カテゴリー 32020年採択

一般社団法人 inochi未来プロジェクト

対象者数 300名 | 助成額 1000万円

https://inochi-gakusei.com/2020 https://inochi-gakusei.com/2020/kanto https://inochi-gakusei.com/2020/kanazawa

ProgramInochi Gakusei Innovators’ Program

 医療系大学生が中心で運営する、高校生対象のヘルスケア課題解決プログラム。毎年一つのヘルスケア課題解決に、高校生と大学生が二人三脚で5カ月間取り組み、チーム単位で解決策を創出していく。

 本教育プログラムでは、課題解決の方法論であるデザイン思考を実践的に学びながらプランの創出に励んでもらう。

 参加高校生はコミュニティーにてヒアリングを行い課題を発掘し、それに対する解決策を考え、プロトタイプにした後、再びコミュニティーの中に戻り、アイデアの検証を行う。

 これら全てを参加高校生と運営大学生が二人三脚で進めることで、世代を超えた共創を通して共に成長していく。それぞれが共に活動しお互いを高めながら、異能へと成長することを目指している。

 さらに修了生が大学入学後、運営スタッフとして本プログラムに戻ってくることにより、「異能が異能を生む循環系」がより強固なものとして確立されていく。

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高校生と大学生が二人三脚でヘルスケア課題の解決に挑む

 「AEDの使用率3.7%を改善する」「日本の心臓突然死を減らす」「認知症の社会課題に取り組む」「自殺予防、テクノロジーから」「私たちが減らす、心臓突然死。」「発達障害と、ともに歩める社会をつくる。」

 これらは、2015年からスタートした「inochi Gakusei Innovators’ Program(i-GIP)」において、参加した中高生たちが解決策創出に向けて取り組んできたテーマだ。主催・運営しているのは、2014年に設立された一般社団法人 「inochi未来プロジェクト」の下部組織「inochi WAKAZO Project」。医学部を中心とする大学生約200人で組織されており、2022年度からは九州が加わった関西・関東・北陸・四国の全国五つの拠点で活動している。特徴的なのは、「医療者を目指す」若手の育成ではなく、「医療者だけでは救えない命を救う」ことをテーマに未来を担うヘルスケアアントレプレナーの育成を目的としている点だ。医療者、研究者、民間団体や企業、市民と多様なステークホルダーの協調が、ヘルスケア課題の解決には不可欠という「inochi未来プロジェクト」の理念を、若者の手で実現化したプロジェクトがi-GIPだと、inochi WAKAZO Project代表の北野 幸一郎さん(京都府立医科大学2年生)は話す。「例えば、日本のAEDの設置台数は米国に次いで2番目といわれるほど高いのに、使用率は3.7%しかありません。多くの市民が、使い方もどこにあるのかも分からないことが起因していると考えられます。こうした課題は山ほどあり、その解消には市民からボトムアップの解決策が必要で、それには若者が中心になって活動して社会に影響を与えていこう、という思いがi-GIPの起源になっています」。

ヘルスケア課題の現場で、 当事者に寄り添い、救いたいと思う心を養う

 2021年度のテーマは各拠点の代表者が熟議した結果、「フレイル(健康な状態と要介護状態の中間)と向き合い、一人でも多くの人に、一秒でも長く、健康を。」となった。医療関係者に関心を持ってもらうためにも、テーマはその年に医療分野で課題となっていることを意識して決めているという。この年は初めての海外展開としてマレーシアと米国でも同プログラムを実施することになったが、こちらのテーマは現地の状況を鑑みて「デング熱」と「心臓突然死」とした。国内での応募者数は762人(3~4人のチームでの応募)、書類審査や個人面接で252人に絞った。

 もともと医学部に興味がある生徒が学校や先輩の紹介を受けて参加することが多いというが、学校外での活動に引かれて参加する高校生もいる。i-GIP関東支部の代表を務める島 碧斗さん(東京大学2年生)もその一人だった。「参加してみて社会がどのように回っているのか知ることができ、自分の考え方が大きく変わりました。大学生になって今度は自分と同じように価値観や物の見方を変えられる人を生み出していきたいと、運営側として参加しています」と話す。inochi WAKAZO Projectの(運営大学生の)中には、島さんのような修了生も多いという。

 プログラム前半では課題解決やアイデアを出すスキルのインプットとして専門家などの講演やディスカッションを行い、後半はリサーチや、現場に足を運んで関係者へヒアリング、自分たちで出した解決策の実証実験などを行う。特に後半のプログラムでは、実際にヘルスケア課題で苦しんでいる、また取り組んでいる人たちと接することで当事者に寄り添い、救いたいと思う心と、自分たちに何ができるのかと自分自身に真剣に向き合うマインドを養成していくことに重点を置いている。またチームには大学生メンターが1人付き、密にサポートを行うが、中高生の育成だけでなく、大学生も半学半教(共に学び、共に教え合う)によって成長していくことも重視しているという。

専門科とのディスカッション。課題解決の基本的な手法について学ぶ

実際に現場に足を運び、関係者の声を聞く高校生たち

 4カ月にわたるプログラムの最後には、最終発表会を実施。活動継続を希望するチームに対しては、社会実装の実現化に取り組む「inochi NEXT」という継続プログラムを用意している。母体組織である一般社団法人「inochi未来プロジェクト」は、大阪大学大学院特任教授である澤 芳樹氏が理事長を務め、東京大学・慶應義塾大学の鈴木 寛教授をはじめとした京都大学や大阪大学の教授などが理事となっている。こうした理事のネットワークも生かしてテーマに即した専門家をアドバイザーとして迎え入れ、実装段階でもサポートしていただいているという。発表を最終目標とするのではなく、あくまでも社会実装を目指すことで、ヘルスケア課題の解消に向けて着実に実績を積み重ねていきたいと、北野さんと島さんは話す。これまでの修了生は863人、200ものアイデアが出てきた。自殺の名所を「恋人の聖地」としてPRする、産後うつを防ぐために産前教育をテーマにしたボードゲームを開発する、など中高生ならではの発想から生まれたアイデアが実装化された事例も出始めている。

 これまで診察や治療といった医療行為は病院の中でしか行われていなかったが、高齢化社会やテクノロジーの伸展によって、今後は予防医療へのシフトが加速し、病院外での日常生活に根差した地域・市民レベルでの取り組みが必要となってくるだろう。中高生の頃から実在の医療・ヘルスケア諸問題と向き合う機会を提供し、未来のヘルスケアをけん引していく人材育成の重要性はますます高まっている。

最終発表会の様子。この後も活動継続を希望するチームには「inochi NEXT」というプログラムを用意している

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