プログラミング講座では、意欲的に参加する男子に比べ、女子は「敬遠する姿が多く見られた。そこで、女子が興味を持ちやすいコンテンツとITを組み合わせ、テーマを「デザイン✕IT」とした。「リケジョ(理系女子)が話題になってしまうくらい、理系を避ける女子が多い印象がありました。そこで本プログラムも、女子高校生がITに興味をもってもらい男女間の格差解消につなげたいという理事長の思いからスタートしました」と両國さんは言う。 

  支援する枠組みとしては、千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュートと連携協定を結び共同でプログラムを開発。先端的な施設であり工房も併設されていることから同大学墨田サテライトキャンパスを活動の場と定めた。さらに、同大学の外国人教員や留学生による指導のサポート体制も得たことで、グローバルな体験が少ない子どもたちにも、プログラム中で自然とふれあえるようにした。参加者は留学生らとのコミュニケーションを楽しみ、高い満足度が得られたという。 

テクノロジーとコミュニケーションが、参加者の行動を加速させた

  本プログラムが目指す「デザイン×IT」の実現は、デザインとマーケティングのフェーズに分け、Tシャツの企画からデザイン・制作、発表・販売までをパソコンを使って行うところからスタートした。参加者は、三菱みらい育成財団の助成が始まった2023年度は60名、2024年度は95名にのぼった。参加の動機はさまざまだが、同法人の困窮家庭支援や学習支援を受けている高校生のほか、キャリア形成を明確に見据えて希望する高校生が多かったという。参加者には交通費を1日3,000円まで実費支給し、昼食も提供。経済的な理由でパソコンを持っていない参加者には端末を貸与し、コース修了後に出席状況に応じて進呈する。両國さんは、「当初は経済的に厳しい家庭の高校生を優先的に受け入れる方針でしたが、応募者には身体的、精神的なハンディを背負っている子も少なからずいることに気づき、世帯年収だけで判断してはいけないと感じました」と振り返る。 

  2023年度に行ったデザインフェーズでは、千葉大学の渡邉誠教授による指導の下、デザインツールを用いてTシャツや缶バッジをデザインした。また、マーケティングフェーズでは、デジタルマーケティングの講義やオンラインショップでの T シャツ販売を実施した。全体を通して、基本的なパソコン操作だけでなく、メタバース空間でオリジナルアバターの作成やグループディスカッション、授業を実施。最終日の成果発表会もメタバースファッションショーなどを行った。加えて、プログラムの一環として実施しているキャリアトークセッションでは、プロジェクト希望の代表理事であり、ソニーグループ株式会社 元社長の平井一夫氏や、ソニー企業株式会社 社長の永野大輔氏が参加し、生徒が社会に出てからのキャリアイメージを明確に持てるようキャリアトークを行った。 こういった多彩な協働者のおかげで、早くも制作過程から成長の芽が伸び始める。せっかく描いたデザインを恥ずかしがって消してしまうような参加者も、講師から「綺麗な色だね」とフィードバックを受けたことで、「もっと色鮮やかなTシャツにするにはどうしたら良いですか」と自発的に質問するようになった。プロと接する体験が、参加者にひときわ強い刺激をもたらしたのだろう。 

  2024年度には、東京に加えて同法人の拠点の一つでもある仙台でも開催された。2つの会場をつなぎ、キャリアトークなどをリアルタイムで視聴。また、参加者の興味関心によって活動内容を選択できるよう、デザイン、プロダクト、メタバースの3コースに設定し直した。コミュニケーション力向上のため、活動自体は対面で行ったという。 4日間のデザインセッションには全コースの参加者が参加し、最終日にはそれぞれのデザインのプレゼンテーションが行われた。2日間のプロダクトセッションには、プロダクトコースの34人が参加。パソコン上で生徒自らがデザインしたTシャツを専用機でのカラー印刷、単色のシルクスクリーン印刷を体験した。4日間のメタバースセッションには、メタバースコースの20人が参加。2人1組でアバター、Tシャツ、オリジナル部屋の作成を行い、最終日にはメタバース空間内でファッションショーを行った。集大成となるTシャツ販売会では、参加者の投票で選ばれたデザインを商品化した。最初から明確な販売戦略を示して進めたのではなく、「売れるものより、まずは自分が着たいと思うデザインを作ろうというところからスタートしています」と五十嵐さん。東京で2日間にわたって行われたリアル販売会では、それまで画面越しでしか顔を合わせたことがなかった東京と仙台の参加者が初顔合わせ。「自己紹介のあと、すぐに協力して販売を進めていたのが印象的です。参加者がデザインに込めた思いを説明するなど、来場者と触れ合う機会にもなりました。プログラムを通してコミュニケーションへの不安が払拭されていたのだと感じます」と両國さんは語った。 

デザインコース:「Adobe express」を使ってデザインを作成している参加者たち

デザインコース:作成したデザインを最終日に発表

プロダクトコース:シルクスクリーン印刷でTシャツの制作をする参加者たち

プロダクトコース:インクを版画に流し込んでいる様子

メタバースコース:Tシャツのデザインをメタバース上で再現する作業に取り組んだ

メタバースコース:メタバース空間を体験している参加者

メタバースコース:メタバース空間を体験している参加者

Tシャツのデザインに込めた思いを伝える

興味に応じた活動内容と細やかなサポートで大きな変容が

  2023年度、2024年度共に、完走した参加者の割合は8割を超えた。要因としては、プログラムの設計が挙げられる。2024年度には1日の活動時間を延ばし、プログラムの期間を短縮。学校や家庭の用事と重なることが減り、出席率が向上した。また、参加者の興味にフォーカスしたコース分けも、モチベーションの維持に効果的だったという。「特に2024年度のプロダクトコースは高い完走率でした。手作業の喜びが感じられ、作品が手元に残ることも良い動機づけになったようです」と両國さんは振り返る。 

  手厚いサポートも有効だった。1人のスタッフが担当する参加生徒数は6名前後。学習支援サポートの経験があるスタッフを配置したことで、生徒一人ひとりに目が届き、信頼関係構築にもつながったという。 

  プログラムを終え成長した参加者の姿には、コミュニケーション力不足や消極的な姿勢といった当初の印象は見られなかったという。最初はメンバーと目も合わせられなかったある参加者は、配慮の行き届いたディスカッションを重ねるうちに、徐々にコミュニケーションを取れるようになり、販売会では来場客とやり取りできるまでになった。「1ヵ月半でこんなに変わるのか、と驚きました。リアルなコミュニケーションにこだわった成果だと考えています」と両國さんは語る。また、「どうしてもメタバースがやりたい」と大阪から参加した高校生は、活動の中でリーダーシップを発揮し、将来の希望についても講師に熱く語った。IFUTOの卒業生が、三菱みらい育成財団の他助成先のプログラムに参加し、ステップアップを図っていた事例もあった。 

  今後は同法人の活動拠点を中心にエリアを拡大し、できる限り全国の生徒にプログラムを届けられるよう展開したいという。また、デザイン×ITだけではなく、音楽×ITなど、さまざまな展開の可能性も考えられる。「単に面白かった、パソコンのスキルが身に付いた、ということだけでなく、このプログラムを通して、『こういう世界もあるんだ』と将来に目を向けられるような方向性を目指したいですね。意欲のある子どもたちをたくさん掘り起こし、他の活動にもつないでいけたら」と五十嵐さんは活動の未来を見据える。 

一般社団法人プロジェクト希望 代表理事の平井一夫氏によるキャリアトークの様子

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