カテゴリー 42023年採択

大分県立芸術文化短期大学

対象者数 30名 | 助成額 150.5万円

https://www.oita-pjc.ac.jp/

Programデジタル教材づくり参加型教養教育プログラム
~高校生向け「情報」用アニメ教材シリーズの制作~

 本プログラムは、「高校で新たに必修化された『情報Ⅰ』の教育に寄与するアニメ教材を制作する」という明確なゴールを定め、参加学生たちが教育現場へのヒアリング調査、教科書調査、シナリオ制作、キャラクターデザイン等を行いながら、若年層が理解しやすいアニメ教材を制作する。

 高校の教育現場では情報の教員不足が指摘されており、他教科の教員が兼任している実態がある。また、「情報Ⅰ」にはプログラミング等の技術系の内容のみならず、知的財産やデザインといった専門性の高いテーマが盛り込まれており、教員による幅広い対応には困難が予想される。

 そこで、特に実務的知見が求められる「知的財産」「情報モラル」「サイバー犯罪」「情報デザイン」等のテーマについて、本学の教養教育の特色を活かしたアニメ教材を開発し、教育現場の方々を支援するとともに高校生の情報活用能力の向上に寄与する。

 学生が自ら教材制作に関わり、調査・ディスカッション・制作・広報を通じて、「現代の高校生に求められる知識とは?」「高校生が意欲的に学べる動画とは?」「大学で学んだ自分と高校生との違いは?」など、正解のない問いについて考え、若年層向け情報教育の在り方を再考する。

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活動レポートReport

「産業財産権」を高校生にわかりやすく伝えるためのアニメ教材作りに挑戦

 大分県立芸術文化短期大学は、県内唯一の公立短期大学であり、芸術系学科(美術科、音楽科)と人文系学科(国際総合学科、情報コミュニケーション学科)を併設している。情報コミュニケーション学科で、情報リテラシーや情報モラルなどを教える野田佳邦准教授の研究室では、芸術系学科を持つ同校の特色に加え、研究室内にアニメや2Dイラスト動画制作に興味を持つ学生が多いことから、2022年度に大分県地域連携プラットフォーム推進事業として県の教育委員会と連携し、著作権や情報モラルに関するアニメ教材を制作するなど、社会貢献活動を通じた学生の情報教育に取り組んできた。

「このアニメ教材については、教育委員会から喜ばれたのはもちろんですが、動画をYouTubeに公開することで、さまざまな方々から好意的なコメントを頂きました。『全国に自信を持って届けられる活動ができるんだ』と、私も学生も確信でき、今後もこのような活動に取り組んでいきたいと思っていました」と野田准教授は振り返る。

 そのような中、同年度に高校における「情報Ⅰ」の必履修化が決まった。しかし、情報科目の専門教員も授業に必要な教材の種類も不足しているという課題があった。たまたま大分県内の高校では「情報Ⅰ」の履修は2年生という学校が多かったため、授業開始までは1年の猶予があった。そこで、「情報Ⅰ」の授業をサポートするアニメ教材の制作をゴールと定め、2023年4月に本プログラムをスタートさせた。テーマは、野田准教授の専門分野であり研究室の学生が深く興味を持つ「産業財産権」にすることに決まった。まずは高校の教育現場における「情報Ⅰ」の課題のヒアリングや、発行されている教科書の調査から始まり、アニメのストーリーや登場人物設定などのラフイメージの制作、キャラクターデザイン、シナリオの制作、動画制作会社の協力を得ての動画制作と、多岐にわたる工程を経て進められた。

 併行して、権利ビジネスや意匠権の講演を受けるなどのインプットも行った。知的財産を学ぶ上では、座学だけでなく、学外に出て社会との関係性を学ぶことが必要だという野田准教授の考えから協力先を募り、意匠専門の弁理士による講演では、特にデザインにまつわる権利について、日用品の例などを交えながら学ぶことができたという。またテーマパークに赴き、キャラクターがどのような権利で守られているかなど、ビジネス的な観点も現場で学ぶ経験も積んだ。

 プログラムを進める上では、研究室の1年生と2年生が合同で取り組んだ。2年制である短期大学では講義を受けるのに忙しく、サークルなどを除いて1年生と2年生が一緒に何かに取り組む機会はほぼないというのが一般的。しかし野田准教授は、「せっかく同じ分野に関心を持っている学生同士なのだから、交流しながら取り組む機会を設けたい」と合同での取組を行った。ある程度専門性を身につけた2年生と新しい視点を持った1年生が意見を交わしながら創作活動をすることで化学反応が生まれていった。

