Program「ごちゃまぜ協働」によるソーシャル・アントレプレナーシップ育成プログラム
(SEJumCoプログラム)
よりよい社会に向けて、能動的に動き、考動できるソーシャル・アントレプレナーシップ(社会企業家精神&行動様式)を学部・世代横断型(ごちゃまぜ)で、各種専門組織と協働して、育成するプログラム。
学生自身の外で考動したい、内面から考動したい欲求に2つのプロジェクトからアプローチしていく。
(1)考動プロジェクト(外的世界の深耕)
4つの自治体にある活動拠点に常駐するコーディネーター人材(一般社団法人カンデ)及び一般社団法人Work Design Labの複業社会人と共に、地域の社会課題を解決するための社会実装案を提案するフィールドワークを実施。また、SDGsに関連する地域特有の課題に対し、複業社会人や企業と協働し、SE として外的世界(自己と外の社会とのつながり)を耕す力を育む。
(2)IKIGAI創造マイプロジェクト(内的世界の深耕)
IKIGAI WORKS㈱のナビゲートにより自己理解のワーク(マイプロジェクト)や「IKIGAI企業」調査を実施する。そして、自己の意志や本質を明確にし、自己と地域や社会との繋がりを考え、働く人が充実した状態であることの実践を実感し、SEとして内的世界を耕す力を育む。
外的・内的両方の体験をすることで、タフで協働志向のSEを育成していく。
活動レポートReport
社会的課題が蔓延する時代だからこそ、内面のタフさと協業する力を培う
1886年に設立された関西法律学校を前身とし、1922年に大学として認可を受けた関西大学。総理事兼学長、山岡順太郞が掲げた「学の実化」(学理と実際との調和)という理念を具現化するための取り組みとして、かねてよりアントレプレナーシップ教育に力を入れており、学生向け教育プログラムがいくつも展開されている。主に同大学の1・2年生を対象にしたソーシャル・アントレプレナーシップ育成プログラム、通称「アボカド・プログラム」も、その文脈に位置するものだ。
「私たちは、あらゆる組織において多様なリーダーシップを発揮して価値創造を目指す、広義のアントレプレナーの育成を目指しています。社会的課題が山積し、VUCAの時代を生きていかねばならない若者たちには、とりわけソーシャル・アントレプレナーシップ(社会企業家精神&行動様式)のあり方を知ってもらいたいという思いがあり、本プログラムでの主要テーマに掲げました」。そう語るのは、2024年9月まで本プログラムの運営主体である同大学社会連携部の地域連携センター長を務めた商学部の横山恵子教授。現在はセンターに属さない立場から、引き続き統括責任者として本プログラムに携わっている。
本プログラムの特徴は2つある。1つ目は、プログラムの目的として掲げられた「タフで協働志向のソーシャル・アントレプレナーシップを育成する」ということだ。「参加した学生には、外側だけではなく内側も鍛えることで、柳のようにしなやかな強さを育んでもらいたい。そういう思いを込めて『タフ』という言葉を選びました」と語るのは、プログラム運営に携わる教育推進部の山田剛史教授。アントレプレナーシップ教育では、ビジネスプランの作り方などの具体的ノウハウに重きを置いたプログラムも多いが、そうしたノウハウも優れた人格、人間力が備わってこそと考えている。「アボカド・プログラム」という一風変わった名前にも、そうした意図が込められている。「大きくて硬いアボカドの種を自分の内面、果肉を外面、自分をとりまく環境にたとえて、外の世界や人との関わりを通じて自己の内面をしっかりと成長させてほしいということで命名しました」(地域連携センター 増原あすか氏)。
2つ目は、「ごちゃまぜ」というキーワード。本プログラムは学部・世代横断型の形式で実施されており、それを「ごちゃまぜ」と表現している。山田教授はその狙いをこう語る。「社会に出ると、難しい課題や多様な考えを持つ大人に接する機会が増えます。物事がうまく進まない時に、周囲のさまざまな人々と一緒になってなんとか乗り越える経験をしてほしい。そのためには、学部や世代の異なる他者との協働を通じて自分の内面に対する強さを育んでいく必要があります」。社会的な課題を解決するには、地域の力だけでなく、企業、市民、政府など多様な力も必要になる。ソーシャル・アントレプレナーシップの育成に際して『ごちゃまぜ』は不可欠な要素なのだ。
プログラムの枠を越え社会課題の解決に自主的に取り組む学生も
