カテゴリー 32023年採択

国立大学法人 愛媛大学

対象者数 50名 | 助成額 1000万円

https://www.ehime-u.ac.jp/

Program「学チャレ合同会社」を基盤とする地域活用アントレプレナーシップ育成プログラム

 本教育プログラムでは、コンパクトシティ松山の利点を最大限に生かし、地域の経済活性化に欠かせないアントレプレナーを、出店体験やピッチコンテスト参加を通じ育成していく。愛媛大学社会連携推進機構産学連携推進センター「えひめ学生起業塾」の学生が、メンターとして高校生に伴走支援しながら、ビジネスモデルの習得と、新規のビジネスモデルの提案に展開していく。ノーリスクで利用できる「学チャレ合同会社」を活用し、学生たちが自分達で会社経営(実践道場)し、問題点を検証・解決していく。収益化が確認できれば、独立・起業することができ、また起業に至らなかった場合はその後も「一般社団法人えひめベンチャー支援機構」を通じて支援していく。

特徴

(1)高校生は市内中心部でビジネスの基本(売上・利益率・経費)を学べる。

(2)学生は、伴走支援することで、ビジネスプランに具体性が持てる。

(3)「ビジフェスEHIME」やEGFビジネスプランコンテストなど、ビジネスマインドの醸成やビジネスアイディアを提案する伴走支援プログラムが別途準備されている。

(4)高校生や学生がノーリスクで事業化できる「学チャレ合同会社」により、アイデアを即実践可能である。 

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ノーリスクで事業化ができる高大連携の超実践型プログラム

  愛媛大学 研究・産学連携推進機構の産学連携推進本部が主体となり、三菱みらい育成財団の助成を受けて2023年度にスタートした本プログラムは、地域経済の活性に必要なイントレプレナー・アントレプレナーの育成を目的としており、出店体験やビジネスプランコンテストへの参加、その後の学チャレ合同会社の事業部としての展開などを通じて学生たちの実践的なアントレプレナーシップを身につけさせることを目的としている。

  対象となるのは愛媛県内の高校生と大学1・2年生。彼らが協働し、実際に希望する者は学チャレ合同会社で社内起業として事業を立ち上げて経営することでまずはイントレプレナーになり、アントレプレナーシップを発揮する力を育成するという、高大連携の超実践的なカリキュラムだ。参加高校生の募集に際しては、県下の公立・私立全ての高校に総数5万枚にもおよぶチラシを配布し、対象生徒全員に情報が届くようにしている。同じ高校内でチームを組んで応募してくるケースが大半だが、中には高校の垣根を越えた編成によるチームの応募もある。

「デジタル媒体による訴求も大切ですが、実際の印刷物、それもポスターなどではなく、1人に1枚ずつチラシが手元に届くようにし、参加意欲を刺激するようにしています」と語るのは石原裕香特定准教授。2022年から同大学で大学発ベンチャー支援とアントレプレナーシップ教育の企画を担当している。

  プログラムは3段階のステップからなり、ステップごとに成果発表を行うことで学びを深化させていく。アントレプレナーシップを学ぶ動機付けとなるステップ1では、毎月第3日曜日に松山市の中心部で開催される「お城下マルシェ」や、200以上の屋台が松山の夏を彩る「土曜夜市」などに高校生グループが出店。「えひめ学生起業塾」の塾生の大学1・2年生が、それぞれメンターとして伴走支援する。「えひめ学生起業塾」とは、産学連携推進本部のプロジェクトとして2020年4月に創設された団体で、愛媛大学生に限らず起業を一つの手段として学びたい県内の国公私立大学、大学院生約60名が活動している。

  屋台での商売は粗利計算が比較的容易で、高校生にとってビジネスの基礎を一から学ぶには格好の場。加えて、たとえ失敗しても一からやり直せる精神力を身につけられる。一方、伴走する起業塾生を大学1・2年生に限っているのは、彼らにもチームビルディング、検証、分析、収益性などについて客観的に学び、メタ認知を高める学習の場としてもらいたいからだ。

  コンピテンシーを形成するステップ2では、高校生・大学生のチームが、「ビジフェスEHIME」などのアイデアピッチ・ビジネスプランコンテストに参加する。ビジフェスEHIMEは単なるコンテストにとどまらず、なぜそれを自分がするのかから課題の解像度を上げ、ビジネスプランの作成発表までを一貫して支援する愛媛大学主催のカリキュラム。プロの講師によるセミナーや合宿によってビジネスプラン作成の基礎を学んだうえでコンテストに参加し、一次・二次審査を通過したチームが10月の本選に挑む。ここでも高校生には起業塾の大学生が伴走し、大学生には起業家による壁打ちが行われる。また、ビジフェスEHIME以外のコンテストに率先して応募し、優秀な成績を収める起業塾の学生も増えている。