1・2年生が参加した合同ディスカッションの様子

学年に関係なく、忌憚のない意見やアイデアが交わされた

学生たちが納得し楽しむことが、自走できる力につながる

 動画制作において学生たちが特に苦心したのがシナリオ作りだった。「テーマである産業財産権の内容を正確に伝えることが一番の目的。しかし、難しい言葉を並べても高校生には伝わりません。産業財産権の本質まで深く理解した上で、いかに正確に、おもしろく、高校生が興味を持ってくれるものを作れるか。そこに一番苦労しました」と野田准教授。例えば、動画の主役であるキャラクターデザインの作り込みの際にも、性格や幼少期の好み、育った過程といったバックグラウンドまで細かく設定を考えた。キャラクターの話すセリフに説得力を持たせるためだ。「シナリオ作りでも、キャラクターデザインの段階でも、学生には常に『それは、本当におもしろいのか?』と自分自身に問い掛けるように意識してもらっていました」(野田准教授)。

 学生が考えたキャラクターをアニメ動画という形に仕上げる際には、動画制作会社と連携。ただ、制作を外部にすべて任せるのではなく、絵コンテ作りやイラスト・動画のチェックなどに学生全員を参加させることで、それぞれの制作工程を学生の学びの場とした。制作会社も、一般的なクライアントとは異なる要望に対し、「学生のためになるなら」と快く引き受けてくれたという。学生からも「自分たちが考えたキャラクターが着色されたイラストになって、アニメの中で動いている様子を見て感動しました」「私たちとプロの視点の違いをはっきりと感じました」といった声があり、プロとの連携は大きな刺激になったようだ。

 そうして迎えた2024年1月。大分県の高校に通う女子高生「星野夜(ほしのや)めま」と、県内の特許事務所に勤務する姉の「星野夜るな」による、産業財産権を分かりやすく解説したコミカルなストーリー仕立ての動画は無事に完成した。公開された動画は、2024年11月現在で4,000回以上視聴され、高校関係者からの評判は上々だ。また、企業・団体の知財戦略に役立つ情報を網羅した日本で唯一の総合展示会「知財・情報フェア&コンファレンス」にも出展。来場した業界関係者から高い評価を受けたという。

 学生が専門知識を身に付けるとともに、それを自らのスキルを使ってアウトプットすることで、高校生の教育をサポートするという点、また情報リテラシー・情報モラルという専門性が求められる分野での取組みという点が、本プログラムの他にはない大きな特徴となっている。

 出来上がった作品に対し、「私たち専門家が作ると、ああいうシナリオにはなりません。学生だからこそ作れた動画だと思います」と野田准教授は胸を張る。学生視点ならでの工夫の一例が言葉のセレクトだ。特許権の取得を特許庁に願い出ることを法律用語では「出願する」というが、高校生に「出願」は分かりにくい。そこで、セリフを「『出願』という申請手続きをする」とした。専門分野の学習と併せ、高校生に分かりやすく伝えることの大切さを理解した学生ならではの心配りだと言える。

「自分が伝えたい内容について理解度を深めながら表現して発信していく力が養われた」「皆とのディスカッションを通じて、多角的な視点で物事を見ることの大切さを実感した」。プログラムを終えた学生からの感想からは、大きな自信を得た様子が感じられる。前述の展示会の際には、学生自ら動画の内容を来場者にプレゼンする姿も見られ、野田准教授は動画制作の域に止まらない成長ぶりに驚いたという。

 野田研究室では、2024年現在、2年目のプログラムに取り組んでいる。1年目の反省として、教科書の調査を結果的に教員が主体になって進めたという点があった。そのため、2年目は野田准教授が調査・分析用のフォーマットを作成した後、学生自らが教科書を調査し、高校生にとってどの点がわかりにくいのか、アニメ教材を作ることで現状の教科書のどの点をカバーできるのか、時間をかけて分析することができているという。

 2024年度のテーマは「著作権」。産業財産権よりも扱う範囲が幅広いため、学生たちはシナリオ作りに苦戦しているという。アニメ動画の限られた長さの中で、著作権という難しいテーマをいかにして簡潔に、正しく、おもしろく表現するかといった、1年目以上に難しい課題に取り組んでいる。

 高い壁に直面する中、展覧会への参加など、研究室としての学外での活動も多くなり、負担は増えているが、野田准教授も学生たちも笑顔を絶やさない。「私も学生も、研究対象としての知的財産、そして表現方法としてのアニメ、どちらも大好きなのです。だからこそ、しんどいことがあってもがんばれるんだと思います」。

アニメの主人公「星野夜るな」「星野夜めま」姉妹のキャラクターデザイン

作品の完成発表会であいさつを行う野田准教授

「知財・情報フェア&コンファレンス」では、野田研究室の学生が制作した動画などを来場者に紹介した

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成果発表動画Presentation

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