カテゴリー 42023年採択

明治大学経営学部

対象者数 120名 | 助成額 280万円

https://www.meiji.ac.jp/keiei/

Programクロスボーダー課題解決力を発揮できる次世代グローバルリーダーの育成
―国際トリプルハイブリッド授業によるSDGs探究学習―

 本教育プログラムの目的は、海外チームメンバーと協働してSDGsを推進するために必要なグローバルリテラシー(課題発見、解決提案、チームワーク)を育成する教養教育メソッドの開発である。

 大学所在地域(日本、英国、米国)、文化的背景、専門領域が異なる教員チームが国際連携してオムニバス形式で授業提供し、多面的に受講生のグローバルリテラシー学修を促進する。

 海外教員の本拠地との地理的距離や時差を解消するため、「国際トリプルハイブリッド方式(オンデマンド・リアルタイム配信・対面)」を活用し、オンライン事前講義と対面授業による直接指導を効果的に組合わせたSDGs探求学習を行う(図1)。

 次年度は、リアルタイム配信による海外教員の所属校学生とのライブ共同授業を実施し、受講生間の創発的な意見交換による異文化間の合意形成学習を行う。

 完成年度は、オンライン上で海外教員の所属校学生とSDGsテーマに関する国際協働プロジェクトを実施し、グローバルリテラシーの定着化を図る。

 上記に加え、グローバルリテラシー能力の学修効果を測定するルーブリック評価尺度を開発し、プログラム受講前後の得点比較から、実証的な成果検証を行う(図2)。

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活動レポートReport

「国際トリプルハイブリッド型授業」で費用対学修効果の課題も解消

 2025年1月10日、明治大学和泉キャンパスにて、シェフィールド大学(イギリス)のシュ・イイ准教授と、ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツの石原正雄氏によるペアティーチング授業(英語開講)が行われた。授業前半では、シュ准教授がイギリス企業の事例を交えながらSDGsの概要や必要性について解説。その後、各学生が “ LSP to Explore the Three TBL Connectors (Bearable, Viable, Equitable) on the Izumi Campus”というテーマで組み立てたレゴブロックを用い、石原氏のファシリテートによるサステナビリティマネジメントについて考えるためのレゴ®シリアスプレイ®(LSP)ワークショップが行われた。

 LSPとはハーバード大学やMIT、さらにはNASAでも採用されている、レゴブロックによってアイデアを可視化し、創造的な問題解決やコミュニケーションを促進するワークショップ。石原氏は、そのマスタートレーナー協会理事を務めている。

 この授業は、明治大学経営学部が2023年度から開講している「クロスボーダー課題解決力を発揮できる次世代グローバルリーダーの育成」というSDGs探究学修プログラムの一環として行われたもの。プログラムの対象は、英語スキルの高い100人限定のカリキュラム「グローバル経営人材育成トラック(GREAT)」に所属する経営学部の1・2年生だ。シェフィールド大学とシアトルパシフィック大学(アメリカ)との3校連携によって進められているプログラムで、日英米という地理的隔たりを解消するため、時差の大きいイギリスとのオンデマンド授業(事前学習)、時差による影響が少ないアメリカとのライブオンライン授業(創発的学習)、さらに英米各担当教員の短期招聘による対面型授業(現場指導による学習)という3つの授業方法を組み合わせた「国際トリプルハイブリッド型授業」で教育効果の最大化を図っている。

 また、こうした授業形態を導入することで、従来の国際連携プログラムで見られた中長期の海外留学や海外からの教員招聘などによる費用対学修効果(コストパフォーマンス)の課題を、プログラムの大半をオンラインに切り替えることで大幅に解消される。さらに、短期の海外フィールドスタディの事前学習などにも活用することで、現地における時間対学修効果(タイムパフォーマンス)の向上にも役立てることが期待される。

