カテゴリー 22023年採択

青楓館

対象者数 100名 | 助成額 818.9万円

https://seifukan-gakuin.com/

Program高校生の「社会で生きる力」を育む自治体・企業連携型Project Based Learning

 青楓館では、「自分らしく生きていく」ことを教育目標とし、社会で生きる力を養うプログラムを展開している。このプログラムは、①自分を知る ②社会を知る ③社会と繋がる3つの段階で構成されている。まず、地域を赴く前の準備期間では、生徒たちは興味関心のある分野を探究する事前プログラムを受講。その後、実際に各地域で現地の企業や人々と交流し、最終的には課題解決に取り組む。成果報告会では、地域の取り組みを発表し、達成感を味わいながら、将来の志や夢のきっかけを形成することを目指す。

 このプログラムでは、100人の高校生が北海道、秋田、埼玉、神戸、淡路、熊本の6つの地域に派遣され、自治体や企業と協力して地方創生に関わる実際の課題に挑む。地域に滞在し、地域活性化イベントの企画、観光振興、少子高齢化への対策などのテーマに取り組むことで、課題解決能力の育成と社会参加への意欲向上を促進していく。

 さらに、この経験をきっかけに「~の社会問題を解決するために、大学では…を学びたい!」といった今後の進路・学びに対する“志”の萌芽にも繋げていく。

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通信制高校サポート校だからできる、「社会で生きていく力」を育む独創的なカリキュラム

  株式会社青楓館が運営する青楓館高等学院は2023年4月、「こどもを核としたまちづくり」を推進する明石市において、通信制高校サポート校として開講した。通信制高校サポート校とは、「高卒」という資格・学歴が得られる法的な認可を受けた通信制高校と提携し、子どもたちの学習面や生活面、精神面をサポートする民間の組織を指す。「私たちが教育分野で起業するにあたり、サポート校という立場を選んだのは、公的な学校を開校するだけの資金調達が難しかったという事情もありますが、それ以上に、既存の枠組みに縛られることなく、より自由な立場で、私たちが実践したいと思うカリキュラムに取り組めると考えたからです」と、学院長を務める藤原照恭氏は語る。

  代表である岡内大晟氏とともに青楓館を立ち上げた背景には、「多くの社会人が感じているであろう、従来の学校教育に対する違和感があった」と藤原氏は振り返る。「学校教育の基本は『右へならえ』。生徒全員が同じカリキュラム、同じ進度の授業を受け、一人ひとりの性格や個性、興味・関心などは置き去りにされてきました。かつての高度成長期のように、組織全体の規律・効率が重視される時代であれば、それでよかったかもしれませんが、先の見通せないこれからの時代に求められるのは、確かなポリシーを持って、自ら進む道を選んでいける人材であり、もっと個性を重視した教育にシフトしていくべきと考えたのです」。こうした想いを端的に表しているのが「『右にならえ』に終止符を。」という教育理念であり、プロボノ(職業上のスキル・経験を活かした社会貢献活動)として青楓館の活動を支える社会人の多くが、参画のきっかけとしてこの言葉への共感を挙げている。

  もちろん、文科省でも同様の課題意識を持ち、2021年には「個別最適な学びと協働的な学びの実現」を目指す答申を公開するなど、個性重視教育への転換を図っているが、「肝心の教育現場ではなかなか追いついていないのが現状」と藤原氏は分析する。「そこで青楓館では、従来の5教科7科目に捉われることなく、社会の最前線で活躍する講師による特別授業や、企業や行政と共に取り組むPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)などを中心に、『自分らしく生きる力』『社会で生きていく力』を養うための独自カリキュラムを実施しています」(藤原氏)。

 

教育実習の現場で「社会を知らない自分が、生徒に何を教えられるのか」と感じ、大学卒業後は教職ではなくPR会社を選択。多くの経営者と接する中で、学校教育とは真逆の「右向け左」の人材が社会を回していることを痛感し、生徒一人ひとりに向き合う「個性教育」の価値に気づいたという岡内氏。その後、AO入試専門塾に転職して合格率100%を達成。それらの経験を活かし、自ら理想とする教育を実現すべく青楓館を設立。