  ステップ3ではいよいよ社会実装に向けた取組みが始まる。ベンチャーキャピタリストや起業家による徹底した壁打ちのフィールドとなるのが、2023年10月に愛媛大学の教員と地域の経営者によって設立された「学チャレ合同会社」だ。同社が起業に必要な資金やノウハウを提供することで、起業を目指す高校生・大学生はノーリスクで事業化に踏み切ることができる。合同会社の中で事業部ごとに会計を分け、損失は会社が負担、利益はチームに還元される。

「まずは学チャレ合同会社の事業部として事業の黒字化を目指します。将来のアントレプレナー輩出のために、社内起業家であるイントレプレナーを養成しようという考えです。2023年度にステップ3に進んだのは5~6チーム。2024年度も4~5チームくらいになりそうです」(石原特定准教授)

  こうした学生、あるいは教員の起業活動全体を外部から横串を刺す形で支援しているのが、愛媛大学が民間企業との協力の下、2020年6月に設立した一般社団法人えひめベンチャー支援機構だ。えひめベンチャー支援機構、えひめ学生起業塾、学チャレ合同会社という愛媛大学発の3団体が連携し、さらに地元銀行や愛媛県、各ステークホルダー、地域社会と一体となって、本プログラムを始めとするベンチャー支援活動とアントレプレナーシップ教育が推進されている。

プログラム参加希望者を募るチラシ。5万部が印刷され、対象となる県下の高校生・大学生全員に配布される

ステップ1で「お城下マルシェ」に出店する高校生・大学生チーム。以前、保護者が販売を手伝ってしまうという事例があり、高校生・大学生だけでなく、保護者も含めた地域社会や高校生よりも下の世代の中学生・小学生などにも、アントレプレナーシップという概念を広く伝えていくことも必要だと考えるようになったという

大学発の各団体が連携し協働できるような体制の構築

  ステップ3を終了して既に高校生による提案が事業化されている例もいくつかある。今治市の観光名所である桜井海岸の清掃活動に加え、そこで集められた落葉松葉から燃料ペレットや肥料、消臭スプレーを製造し販売する事業。「株式会社マツノミライ」として法人登記している。また、高校生向けリクルート動画を高校生が企業から受注して制作する事業などがある。事業の収益化が確認できれば、独立・起業ができ、起業に至らなかった場合も、えひめベンチャー支援機構を通じて支援が続けられる。

  自走に向けた対応も団体ごとに進んでいる。愛媛大学では、2023年12月に「アントレプレナーシップ育成基金」を設立し、寄附金を募ってアントレプレナーシップ教育に関する資金調達を実施している。えひめベンチャー支援機構では、年会費を課すVSO(Venture Support Organization)正規会員制度を導入。会員企業と学生が協力してイノベーションを起こせる環境が整えられている。学チャレ合同会社では、学生のチャレンジを応援するメンター陣を揃え、立ち上げたばかりの事業が収益化に繋がるよう、さらなる環境整備を進めている。それぞれが独立採算しながらも、連携し協働できるような体制の構築を目指している。

  起業を目指す高校生・大学生だけでなく、その他の大学生に対する教育環境の整備も進んでいる。愛媛県内の高等教育全体の質的向上と地域社会へ貢献することを目的としてつくられた、11の大学・短期大学が連携する「大学コンソーシアムえひめ」をプラットフォームとして、「アントレプレナーシップ部会」が2023年4月に設置された。同年10月から愛媛大学の正課授業として開講された集中講義による「アントレプレナーシップ入門」も、同コンソーシアムを通じて各大学に案内され、所属するすべての大学の学生が受講できるようになっている。その受講者からえひめ学生起業塾に入塾する学生も生まれるだろう。

  本プログラムはオンラインも併用しながら進められる。Zoomを使った講義や、Slackによるメンターとの質疑応答なども頻繁に行われているが、核となる活動はリアル開催で、松山市が活動の中心となる。「愛媛県は東西に長く、地域によっては松山まで片道何時間もかかるところも珍しくありません。愛媛大学で、南予・中予・東予に構えている地域協働センターという拠点をサテライト的に使うという試みも、今後考えるべきかとも思っています」と石原特定准教授は語る。

  コンパクトシティと呼ばれる松山の利点を活かしたアントレプレナー育成のプログラムが、愛媛大学を中心に行政、民間企業、教育機関など多様な団体を巻き込み、サポート体制を充実させながら、愛媛県全域へと広がりを見せつつある。

「ビジフェスEHIME」に向けた大学生のビジネスプラン作成合宿でアイデアを出し合うプログラム参加者

「ビジフェスEHIME2024」本選表彰後 登壇者と審査員らによる記念撮影

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