カテゴリー 42023年採択

大阪公立大学 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター

対象者数 80名 | 助成額 235万円

https://www.omu.ac.jp/las/jinzai/

Program転換期の社会に求められる力を培うための産学連繋型教育プログラム:
QBIC~Question Based Innovation and Career education program for societal transition~

 解のない時代と言われるほど予測困難であり、前例が通用しない転換期を迎えた現代社会を生き抜くためには、(1)『「問い」を立てる力(問題発見/設定力)』と、(2)常に自身を学びによりアップデートすること『学び続ける力』が求められる。

 これらの力を培うために本プログラムでは、問題発見を主にした「問いの創出」と、他者との学びあいを中心に社会での「問い」を実践することを目的にした「問いの実践」の2セメスターからなるプログラムを構築し、リベラルアーツとキャリア教育の両面からアプローチする。特に「学び続ける力」については、学び(実践)の場を産学連繋により共創することで、学生だけでなく社会人を含め、世代を超えた学び合いから「学び続ける力」を醸成していく。

 これからの社会において必要とされる良いソリューションは良い「問い」から導かれることに鑑み、プログラム全体では次のプロセスを実践することで、これらの社会において必要な力を培う。1)教員や社会人メンターによる支援と分野を超えた学生同士の対話により問題の切り口に対する多様なミカタを獲得し、2)リサーチクエスチョンを立て、3)キャリア観から導かれる未来のビジョンを描き、4)未来社会に向けた「問い」を設定する。

 この一連の過程を通して「問い」の本質に迫ることに挑戦する。

(協働機関)大阪大学 キャリアセンター、(一社)エッジソン・マネジメント協会

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活動レポートReport

「総合知」を培う大学に相応しい、多様な「学び合い」を軸としたプログラム

  大阪商業講習所に端を発する大阪市立大学と、獣医学講習所を源流とする大阪府立大学。共に約140年の歴史を持ち、商都・大阪と発展を続けてきた両大学が2022年4月に統合し、大阪公立大学として新たなスタートを切った。開学のキャッチフレーズに「総合知で、超えていく大学。」を掲げたように、統合により12学部・学域、15研究科に及ぶ幅広い学びを提供できるようになった強みを活かし、学生一人ひとりが個々の「専門知」を土台に、他領域を融合した「総合知」を習得できる環境づくりを目指している。

  そんな同大学の理念を象徴する取組みの1つが、開学に合わせて2022年度から実施したQBICプログラムだ。その狙いは、「問いを立てる力」と「学び続ける力」という、転換期の社会に求められる2つの力を養うことだという。「近年、学生たちとの対話を通じて、深く考える機会が少なくなっていることを痛感していました。特に、卒業後に社会で直面する正解のない問いや、自分が何者なのか、社会で何ができるのかといった自己に対する問いに、じっくりと向き合う機会が乏しく、結果として受け身になりがちです。そこで、社会に対して自分なりの問題意識を持ち、解決へとつながる問いを自ら立てる機会を、入学後の早い段階で創ることはできないかと考えていました」と語るのは、本プログラムを牽引する市田秀樹准教授だ。

  本プログラムの大きな特徴が、大阪大学キャリアセンターと、学生や社会人を中心に産官学連携で尖った志をもつ若手人材の育成に向けたプログラムを展開している一般社団法人エッジソン・マネジメント協会という、学外パートナーとの協働だ。これにより、大阪公立大学としての幅広い学部・専攻に加え、大阪大学も含めた「より多様な学生同士の学び合い」とともに、エッジソン・マネジメント協会を通じて参画する社会人メンターとの「産学連携の学び合い」が可能になる。こうした「学び合い」の環境のもと、実社会に通じる問いを立て、その解決に向けた実践を経験することが、本プログラムの狙いである。

大阪公立大学では、入学初期段階の教育を「基幹教育」と称し、そのカリキュラム整備を国際基幹教育機関機構が担っている。その中でも、社会の要請に応えるイノベーションを創出できる人材育成を担うのが、市田准教授の属する「高度人材育成推進センター」であり、本プログラムをはじめ、多様なカリキュラムを開発・実施している。(森之宮キャンパスのパース図<2025年秋 開設>。パースはイメージであり、今後変更となる可能性があります。<大阪公立大学 提供>)

現在からちょうど10年前の2014年(大阪大学勤務時代)には、現在のプログラムで連携する家島准教授(大阪大学キャリアセンター)、樫原氏(エッジソン・マネジメント協会)らと連携して、「市民社会とリーダーシップ」をテーマとしたプログラムを実践した経験を持つ市田准教授。2022年から大阪公立大学でスタートしたQBICプログラムには、その際に構築した人脈が活かされており、パートナーシップの根幹には「次世代を担う若者を、社会全体で育てていこう」という共通認識があるという。

「問いの創出」と「問いの実践」からなる2階建ての教育プログラム

 2022年度のプロトタイププログラムを経て、2023年度から本格始動した本プログラムは、「問いの創出:Step-upプログラム」と「問いの実践:Jump-upプログラム」の2段階で構成されている。

 まず「問いの創出」は、現代社会における問題を学生自身の視点で捉え直すもの。未来社会のビジョンを描く→その実現に向けた問いを立てる→徹底的な議論から問いを再定義する、というサイクルを社会人メンターと共に繰り返し、質の良い問いとは何かを考え抜く。続けて「問いの実践」では、再定義した問いを入口にして具体的なソリューションを検討し、プログラム参画企業のトップクラス人材相手に提案=実践、良いソリューションは良い問いから導かれることを体感してもらう。