「中学時代、左足に障がいを抱えていたため、先生から将来の可能性について否定的な言葉をかけられた経験を持つ私だからこそ、子どもたちに『できないことはない』と伝え続けたい」と教育への想いを語る藤原氏。大学院を卒業後、ケニアで国際協力に従事し、帰国後はコンサルタントとして活躍するが、教育への強い想いからAO入試専門塾の塾長に転職。そこで出会った岡内氏と意気投合し、二人三脚で青楓館を設立。

自治体や企業、地元高校生との対話を通じて、コミュニケーション力とマインドセットを培う

  「青楓館が実施するPBLは、現地で自治体や企業と連携しながら地方創生などの社会課題に挑むプログラム。企業・自治体や教員から課題を与えられるのでなく、生徒自身がテーマや目的を明確にするところから参画し、本当の意味での課題解決を目指すところに特徴があります」と藤原氏は語る。

  例えば、2023年度に熊本県大津町で実施した「熊本PBL」では、インクルーシブな公園づくりを推進する同町に対し、「そもそもなぜインクルーシブなのか」「町民にどんな意義があるのか」「インクルーシブという概念が町民に浸透していないのでは」といった根本的な問いを生徒たちがぶつけるところからスタート。「結果として、同町に拠点を持つ台湾企業と連携し、障がい者との交流イベントを開催するなど、公園整備にとどまらないインクルーシブな社会づくりに取り組み、大きな注目を集めました」(藤原氏)。

  青楓館では、こうした自治体・企業連携型のPBLを全国各地で企画。期初にあたる4月と9月に全生徒に向けてプレゼンされ、生徒はそれぞれ希望するPBLを選択する。あくまで生徒主導であり、希望者数の偏りがあっても選抜などの調整は行わず、キャパシティが許せば複数のPBLに参加することも可能だという。

  PBLに参加する生徒たちは、事前の準備プログラムとして、自治体や企業のスタッフへのオンラインインタビューを軸に、各地方の課題理解に努める。その後、実際に現地に赴き、対話を通して理解を深めながら、解決すべき具体的な課題を抽出。その解決に向けたプロジェクトを企画・立案し、現地の大人たちへのプレゼンやフィードバックを経て、実現につなげていく。

  「PBLの実施にあたっては、できるだけ現地の高校生とも連携できないか、自治体や企業に打診しています」と藤原氏は語る。地方創生の取組みに継続性を持たせるとともに、属性の異なる高校生との連携・交流によって得られる気づきを重視しているからだという。「私自身の経験を踏まえれば、社会で生きていくための力とは、コミュニケーション力とマインドセットに集約されます。PBLを通じて、多くの大人や同世代と接する経験は、これらの資質を培う絶好の機会であり、本校の生徒はもちろん、連携する現地の高校生とっても意義あるものだと考えています」(藤原氏)。

  実際、淡路島に拠点を置く(株)パソナと共同で実施した「淡路PBL」では、若者世代の流出という地域課題の解決に向けて、淡路の魅力を体験できるコミュニティカフェを企画。現地の高校に加え、奈良県有数の進学校として知られる西大和学園と共にプロジェクトを推進した。「全日制の名門校と通信校という、異なる立場の生徒同士の交流は、双方に得るものが多かったようで、次年度もコミュニティカフェの継続実施が決まるとともに、西大和学園さんとは、若者に人気の下着・靴下メーカーと共に新商品を考案する『チュチュアンナPBL』にも共同で取り組んでいます」(藤原氏)。

  こうしたPBLの成果は、生徒個々で取り組む「マイプロジェクト」の成果とあわせて、毎学期末ごとに行われるイベント「楓杯」で発表される。「私たち運営側にとっては、生徒の成長が目に見える場であり、生徒にとっては互いに刺激を与え合う場でもあります」と藤原氏が語るように、青楓館の生徒たちにとってかけがえのない舞台となっている。

神戸市北区で実施した「神戸PBL」では、コロナ禍で一時は途絶えてしまった地域の夏祭りを復興させるため、自治体や地域の高校生と連携しながら企画・運営をサポート。自ら企画した屋台を出店して祭りを盛り上げた。地域からの評価を得て、次年度以降も継続実施が決まっており、廃校が決まった現地高校の伝統継承もテーマにしながら、引き続き地域の絆づくりへの貢献を目指す。

