カテゴリー 32023年採択

三重大学

対象者数 80名 | 助成額 1000万円

https://www.mie-u.ac.jp/

Programメタバース有造館~文理融合イノベーション創出プログラム~

 本プログラムは、「三重大学地域創造力(専門的知見×地域理解×アントレプレナーシップ)」を持つ入学者の早期発掘・育成を目的とした、高校生、大学生、地域の協力者による多様なチームと多様な学びの環境(サイバー空間とフィジカル空間が融合したSociety5.0の世界)から、文理融合の「総合知」と「イノベーション」を創出する高大接続プログラムである。三重大学の前身である「有造館」開設から約200年後の現代、「メタバース有造館」で学んだ若者が、時代の変化を捉え、未来を拓く。

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活動レポートReport

13階層のメタバース空間を活用した文理融合プログラム

 三重大学は1820年に開学した藤堂藩の藩校「有造館」を前身とする国立総合大学。200年も前に数学、天文学、化学、医学などを組み込んだ総合型の教育を実践した学舎の名を冠した本プログラムが目指すのは、高校生×大学生×地域の協力者による多様な学びの環境から、文理融合の「総合知」と「イノベーション」を創出することで、まさに先人の志を継ぐものと言える。メタバース空間に設置された現代の有造館で学んだ若者が、時代の変化を捉え、未来を拓くことを目的としている。

「現在『メタバース有造館』の階層は13にまで増え、それぞれのフロアがセミナーや講座、授業、オンデマンド学習、ディスカッション、大学広報の場として活用されています」と語るのは、三重大学地域創造教育センターの鈴木伸哉助教。2024年から本プログラムの企画・運営を担っている。

 プログラム提供が始まった2023年度は、メタバース有造館の立ち上げなどに時間を要したため、プロトタイプとして8月に2つのセミナーを開催するにとどまった。いずれもリソースは、三重大学が高大接続の一環として2005年から夏期に行っている対面式の「学問探究セミナー」で、県内の高校生たちを広く募集した。

 セミナーの一つは「メタバースで聖地巡礼などをプロデュース」という名称で、地域の偉人・八重姫(織田信長の孫にあたる女性)のマンガ化事業に伴い、聖地巡礼などのイベントを高校生がプロデュースするという内容。メタバース空間に同席した、菰野町コミュニティ振興課、マンガ「八重姫伝」の作者からも、参加した高校生のプレゼンテーションに対するコメントを頂いた。もう一つが「アバターになってスティーブ・ジョブズのように考えよう!」という生成AIを活用した新規事業創出セミナーで、NTTドコモ新規事業プロデューサーの協力を得て実現した。いずれのセミナーにも、三重大学の学生がファシリテーターとして伴走し、セミナーの事前と事後には交流会としてクイズ大会も行うなど、高校生×大学生×地域の連携による楽しいプログラムが実践された。また3月には、メタバース有造館に多人数を同時接続させる検証テストも兼ね、高田高校の1年生を対象に高大連携講座を実施。約180名の同時接続に成功した。

13階層にもわたる「メタバース有造館」。高校生や大学生、外部から参加する見学者や地域の方々などは、自身のアバターを設定し、館内を自由に動き回ることができる

「学問探究セミナー」と「高大連携マッチング」の2本立てで展開

 こうした実績を踏まえたうえで、2024年度のプログラムは2つの流れで展開された。一つは前年度同様、個人応募の高校生に向けた「学問探究セミナー」で、こちらは7~8月に3回開催された。もう一つは「高大連携マッチング」という取組みで、特定の高校にヒアリングを行い、要望に沿ったプログラムを提供するというもの。

