カテゴリー 42023年採択

国立大学法人 金沢大学

対象者数 60名 | 助成額 190万円

https://www.kanazawa-u.ac.jp/

Program未来デザインプラクティス ~自分と未来は変えられる!~

 現代社会の課題の特徴は、多様な専門的知識を統合した“総合的な知”によってはじめて効果的なアプローチが可能になること、その課題には“たった1つの正解”というものがないために、アプローチの仕方が複雑化していることである。

 次世代のリーダーとして、さまざまな社会課題に取り組み、日本と世界の発展を牽引する志を持つ学生にとっては、異なる専門性・興味関心を持つ仲間と一緒に、学生ならではの視点でプロジェクトを企画・提案し、その実現までを体験する機会が重要である。

 本プログラムは「自分と未来は変えられる!」をテーマにした実践型プログラムである。学生自身が地域社会や大学を変えるプロジェクトを企画・実行し、未来を変える意欲や自信、未来を変えたという経験につなげることを目的とする。1チーム3〜5人の構成で企画をまとめ実践する過程では、自身の強みなどを活かしたプロジェクトの立案や、どのようにすればそのプロジェクトを効果的に実現できるのかという“正解のない問題”のアプローチも含む。いわば、学生たちが近い将来に経験するであろう“未来をデザイン”することを“プラクティス(練習)”として体験できることが、本プログラムの特徴である。

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地域の課題解決に貢献できる「金沢大学ブランド人材」を育むために

  金沢大学は、江戸末期の文久2年(1862年)に創設された加賀藩彦三種痘所を源流に持つなど、歴史と伝統を持つ大学だけに、地元からの信頼感は絶大なものがある。卒業後に地元で活躍する卒業生も多く、彼らに地域課題解決への貢献を期待する声も大きい。「こうした声に応えるべく、本学では、未来の課題を探究して克服する知恵、すなわち“未来知”により社会貢献を果たすことを『未来ビジョン“志”』に掲げており、その実現に向けて社会の中核的リーダーたる金沢大学ブランド人材の輩出を目指しています」と語るのは、本プログラムの担当教員である佐藤智哉准教授だ。

  社会課題の解決に貢献できる人材を育てるにあたり、同大学では「自分たちが生きる未来は、自分たちでデザインする」という当事者意識を重視している。こうしたマインドを育むため、2022年度から開講されたのが「自分と未来は変えられる!」をテーマとしたプログラム「未来デザインプラクティス」だ。「学生自身が、自分たちの通う大学、自分たちの暮らす地域社会の課題を見い出し、解決するためのプロジェクトを企画・実行することで、未来を変えようという意欲、未来を変えられるという自信、未来を変えたという経験につなげていきたい」と佐藤准教授はプログラムの狙いを語る。

  加えて重視するのが、異なる学部・専門の学生がチームを組んで取り組むこと。「現代社会における課題は、幅広い専門知識を統合した“総合知”が求められるとともに、“1つだけの正解”がありません。こうした複雑化する課題に対し、異なる専門性や興味・関心を持つ仲間と協力しながら解決に取り組む機会が必要だと考えました」(佐藤准教授)。

もともとは哲学を専攻してきた佐藤准教授は、「一見して畑違いに見えるかもしれませんが、正解のない問いに挑むという意味では共通項がある」と語る。「教壇に立つよりも、現場でフィールドワークをしている方が性に合っているので、本プログラムにはうってつけかもしれませんね」と笑顔を見せる。

全国屈指の広さを誇るキャンパス内に、融合学域、人間社会学域、理工学域、医薬保健学域という4つの学域で1万人以上の学生が在籍する 金沢大学。早くから地域社会と連携した課題解決のための学びに注力しており、そうした経験を基盤として、2022年4月、和田隆志学長の就任と同時に開講したのが本プログラムだという。

多様なメンバーとともにプロジェクトを立案・実施する経験が成長を促す

  本プログラムは、主に1〜2年次を対象とした共通教育科目として開講される。まずは4月に1年生全員を対象とした講義が行われ、学長自らがプログラムの主旨や意義を語りつつ、学生のチャレンジを後押しし、その後のプログラムガイダンスで具体的な講義内容を説明して受講者を募る。

  受講者は3~4人ずつのチームに分かれて、5~7月にかけて5回の授業を受け、それぞれの視点で「地域社会や大学を変えるため」の課題を見い出し、その解決に向けたプロジェクトを発案。周辺地域を訪問して学びを深めた後、成果発表会において、学長や理事に向けてプレゼンテーションを行う。そこで「現実的に取り組む意義がある」との評価を受けたプロジェクトが、9月から翌1月にかけて実施されるというのが基本的なスケジュールだ。