プログラムの構成は「外的プロジェクト」「内的プロジェクト」の2つに分かれている。ともに学外の組織が関わる運営体制になっているが、これには、大学の教員や職員だけでなく、独自の強みを持つ外部の「大人」を含めることでプログラム内に「ごちゃまぜ」の環境を作り出したいという意図もある。
「外的プロジェクト」は、地域の社会課題を複業社会人や企業と協働しながらグループで解決していくもので、ソーシャル・アントレプレナーとして外的世界(自己と外の社会とのつながり)を耕す力を育むことを目的としている。パートナーとして、一般社団法人カンデの協力を得て進められた。「カンデさんはそもそも、街づくりを研究する本学の建築学科の教員のもとで活動していたゼミ生が卒業後、設立した組織です。カンデの皆さんは現地コーディネーターとして、地域の拠点を運営しており、本学との関係も深く、本プログラムの実施には不可欠だと考え、協力を仰ぎました」(地域連携センター 宮辺葉子氏)。参加した学生はグループに分かれ、同法人が拠点を構える兵庫県丹波市、大阪府河内長野市、福井県大野市に広島県府中市を加えた4カ所でフィールドワークを行い、各地域の課題解決に取り組んだ。カンデのメンバーに加え、複業人材のネットワークに強みを持つ一般社団法人Work Design Labから派遣される複業社会人も参加し、学生たちのサポート体制を充実させた。
一方、「内的プロジェクト」は、グループワーク等で自己理解を進める中で、自身の意志ややりたいことを明確にし、そのうえで地域や社会とのつながりを再考していくことで、ソーシャル・アントレプレナーとして内的世界(自己の思いと社会とのつながり)を耕す力を育むことを目的としている。このプロジェクトには、従業員が仕事に生きがいを持てる企業経営を支援しているIKIGAI WORKS株式会社が参画。同社の協力で招いた社会起業家らの働き方、生き方を学ぶことで、学生たちは自分自身がどのように生きていくべきかを考え、今後のキャリアイメージの醸成につなげることができた。
2023年度は、外的プロジェクトに29名、内的プロジェクトに21名、計50名が参加した。2023年8月のキックオフを皮切りに、参加学生がグループに分かれプロジェクトに取り組み、11月の最終成果発表会をもって終了。学生の満足度は総じて高く、ソーシャル・アントレプレナーシップの涵養に大きく寄与することができたと運営側は総括している。「参加した学生からは、『これまで経験したことがなかった、明確な答えのない課題に向き合う機会が持ててよかった』という声もありました。運営側としては、本プログラムの目的として『プロジェクトの学習効果を学術的に観察・測定する』ということも掲げています。今回得られた成果は、本学での普遍的なアントレプレナーシップ教育のプログラム作りにも活かしていきたいと考えています」(商学部 細見正樹准教授)。
参加した学生が、プログラム終了後に自ら活動を継続させた例もある。大阪府河内長野市で地域の連絡体系の改善について取り組んだグループのメンバーだ。プログラムでは、回覧板の代わりにスマートフォンを活用するアイデアを取りまとめた。そして、実現させる際の課題として高齢者がスマートフォンに不慣れである点を挙げ、課題解決までの道筋を示して最終発表を行った。「その後、学生たちが自主的に現地を訪れ、高齢者を対象にしたスマートフォン講座を開催したんです」と増原氏。ほかにも、プログラムで訪問した先の地域おこし協力隊のメンバーになった学生もいるという。本プログラムで培ったソーシャル・アントレプレナーシップが、学生たちに根付いた証しだ。
「学の実化」を体現させた学生を輩出するに至った同プログラム。2024年度、2年目となる活動での大きな変更点として挙げられるのは、「内的プロジェクトの強化」だ。1年目は「外的プロジェクト」と「内的プロジェクト」を独立させた形で学生がいずれかに参加するという仕組みだったが、2年目は双方を1つに統合。外的プロジェクトを通じて外の社会に出て活動をしながら、1週間に1回はその活動をきちんと振り返る機会を設けた。加えて、参加学生にはプログラムの序盤でソーシャル・アントレプレナーシップに関する課題図書を渡し、各グループで輪読も行った。「これも内面をしっかり鍛えようという考えです。輪読で絶えずインプットをしながら、地域に出てアウトプットし、定期的に振り返りをする。外的・内的の世界を往還することで、学生たちにより質の高いソーシャル・アントレプレナーシップを涵養できるのではと考えています」(山田教授)。最終成果発表会での学生たちの成長に期待したい。