Program世界と地域の協働により課題解決に挑む力の育成
地域や世界の企業・専門家と共にリアルな課題を八王子東生の視点から「問う」ことを通し、生徒の「心のエンジン」を駆動する。都内にありながら人口減少の課題を抱える八王子をフィールドに、学校外の異なる立場の集団との協働による学びを通して、知識や技能を地域課題の発見や解決のために活用し、適切な行動を選択できる力を高める。
実際に地域やグローバル社会で活躍する人々の協働の場として学校を機能させながら、多文化共生社会であるカナダ・トロントにおける海外フィールドワークと、少子高齢化の課題を共有する台湾での海外研修を実施し、グローバルな視野から地域や世界の課題の解決策を提案できる生徒を育成する。
活動レポートReport
コース制構想から全生徒対象に
「僕たちが考えた政策は、子どもが生まれた家庭に絵本を贈呈することです。実施した(近隣の)福生市でファミリー層が多いことが根拠です。課題は(データの)情報が古いこと、資金をどこから得るかです」 「八王子市とは、そもそも人口構成が違います。家族層のニーズも違うと思いますが、根拠が足りないのではないでしょうか」
昨年12月に行われた1年生の「探究基礎」の中間発表会。「ファミリー層に定住してもらえる八王子市とはどのようなものか?」のリサーチクエスチョン(RQ)を立てて調査や考察の結果を発表したグループに対し、他の生徒からは厳しい質問も飛んだ。他の教室でも教員はもとより、連携する10以上の大学や企業などの専門家から具体的なアドバイスを受けていた。
八王子東高校は、2018年度から探究活動を学習の柱として位置付けている。1年生の「探究基礎」、2年生の「課題探究」「探究応用」はもとより、表現力や論理的思考力の基盤を築く「国語探究」(1・2年生)、英語による表現やプレゼンテーション力を高める「英語探究」(同)を必修にするとともに、3年生の選択科目にも「英語探究演習」「課題探究A」を開設している。
とりわけ1年生では、哲学対話→個別研究実践基礎→課題解決プロジェクトと段階を踏んで、問いの出し方や、学びを深める方法を身に付ける。探究活動を効果的に進めるために重視しているのがRQで、担当教員が▽調べただけで答えが出てしまわないか▽どのような方法や考え方を用いるのか▽実行可能か(時間、資材、費用など)――をチェック。探究活動によって結論が出るよう、テーマの絞り込みの指導に時間をかけているという。「探究ガイドブック」も独自に作成し、改定を重ねている。
2年生ではゼミに所属し、探究研究論文を作成。各種コンテストへの応募も積極的に勧めており、八王子市役所と連携した「政策提案コンテスト」は、参加対象を市内全高校・中等教育学校に広げたイベントに発展する見込みだ。
同校は2001年度以来、全国的に大きな影響を与えた東京都教育委員会の「進学指導重点校」に指定されてきた。しかし指定7校の中では地理的に不利な条件にあるなど、近年は将来に危機感が募っていた。そこで校内にプロジェクトチーム(PT)が設置され、普通科に探究コースを開設する方向が固まっていた。
そこにあえて駄目出しをしたのが、18年度に同じ進学指導重点校である都立西高校から赴任した宮本久也校長だ。前年度まで3年間、全国高等学校長協会(全高長)会長を務め、中央教育審議会や高大接続システム改革会議の委員なども歴任した。「必ずしも正解のない今後の社会に生きていく生徒には、探究的なものの見方・考え方が不可欠です。いち早く導入すれば、学校のアドバンスにもなる。コース制という中途半端な形でなく、全生徒に行うべきだと言ったんです」と宮本校長は振り返る。
校務分掌として探究部を新設し、連日遅くまで検討した末に、19年度から探究系科目を体系化させた新しい教育課程がスタートした。教科指導とのパッケージで「八王子東が育む8つの力」(協働力、実践力、想像力、思考力、判断力、創造力、人間理解力、意思決定力)を育成し、教育目標の「変化するグローバル社会の中で活躍することができる人物の育成」を目指す。
19年度人事異動では意欲的な若手教員を集め、校内でも探究部に所属していた教員を第1学年に意図的に配置。「各教科でも問いや対話を重視した授業が広がりました」と探究部の島津聡主任教諭は話す。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)