  一連の取組みを通じて、学生たちは①独創的なアイデアを用いながらも、実行可能なプロジェクトを企画する能力、②メンバーとともにプロジェクトを推進するコミュニケーション能力、③プロジェクトを魅力あるものとして提示するプレゼンテーション能力、④チームにおける自身の役割を認識しながら主体的にプロジェクトに関わる能力、⑤プロジェクトの意義や重要性を第三者視点から俯瞰的に捉える能力という5つの能力を培っていく。

  これらを養う上で大きな力となっているのが、多様な背景・価値観を持つチームメイトの存在だ。「このプログラムには、本学の特徴である“文理医融合”の精神の下、各学部の学生はもちろん、若手の教職員や前年度の受講者も参加します。職員らも決してサポート役ではなく、1メンバーとして対等の立場で討議することで、お互いにとって良い刺激や気づきを与える機会になっています」と佐藤准教授は語る。

 

本プログラムの受講者は、まず「気づく」「練る」「創る」をテーマとした3回の事前講義を受けた後、そこでの学びをもとにプロジェクトを立案。その成果を地域社会での成果発表会においてプレゼンする。その後、「形作る」「磨く」をテーマとした2回の事後講義でブラッシュアップしたうえで実施するというのが基本的な流れだ。

成果発表会でプレゼンされたプロジェクトは、「アイデアの独創性」に加えて「大学のアイデンティティとの整合性」「社会的意義」「実行可能性」などから総合的に評価される。実行に至らなかった場合も、指摘を踏まえた改善策を講じる、他のプロジェクトに加わるなど、全受講者がプロジェクトを最後まで経験できるように工夫されている。

プログラムの実践を通して得られた教育データを分析し、社会にフィードバック

  初年度となった2022年度には、49名の学生が参加し、トータル15プロジェクトが立案され、最終的には5つのプロジェクトが実施された。学内の予算のみで行ったこともあり、費用面がネックで実施されなかったプロジェクトも見られた。2023年度からは三菱みらい育成財団の助成を得たことで、アイデアを具現化しやすい環境が整ったという。

  2023年度は、五箇山(富山県南砺市)、珠洲(石川県珠洲市)、能登(石川県鳳珠郡能登町)の3地域で実施され、計15チーム(学生48名、教職員48名の計96名)が参加。ペットボトルの使用削減を目指した「金大マイボトル普及大作戦」や、金沢大学の多様性を世界地図上に可視化する「みるみるグローバルプロジェクト」など、多様な視点からのプロジェクトが発案され、8つのプロジェクトが実施された。「SDGsや国際交流などの面で意義深いプロジェクトが実施できたことは評価したいが、地域の企業や自治体などを巻き込んだ起業や実証研究に発展できるプロジェクトには至りませんでした。今後、プログラムを継続・自走化させるには地域との連携が重要ですから、そうした観点からのプロジェクトに期待したいですね。また、プロジェクトの実行率を高めるためにも、学生たちの自主性を尊重しながらも、より早い段階から企画の方向性を検証・サポートしていく必要があると感じています」と佐藤准教授は総括する。

  一方で、学生をはじめとした参加者の満足度は非常に高く、「自分の足で地域に出たり、学類・学年の異なる学生や大人と出会ったりすることで、視野が広がった」「大学で学びたいことや将来のビジョンが明確な参加者が多く、それに影響されて大学生活のモチベーションが向上した」「プロジェクトが行き詰まったときに、どう切り抜けるかを考えさせられ、社会に出ていくうえで有意義な経験だった」などの声が挙がっている。

  2024年度は年頭の能登半島地震の影響もあり、下期からの開催となったが、前述した課題を踏まえ、復興支援を含めた複数のテーマをあらかじめ設定することで、地域社会と連携したプロジェクトを創出していく考えだという。「まだ始まったばかりの、いわばスタートアップですが、ことあるごとに学内向けの広報でも発信しているおかげで、学生や教職員の間での認知度は高まっています。今後は学外にも広く認知されるプログラムにしていくことで、自ずと地域との連携の機会も増えていくでしょう。学生たちのアイデアも借りながら、より良いプログラムにしていきたいですね」と佐藤准教授が語るように、参加する学生や教職員の成長とともに、プログラム自体がさらに進化・発展していくことが期待される。

 

五箇山では世界遺産として知られる相倉合掌造り集落での伝統的な暮らしや日本最古の民謡「こきりこ節」の体験。珠洲では市長による「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の講義。能登では能登海洋水産センターにおけるトラフグのオーガニック養殖の見学など、地域の特色を踏まえた実践的な学びが体験できるのも本プログラムの大きな魅力。

周辺地域を訪問しての学びには、毎回、和田隆志学長が同行することからも、本プログラムに対する同大学の期待の高さが分かる。成果報告会でプレゼンを受けるだけでなく、講義や質疑応答を通じて密なコミュニケーションを図っており、参加する学生や教職員にとって貴重な機会となっている。

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