Program同時双方向通信を用いた高校生支援
~テレワークによる進路開拓・就労への挑戦、病気療養生徒の単位取得のための支援~
本校では、2018年度から文部科学省国庫補助事業「入院児童生徒等への教育保障体制整備事業」として、タブレット端末を用いた同時双方向型通信による授業等について研究を進めてきた。すでに、本校と病院内の学級、病院内の学級と病室をつないだ、同時双方向型通信を用いた授業等について取り組んできている。このノウハウを活用して三つの取り組みについて進めていきたい。
1.新型コロナウイルスのまん延で話題ともなった「テレワーク」について、高等部生徒の卒業後の就労として、取り組みを進めている。令和元年度から、肢体不自由特別支援学校の実験的取り組みに対して、機材を貸し出して、共同で就労の可能性を探り始めている。肢体不自由や病弱の生徒にとって、仕事に向き合うには「体調を整えて」が前提となっている。その点、テレワークは通勤による体力の消耗の心配がなく、体調の良いときに仕事に集中できる利点がある。すでに「名刺作り」などの書類作成の会社を立ち上げた卒業生がいる。また、ハローワークと提携してテレワークの方法を模索しているケースもある。今年度も引き続き実践を重ねたい。
2.高校生の中には、入学後不幸にして入院によって、進級や卒業、進学の夢を絶たれる者がいる。高校生については、専門学科もあることから、入学した高等学校が病院や家庭を訪問して授業ができることになっている。ただし、これまでは週3回、2時間ずつの授業で主に主要教科の授業をしていた。従って進級や卒業の単位を確保することは至難の技であった。しかし、文部科学省では、 同時双方向型授業で、受信側に学校関係者がいなくても授業が成立することにするとともに、4月1日付で同時双方向通信の授業による単位取得の上限が撤廃されることになった。本校の同時双方向型通信のノウハウを高等学校に提供することにより、入院生徒の単位取得の手助けができればと考える。
3.本校の生徒には、基礎疾患がある者、よく体調を崩す者がいる。コロナウイルスのまん延により、登校に不安のある生徒がいる。令和2年6月1日から学校を再開したが、授業時間確保のために、同時双方向型で授業配信している(写真)。さらに、今後は登校できても校外学習へ出掛けるには、バスの中や見学場所で三密を避けるために、同時双方向型による見学を実施する。
活動レポートReport
障害生徒の可能性広がる
県内唯一で、全国的にも数の少ない病弱虚弱特別支援学校である同校(小・中・高等部併設)は、自宅通学はもとより、扉でつながる隣接の「あいち小児保健医療総合センター」から児童生徒が通学してくる他、同センターのベッドサイド学級や、名古屋大学医学部附属病院など県内3病院に院内学級を設置。それ以外の病院に訪問教育(週3回2時間程度)を実施している。
病弱・身体虚弱児童生徒は活動に制限があり、どうしても自己肯定感を持ちにくい。そこで18年度から文部科学省の「入院児童生徒等への教育保障体制整備事業」を活用して、タブレット端末を配備し、学校と病院、院内学級と病室をつないで、同時双方向型の通信環境を整備した。
授業はもとより、行事などにリアルタイムで参加するだけでも、児童生徒にとっては「(健常の子どものような)土俵にも上がれなかった子どもたち」(杉田敏範教頭)の世界が大きく広がり、自信や意欲につながっている。
そんな中で起こったコロナ禍にも、威力を十二分に発揮。むしろテレワークの普及で、障害者雇用にも可能性が広がってきた。さっそく県内企業にも在宅雇用支援サービスを提供するD&I(東京)に依頼して、講習会や講演会を計画。さらに、通常の高校の入院生に学校の授業を同時双方向でつなぐことにも、応援に乗り出した。
梅村公基校長によると、近年は児童生徒の入退院による入れ替わりが激しいだけでなく、卒業後の進路も福祉就労から通常の大学進学までニーズが多様化しており、切れ目のない教育の保障が課題だ。後藤義和高等部主事も「まさに特別支援は教育の原点」を痛感しているという。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)