対面授業で行われたレゴ®シリアスプレイ®の様子

プログラムの受講により、自信を示す「自己効力感」が有意に向上

 今回行われたLSPによる授業は、2024年11月~12月の間にGREAT生向けに実施された、シアトルパシフィック大学とのライブオンライン授業内の「国際共修探究プロジェクト」でも中心的な役割を果たし、国際チーム内のアイスブレイクや協働作業における異文化コミュニケーション促進において非常に高い効果を上げた。取材当日はLSPを体験した上級生が「知の技法」の継承として、アシスタントを務めた。

 プログラム運営を担う永井裕久特任教授は11月~12月のオンライン授業を振り返り、「英語を得意とするGREAT生であっても、初対面のアメリカ人学生と英語で対等にディスカッションするのは難しいものです。それがLSPを介することで、より感覚的にコミュニケーションできる。学生の顔が講義を聞いているときと明らかに違っていて、アメリカ人のチームメイトとの会話が弾み、輝く笑顔がとても印象的でした。」と述べる。さらにこの手法は言語のハードルだけでなく、高大連携の際の知識量のハードルの解消にも役立つと永井特任教授は考えている。

 本プログラムが目指すのは、SDGs探究学修を通して「クロスボーダー課題解決力」の育成に効果的な教育プログラムを開発し、そのエビデンスを実証的に成果検証することにある。国境を越えた海外チームメンバーが協働して、SDGsを推進するために必要な、課題発見、解決提案、チームワークといったグローバルリテラシーを育成する教養教育メソッドを開発していく。文化的背景や専門領域の異なる教員チームが国際連携してオムニバス形式で授業を提供し、多面的に受講生の学修を促進するプログラムを学究的に開発するというのが最大の特徴だ。

 SDGsを学修テーマの中心に据えることについて、永井特任教授は次のように語る。「日本では『SDGs』という言葉がやや独り歩きしている印象がありますが、SDGsはあくまでも2030年までの時限的目標であって、その後も企業や社会にとってサステナビリティマネジメントは必要不可欠な要素として存在し続けます。サステナビリティ(持続性)に関する知識だけでなく、個人がどのようにサステナビリティに対して向き合い、組織や社会のサステナビリティに向けて「価値提案(バリュープロポジション)」を提供できるか。そういう確かな姿勢を示せる人材でないと、グローバルビジネスにおいてはビジネスパートナーとして評価してもらえない時代になっています。そうしたコミュニケーションを、対面だけでなくオンライン上でも円滑に実行できる人材の輩出を支援できるプログラムではないかと思っています」。

 本プログラムにおいて、もう一つ特徴的なのが「国際汎用版ルーブリック尺度(GREAT Rubric)」による学修効果の測定だ。このルーブリックは、2023年度の本プログラム事業の一環として開発された。文部科学省のカリキュラムマネジメント事例としても紹介されている探究学習の「PPDACサイクル」:Problem(問題)、Plan(計画)、Data(データ収集)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)と、各教育機関が独自の教育目標に合せてカスタマイズし、学修成果を測定し、教育の質的向上に活用するために開発したVALUE Rubric(AAC&U:アメリカ大学協会)をマッチングして設計されている。

 本プログラムでは、海外連携大学と協力して、3ヵ国の大学生データを収集し、PPDAC(15項目)に加え、次世代グローバルリーダーに求められる「チームワーク」、「異文化理解」、「自己認識」(各3項目)を追加した計24項目から構成されるルーブリック尺度を作成した。

 この24項目を期初に測定し検証したところ、日本の学生は、英米に比べて教科書的な「国際知識」は高いものの、より実践的な「クリティカルシンキング」や「実践的な問題解決能力」のスコアが低いことがわかった。しかし、期末においては全ての項目の得点が向上し、特に「好奇心」「テーマ選択」「解決デザイン」「解決戦略」「チームへの貢献」「チームメンバー支援」、そして何よりも日本人に必要とされる「自己効力感」において有意な水準での向上が確認された。「自己効力感が低いとは、簡単に言えば『自信がない』ということで、それは教育観の違いによるものかも知れません。海外では、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジすることが評価され、実行を通して自信を持たせることを重視しますが、日本では決められた正解を解答することが評価される傾向があります。このプログラムを通して、自己効力感が高まっていることは大きな成果だと考えています」(永井特任教授)。

