Program高校生向け医療体験プログラム
本プログラムは、医師を志す高校生が4〜5日間程度、先端医療と地域医療の現場に密着する次世代支援企画。
大阪大学病院と順天堂医院では、心臓血管外科や小児外科のメンター医師と行動を共にし、普段は決して見学できない手術を間近でまぶたに焼き付け、患者とも交流する。身を粉にして働く医師たちに密着した生徒は、この職業は奉仕の心と覚悟がなくては務まらず、漠然とした憧れだけで医学部を受験していいのか、激しく心を揺さぶられる。
しかし、この葛藤を通じ、「なぜ医師になりたいのか、何を成したいのか」を深く考えてもらうことを、本プログラムは大切にしている。
今年度から始まった自治医科大学との連携プログラムでは、医療過疎地で活躍する医師に密着、地域医療のやりがいと尊さを学ぶ。
参加できる生徒は限られているため、一人ひとりの学びを読売新聞の媒体で広く社会と共有することも、プログラムの大切な取り組みである。
活動レポートReport
医師を志す高校生に、「医師として何をなしたいのか」を問う
努力して猛勉強の末に大学医学部に入っても、その後に医師に不向きであることが分かりドロップアウトしてしまう学生が多い。「医学部入学」がゴールになってしまい、その先にある医師の仕事・使命を理解せずに、医師を目指している高校生が多いのでは。そのような課題を感じていた順天堂大学心臓血管外科の天野 篤教授(当時)の発意に、読売新聞社が応えて2015年にスタートしたのが、「高校生向け医療体験プログラム」だ。
夏休みを利用して高校生4~5人のグループに、病院での診察や手術に4~5日間密着してもらうというもので、2017年からは大阪大学心臓血管外科も加わった。医療現場を自分たちの目で見て、医師や患者たちとも話をしながら、医療とはどういうものか、医療従事者たちはどのような思いで現場に携わっているのかを肌で感じる。毎年多くの高校生が応募してくる人気の高いプログラムだ。2020年度の三菱みらい育成財団の助成事業に応募した際には、新たに自治医科大学と連携し、地域医療を実際に体験してもらうプログラムも新規にスタートする予定だった。
しかし新型コロナの影響で、医療現場でのプログラムは断念せざるを得ない状況に。そこで代わりに実施したのが、オンラインセミナー「Withコロナ 未来の医療を創る君へ」だ。第1回目は2020年9~10月にかけて3回、参加大学は順天堂大学、大阪大学に、東京医科歯科大学、長崎大学、東北大学も加わり、コロナ対応からiPS細胞を使った最先端医療など幅広いテーマについて、約4時間にわたって高校生たちとコミュニケーションが交わされた。
リアルプログラムは少数精鋭でせざるを得なかったが、オンラインは選考もなく無料で開催。約30校には学校単位で参加してもらったこともあり、結果的には全国各地から1,700人の高校生が参加した。もちろんリアルでないと実感できないこともあるが、医療現場では予定通りにいかないこともあり、お互いストレスを感じる場面も多かったという。一方、オンラインでは効率的かつ密にコミュニケーションが取れるという利点がある。「看護師や医療機器開発の仕事を目指している高校生たちにも参加してもらえたこともこれまでにない特徴の一つで、医療体験プログラムに新たな側面が加わったと思います」と、読売新聞東京本社 教育ネットワーク事務局の山田 聡さんは話す。
オンラインセミナーでは質疑応答を1時間以上確保。最先端技術や安楽死などの倫理問題、患者との関わり方や医師の心構えまで、医療関係者は高校生たちの質問に一つ一つ丁寧に答えていった。「先生たちも楽しみにしているところもあって、一辺倒の答えではなく本音が出てきたり、生徒のアンケートにもインスパイアされるという感想も出ています」(山田さん)
自治医科大学と連携の地域医療体験プログラムも、570人の応募から4人に絞り、ぎりぎりまでリアル開催を検討していたが、こちらもオンラインに切り替えた。2021年3月に青森県八戸市立市民病院、島根県隠岐広域連合立隠岐島前病院と高校生をオンラインで結び、現場の様子を動画で紹介した。
初期の参加者が医学生や医師となってプログラムに参加する構想
2021年度は10月に、順天堂大学、東北大学、藤田医科大学、大阪大学、東京慈恵会医科大学、東京医科歯科大学の6大学が参加し同オンラインセミナーを計6回実施。1,800人を超える生徒が参加した。
2015年から始まった同プログラムは今年で7年目。「初期のプログラムに参加していた高校生で、医学部生や医師になっている方も出てきている。今後プログラムにそうした『卒業生』の力を借りていきたい」と山田さんは話す。「高校生にとっては、若手の医師や医学部生とのやりとりは刺激があり、交流も活発になるはずです。例えばリアル開催ができた場合は同行してもらうなどのサポートも検討しています」
オンラインセミナーのアンケートを見ると、「『医学部に入学することがゴールではない』という言葉にすごく納得した」「人を助けたいという強い思いと科学的な知識を持ち、適切な対応を取れば、恐怖に打ち勝てるという、教授の話が心に残っている」「AIを活用する医療が進化したら、医師の仕事はどうなるのか気になっていたが、教授の話を聞き、人の心に寄り添えるのは人しかいないと改めて感じた」など、高校生たちの意識に大きな影響を与えたことが伝わってくる。
極端な事例の一つであろうが、東京大学医学部を目指していた高校生による刺傷事件は世間に大きな衝撃を与えた。「医師として何をなしたいのか」。早期の段階でそのことを自らに問わせる本プログラムは、新型コロナという想定外の要素の影響とはいえ、結果的にはオンライン化によって門戸を広げることになり、より多くの高校生にその機会を与えることとなった。今後、さらにリアルとオンラインの融合で深化したプログラムとなることが期待される。