 その一つ、名張青峰高校に向けた「生成AIで地域の課題解決」というプログラムでは、6月中旬の対面講座でメタバース体験とグループワークやロールプレイングを行い、7月末の対面講座でグループプレゼンテーションを実施。その間の1か月半はオンデマンド学習の期間として、生徒にメタバース有造館を開放。生徒同士のディスカッションだけでなく、担当教員や大学生への質問や相談もできるようにした。プレゼンテーションには名張市役所と地方自治研究センターから2名ずつが参加したが、後日、名張市役所職員が同校を訪問され、生徒の提案に対して前向きに検討したいというコメントを頂いたという。参加した生徒からは「課題を多角的な視点で見ることによって、新しい解決策を見つけることができるようになった」「仲間で協力してプレゼンを作り上げることはとても良い経験になった」などの感想を得た。参加した生徒だけでなく、地域からも好評を頂き、2025年度は、さらにメタバースならではの工夫を加えて実施したい考えだ。

 その他、8月には木本高校で2日間にわたり、大学内で実施されている「共創の場プロジェクト」と連携した授業を実施。また、2025年1月の松阪商業高校での授業では、メタバース有造館の今後の展開を見据え、DXハイスクール校への支援授業という形で、VRゴーグルの体験とVR(仮想現実)・AR(拡張現実)技術の活用法に関する授業を実施した。学校からの要望で、生徒だけでなく教員向けのVR研修も予定している。VR・ARとメタバースを融合させたプログラムも視野に入れ、松阪商業高校とは今後も連携を推進していこうという話が進んでいるという。

三重大学で行われた名張青峰高校2年次文理探究コースの生徒によるグループプレゼンテーション。三重大学の学生にメタバース上でアドバイスをもらいながら、ビジネスプランを発案して発表した。

メタバース有造館のブランド化でセミナー受講者数増加を目指す

 2年間のプログラム実践を経て課題となっているのが、「学問探究セミナー」への応募者数や参加者数が想定を下回ったこと。「理由の一つは実施内容が伝わりづらく、関心を持ってもらえなかったことです」と鈴木助教。受講意欲向上につながる課題やプログラム案内方法を再考し、イノベーション創出につながる指標も明らかにしていきたいと語る。

 もう一つの理由として、プログラム自体の認知度の低さを鈴木助教は挙げる。メタバース有造館のブランド化を目指し、プログラムの解説や事例紹介などを掲載したリーフレットを作成。県内の高校や地域の機関に配布するなど、広報活動にも力を入れたいと語る。

「探究活動の支援ができると口頭で説明してもなかなか伝わりません。課題をヒアリングして、それぞれの学校にマッチしたセミナーを実施するというプログラムの流れを、リーフレットを示しながら各校に説明して回りたい」と鈴木助教。「高大連携マッチング」授業の回数をさらに増やすことも認知度アップにつながると考えている。

 受講すれば高校においても三重大学に入学してからも、単位として認められる単位互換の高大連携授業など、高大の接続に対する施策は進められている。2年後に三重大学でも全学部で実施される総合型選抜においても、本プログラムの受講がアピールポイントの一つになる可能性もあるという。プログラムを受講する生徒の多くが三重大学への進学を希望していることと、メタバース自体に関心がある高校生が一定数いるというアンケート結果もあり、「メタバースで実際にどんなことができるのか。また、三重大学でその先を勉強したいと思わせるようなプログラムに育てていきたい」と鈴木助教は語る。

 そのためには、メタバース有造館を大学内でもっと活用する必要もあると鈴木助教は語る。現時点では、高校生向けのプログラムでの利用が多いが、大学内にも広く開放し、学生がいつでも自由にオンデマンド学習ができる環境を目指したいという。

 2022年に制定された三重大学の今後の活動目標「三重大学ビジョン2030」では、「地域・社会・世界とのつながりを通して、行動する力と、新たな価値を創出するマインドを持つ意欲ある人材を早期に育成することを目指して、文系・理系の分野を超えて、地域の課題探究に取り組む高校生を応援」とある。この目標を達成するためにも、「令和の有造館」を最大限に活用した地域共創大学としての取組みの進展が期待される。

 

プログラムの事例などを掲載したリーフレット。県内の高校や各種機関に配布して認知度を上げたいとしている

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