 プログラムを受講した学生からは「英米の大学におけるサステナビリティ教育の現状について理解が深まった」「漠然としていたSDGsというテーマに対して、自分には何ができるのかという問題意識が高まった」などの感想が寄せられている。

プログラム受講により全ての項目において得点が向上。特に日本人に必要とされる「自己効力感(v. Confidence)」が大きくアップした(出典:Asian Conference on Education & International Development, 2023. 発表資料)。

国内・海外への水平展開、高校生~社会人への垂直展開も視野に

 本プログラムは3年間で全体プログラム運用を完成させる「開発型」プログラムとしてスタートした。最大の特徴であるトリプルハイブリッド授業も年々発展し、①受講生それぞれのペースによる反復学習を支える「オンデマンド授業」、②海外講師や現地学生、および実務家ゲスト講師との双方向型「ライブオンライン講義」、③海外教員が来日して行うフォローアップやプロジェクトへの講評を含む「対面授業」の3形態の授業を連動している。

 また、トリプルハイブリッド授業のキャップストーンとして、日米学生が国際共同チームを組み、日系グローバル企業(ソニーなど)の日本本社と北米現地法人、米系グローバル企業(スターバックスなど)の北米本社と日本現地法人の「サステナビリティマネジメント」について分担調査し、オンライン上で合同チームプレゼンテーションを行う「国際共修探究プロジェクト」を実施した。

 また効果的な学修プログラム運営のため、本プログラムの優秀な履修者をアシスタントに任用し、授業補助を通して「知の技法」の継承を図るとともに、ルーブリックによる継続的な実証研究も進めている。

 将来的には本プログラムから得られた成果や知見をGREATプログラムに包括し定着するとともに、国内、海外の大学へも水平展開を図っていくことが期待される。実際、2023年度、2024年度に実施した国際学会発表や国際シンポジウムでは高評価を受け、各国から共同実施を希望する声も多く届いている。

「国内はもとより、アジア・太平洋地域といった時差の少ない国や地域とは運用面での利便性が高くコミュニケーションも取りやすい。オンラインによる経費削減というメリットもあるので、さまざまな可能性があると考えています」と永井特任教授は自走後の展望を語る。

 そうした水平展開に加え、本プログラムを通して得た意識や行動を、社会人になっても継続的に発展させる「教養・専門課程連携」と、一貫性のあるグローバル人材育成に向けた「高大連携」という両方向の垂直展開や、国際共同プロジェクトを通じて築かれた海外のチームメイトとのネットワーク構築を推進させるため、海外短期訪問やフィールドスタディ制度を活用し、受講生間の国際交流機会を創出するプログラム設計も考えられる。

 本プログラムについて、「海外連携機関の協力や内部組織の支援により、当初3年間と想定していたKPI(主要業績評価)を2年間で達成し、ジェネリックなプログラムを構築することができました。また、早期完了による時間対効果のメリットを有効活用し、次段階の水平および垂直統合に向けた基盤整備を迅速かつ着実に進めていきたいと考えています」(永井特任教授)。このため、3年目となる2025年度は三菱みらい育成財団からの助成への継続申請はせず、1年前倒しで実用化(自走化)に着手し、将来計画に取り掛かる。 国際的な協働と実践的な手法で、クロスボーダー課題解決力を育む本プログラムが、より多くの国内外の大学や関係機関を巻き込んで、持続可能なモデルケースとして発展していくことが期待される。

2024年7月12日、明治大学駿河台キャンパスグローバルホールで開催された国際シンポジウム『SDGs推進の先を見据えたZ~α世代グローバルリーダーの育成』の様子

2024年7月12日、発表スライド(米国シアトルパシフィック大学)

2024年7月12日、国際シンポジウム(オンラインクリッカーを用いた、対面、オンライン視聴者参加型プログラム実施)

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