 2023年度は、「問いの創出」のみを後期セメスターとして開講。1年次をメイン対象としつつ、他学年も受講可としたことで、結果として全学年・6学部から28名が参加した。異なる学年・学部のメンバーを5~6名ずつ6チームに分け、各チームに支援企業からの社会人メンターと学生スタッフを配した体制で、月1回のワークショップを実施。その間にもサポートメンバーも含めたディスカッションを適宜開催し、議論を深めていった。

「どのような問いを立てるか、あえてフレームを与えないことで、学生自身の内面から出て来る問いに目を向けてもらうことを重視しました。まだ議論に慣れていない1年生が多く、はじめは戸惑う様子も見られましたが、それも貴重な経験です。さまざまなバックボーンを持った学生同士で語り合い、創り合う経験を通して、自分一人で抱え込むのでなく、周囲に頼ることができる人間になってもらうことをも期待しました」と市田准教授は語る。

 2024年度からは、いよいよ両プログラムを揃って実施。前期には大阪公立大学と大阪大学の学生が大学混合チームで取り組む「問いの実践」を協働して開講し、後期には「問いの創出」をそれぞれの大学で開講する。特に「問いの実践」では,大学混合チームが、社会人メンターや学生スタッフと共に議論を重ねることで、より深く、継続的な学びが実現できたという。

 

 

QBICプログラムは、リベラルアーツ教育を中心に「問いを立てる力」を、キャリア教育を中心に「学び続ける力」を培っていく。具体的には、①Question(問いの起点を形成)→②re-Build(問いの再定義と実践)→③Improvement(学びに導かれる自己成長)→④Continuous learning(学び続ける姿勢の獲得)という学習サイクルにより、解のない時代の学び方を身に付けていく。

「問いの質を高めるには、内面から出てきた問いを言葉にして、他者にぶつける機会が必要。バックボーンが異なる学生同士の対話はもちろん、実際に社会で活躍する社会人メンター相手の“壁打ち”は、自分の考えを客観視し、深めていく絶好の機会になっています」と市田准教授が語るように、QBICならではの「学び合い」が受講者の成長につながっている。

受講生だけでなく、学生スタッフや社会人メンターも共に学び、成長する機会に

  本プログラムを受講した学生からは、一様に「きつい」「厳しい」といった声が聞かれるという。自分の考えがチームメンバーにうまく伝わらなかったり、社会人メンターからの反応が厳しかったり、いくつもの壁に直面するからだ。その一方で「バックボーンの異なるメンバーと語り合うことで多くの気付きが得られた」、「大人が自分の意見を真剣に検討してくれるのが嬉しかった」など、自分自身や社会に対する考えを深める貴重な機会となっていることも見て取れる。特に、「問いの実践」まで受講した学生からは、産学連携での実践を通じて、これまでのような漠然とした問いでは社会に通用しないことを痛感するとともに、自身の視野や価値観が広がる実感が得られたという声が挙がっている。

「何より嬉しいのは、学生たちの社会課題に取り組む姿勢が目に見えて変化してきたこと。社会に対するオーナーシップを持った学生を育てる上で、有効なプログラムになっていると評価しています」と市田准教授は確かな手応えを感じている。

  成長しているのは受講者だけではない。スチューデントアシスタント(SA)やティーチングアシスタント(TA)として参加する学生スタッフからも、「単なるサポート役でなく、自分たちも受講生と共に成長できる」と好評だ。「プログラムを継続する中で、プログラムを受講した学生がSA・TAとして参加するケースが増えてきました。受講者に近い学生スタッフの存在は、議論を円滑にする上で非常に有益ですし、学生スタッフ自身にとっても、本プログラムにおける学びのサイクルを複数回経験しつつ.これまでの学びを受講生に伝える経験は、さらに自身の学びを深める機会になっています」(市田准教授)。

  同じことは社会人メンターにも言える。「学生との対話によってコーチングスキルが高まるとともに、自ら問いを立てる経験が仕事にもフィードバックされているようで、参加してもらった若手社員の上司からも『社内での話しぶりが変わってきた』との評価が得られています」と市田准教授が語るように、若手社員の成長としての効果も認められている。

「本プログラムが目指すのは、受講生→学生スタッフ→社会人メンターと、関わり方を変えながら“学びの循環”を実現していくこと。未来は社会全体で作っていくものだと思っていますので、本プログラムをきっかけに、より多くの大学、企業が参画するとともに、高校も含めて高大社一貫した学びの環境を構築していきたいと思っています」との市田准教授の言葉が、遠からず実現することを期待したい。

防災をテーマに議論する中で「災害の意識があっても準備ができていない人が多いのはなぜか?」との問いを立て、その解決に寄与すべく、地域の小学校で防災を習慣づけるための授業を行う学生も出てきたという。「大学での講義の枠を超え、地域社会と共に継続的な実践に取り組む姿を見て、頼もしく感じました」(市田准教授)。

協働機関のエッジソン・マネジメント協会の樫原氏の講演の様子。本プログラムの成果は、2024年2月に開催された成果報告&ワークショップにおいて、地域の教育機関関係者や企業の人材育成部門関係者など多くの出席者に紹介された。高校関係者からの質問が多く寄せられたことに、「高校、大学、企業と点在していた教育の場を一本につなげるきっかけになれば」と市田准教授は手応えを語る。

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