毎学期末に開催される「楓杯」は、PBLやマイプロジェクトの成果報告会であると同時に、挑戦を賞賛する場でもある。会場でのリアル開催に加え、オンライン参加も可能であり、生徒の保護者はもちろん、客員教員やパートナー企業、入学希望者、マスコミなどにも広く参加を呼び掛けている。多くの聴衆の前で自身の成果を発表し、評価される機会は、生徒にとって大きな成長のきっかけになっているという。

日本の将来を明るくするために、PBLのさらなる拡大と進化を目指す

  初年度となる2023年度は、前述の熊本と淡路に加え、北海道、神戸の計4地域で地方創生をテーマとしたPBLに取り組むとともに、企業のビジネス課題に取り組むPBLを1件実施し、合計で約100名の生徒が参加。

  秋田、埼玉でも実施予定だったが、現地の自然災害や人材不足のため中止となったという。これを踏まえてマネジメント体制の強化に努めたことで、2024年度は沖縄を加えた5地域に拡大するとともに、国際交流イベントの企画・運営や校歌のミュージックビデオの企画・制作など、より多様なPBLを実施している。

  これらPBLは、岡内氏や藤原氏をはじめとした経営陣が、パートナー企業やプロボノなどの人脈を駆使して実現したもの。「もともと広い人脈があったわけでなく、紹介の紹介をたどるなどして、粘り強く実現したものです。幸い、パートナー企業が運営する総合型複業マッチングプラットフォーム『複業クラウド』を通じて、想定をはるかに超える100名規模のプロボノに参画いただいているので、彼らのネットワークを活かして、幅広い企業・自治体との連携を模索していきたいですね。また、海外提携校と連携して、海外でのPBLを企画するなど、より多様な課題に挑む機会を提供していこうと考えています」と藤原氏は今後の展望を語る。

  PBLの拡大に努める一方で、今後に向けて注力している取組みが二つあるという。「一つは、生徒の成長を可視化する評価制度の整備です。生徒からは『以前の高校になかった自分の居場所が見つけられた』『自分の長所や個性を言語化できるようになった』『学年や学校を超えた友人ができた』といった声が聞こえるなど、確かな手応えを感じているものの、より客観的・定量的な評価軸として『SFKバッジ』の導入を進めています」(藤原氏)。「SFKバッジ」とは、「社会で生きていくための力」の二大要素と考えるコミュニケーション力とマインドセットのレベルを客観的に評価すべく、キャリアコンサルタントや企業の人事担当といったプロボノの意見も参考に体系化したもの。学業やPBLの成果に応じて、「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」などさまざまなランクのバッジが付与される。もう一つの取組みが、独自のPBLメソッドを体系化すること。「どんな生徒、どんな教員が関わっても同じクオリティでPBLを提供できるよう、マニュアル化を進めています。まずは連携する高校の先生方に活用いただき、いずれは広く全国に展開し、教育界全体のPBLの質的向上に寄与したいと考えています」と藤原氏は語る。

  「私たちの最終的なビジョンは、日本の将来を明るくすること。経済成長率の低下や可処分所得の減少、若者の自殺の増加など、子どもたちにとって日本の将来は決して明るくありません。これらを解決するカギはやはり教育しかない。PBLを通じて、これから社会に出ていく若者の『社会で生きる力』を底上げすることが、日本の経済力や、若者自身の生活水準を高め、将来を明るくすることにつながっていくはずです」。藤原氏の言葉への共感を物語るように、青楓館の生徒数は設立時の20名から1年後には100名、そして現在は200名と、堅調に増加している。楓の花言葉のように、彼ら一人ひとりが『美しい変化を遂げる』ことで、これからの日本の活力につながっていくことを期待したい。

独自に蓄積したPBLのメソッドを整理し体系化した「PBLマニュアル」では、PBLの概念整理に始まり、実践者の心得や推進上のポイント、ケーススタディや練習問題などがまとめられている。

プロジェクトの評価指標として、通常のQ(質)、C(コスト)、D(期日)に加えてV(価値)、M(モチベーション)を加えるなど、青楓館オリジナルの理論が外部から高く評価されている。

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