京都市立日吉ヶ丘高等学校
対象者数 480名 | 助成額 200万円
Program「世界をつなぐ越境者」育成プログラム
~生徒も先生も世界に踏み出そう~
▶︎世界をつなぐ越境者とは?
自分の壁や周りのさまざまな境を越えて挑戦し、新しい価値を感じることで自分の世界を広げ、自分と他者をつなぐ人物
活動レポートReport
生徒から学び、力を引き出す
日吉ヶ丘高校を訪問した日、同校の目玉である校内留学施設「英語村」のコミュニケーションスペースに、2年生4クラスから生徒29人が集まってきた。「CⅡゼミ中間報告会~質疑応答を通してプロジェクトを磨く」の一会場だ。
名簿表に従って向き合った4~5人はこの日限りのチームで、初顔合わせも少なくない。報告自体が目的ではなく、各人が「全力思考」したプロジェクトの内容を他のメンバーに伝えて質問や指摘を出し合うことで、1月末の「越境祭」での最終発表会までに考えるべき観点を自覚することを狙いに置いた。
甲斐義弘教諭のテンポよい進行で、まずはクイズの答えを相談するウォーミングアップ。その後、各チームに①知識や用語の説明を聞きたいところ②具体的なイメージを聴きたいところ③理由やつながりを聞きたいところ④おもしろい、いいなと感じたところ――のカードが配られた。1人1個の質問を考えるよりどころとするためだ。他の教室でも指導をそろえているという。
とかくグループ討論では、黙って話に耳を傾けるタイプの生徒がいるもの。しかし同校では、どのチームも全員がよく話し、細かくメモを取っている。太山陽子教頭は「まだまだですよ。どんなにいいことを考えていても、表現しないと伝わりません」と、厳しい見方をしながらも目を細めた。
終了後、生徒たちに尋ねても「(話が弾んだのは)みんな仲良しですから」。学習に関しても「知らなかったことにも興味を持つことができ、知識もついてきました」「今後も差別や偏見のない社会づくりを考えていきたいです」と意欲的だ。
同校にはかつて英語科や国際コミュニケーション科が置かれ、2016年度から現在の進学型単位制普通科3コース制に改編。同時に全国の公立高校で初の英語村を開設し、文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)アソシエイト校にも選ばれたが、「高校生の大部分が当てはまるボリュームゾーンの生徒たち」(事業申請書)が集まる学校だという。
新学習指導要領の全面実施を機に学校の教育目標を考え直すことになり、若手教員を中心としたプロジェクトチームが結成されたが、なかなか固まらない。教員だけでなく生徒からも意見を募り、出てきたアイデアが「世界をつなぐ越境者」だった。「改めて学校の特色を、教員が再認識させられました」と、企画部長の片山雄一郎教諭は振り返る。プログラムのサブテーマ「生徒も先生も」には、そんな経緯も反映されている。
「改革をスローガンだけに終わらせてはいけない」と19年、若手教員による非公式組織の「ジャコバンクラブ」も結成された。そこでは数々の論議を経て、従来の学校教育目標「自律・協働・創造」を具現化するための▽俯瞰(ふかん)力▽適応力▽受信力▽発信力▽思考力▽挑戦力▽○○力(3年間の高校生活を通して自分の強みとなるような個々でつけたい力)――から成る「世界をつなぐ越境者」に必要な七つの力「HIYOSeven」も決まった。
2年間の総合的な探究の時間を中心としたプログラムは、その最たるものだ。越境レベルとして、①違いに気づく(多様な価値観を理解する)②違いを越える(社会的・国際的な課題を設定する)③世界をつなぐ(課題の解決策を実際のアクションとして実施する)を設定。育てたい資質・能力として、挑戦するマインドやコミュニケーション力、協働力を置いた。地域の小中高校生や海外姉妹校の高校生との交流、国内外のワークショップなど、さまざまな仕掛けを年々増やしている。先の中間報告会は、そんな「越境」の小さな試みでもある。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)