Programチャレンジ「MIRAINAカンパニー」プロジェクト
私たちが挑戦する「MIRAINAカンパニー」とは、高校生が主体となって伊那谷をフィールドに命に学び、地域をデザインする組織である。この事業を通し、ESD(持続可能な開発のための教育)の視点から地域課題を自らの問題として捉え、自分にできることを考え、実践していくことで(think globally, act locally)、自分と伊那谷をデザインする人材を育成していく。
本プログラムは、以下の四つの柱を設けている。
1.里山観光:高校生による観光プログラムの提案〜移住定住につなげる 〜
2.森林資源活用:自然の香りで暮らしをデザイン
3.商品開発:地場産食材を活用した健康食品の開発、医療機関や学校給食へ の取り組み
4.コミュニティーデザイン:ランドスケープデザインの力によって、いなセントラルパーク内に「そだつ公園」をデザイン
またこれらの活動では、キャリア教育やアントレプレーナーシップ教育に実践的に取り組む。
活動レポートReport
人を教材に地域人材を育成
長野県南部、南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷地域。ここに伝統として根付く昆虫食は、家畜に比べ栄養価が高く環境負荷も少ないため、食糧危機を救うとして世界で注目されている。
天竜川に生息するザザムシ(カワゲラ、トビケラなどの幼虫の総称)を使った商品開発に取り組んでいるのが、上伊那農業高校コミュニティデザイン科グローカル(GL)コース(学年20人)3年生5人の昆虫食班だ。現在ふりかけを開発中で「塩と砂糖とうま味調味料を1対1対1の割合で混ぜるのが条件だと、東京の食品会社にアドバイスをいただきました。そこにザザムシと乾燥リンゴの粉末をどう配合するか試行錯誤しています」(班長の松崎幸輝さん)。
1895(明治28)年開校の郡立簡易農学校以来126年を数える伝統校。「上農で、わたしと伊那谷をデザインする」をキャッチフレーズに2018年度、生物生産(野菜、果樹)、生命探究(植物、動物)、アグリデザイン(フード、アグリ)、コミュニティデザイン(里山、GL)の4学科8コースに学科再編した。くくり募集で、1年次は全コースを各3回体験。それに基づき、2年次から学科・コースを選択する。
このうちGLコースだけは基になる学科がなく、ゼロからのスタートに悩んだものの「人を教材にすればいいんだ、と思い至りました」と山下昌秀教諭は振り返る。進学対応の役割も担っているという。
「MIRAIカンパニー」は、同コースの生徒が主体となって伊那谷をフィールドとして、命に学び、地域をデザインする組織。①里山観光②森林資源活用③商品開発④コミュニティデザイン――の柱を設け、授業や課外活動で取り組む。ゆくゆくはNPO法人化し、地域活性化のため卒業生が集う場にしたい構想も込められている。
「ああ楽しかった。革命が起きますよ」。移動販売の甘酒屋anʼs(アンズ)を経営する白鳥杏奈さんは教員控室に戻って、こう声を弾ませた。「菌活班」に酒かすを使った商品開発を指導しており、生徒のアイデアに目を見張りながら「もともと上農生にはいい子が多かったんですが、最近は起業しようとする卒業生も多くなりました」と、起業家の先輩としても地域づくりの仲間が増えることに期待を掛ける。
普通科志向の強い地域にあって、農業を教材として多様な生徒に表現力や自己肯定感などを培う、というのも、学科改編のコンセプトだ。2年次には、地元のフリーアナウンサーによる話し方講座も実施。観光班や商品開発班の生徒に取組を尋ねても、相手を意識した立て板に水の説明が返ってくるのは、その成果だ。
支援コーディネーターを務めるキャリアコンサルタントの富岡順子「コレカラボ」代表は「『こうしたら?』とアドバイスはせず『どう思うの?』と聞くことで、子どもたちは伸びます」と手ごたえを話すと、山下教諭も「与える授業や、勝手に『考えなさい』ではなく、主体的・対話的で深い学びの仕掛けをつくる探究活動が重要です。研究して自分なりの答えを出し、それに対して周りがどう思っているかを話し合うことで、自己肯定感も養われます」と応じる。
学科・コースに分かれた後も、クラスはミックスホームルームにしている。課外活動を含め、多様な居場所を用意しているのも強みという。どの班もみな仲が良く、積極的に意見を出し合っていたのも、GLコースが居場所になっていることの表れだ。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)