Program自他の「しあわせ」のための「未来デザイン力」育成プログラム
「創造的自由」の精神を重んじ、生徒の自主性・主体性を尊重する教育を続けてきた本校は、自他の「しあわせ」という言葉をキーワードに、県内唯一の美術科設置校として培ってきた「デザイン思考」を生かした課題解決型の探究活動を新たに実施する。「デザイン思考」とは、問題解決に向けた具体の提案であり、個々の生徒に応じた多様な研究に適用できる。理数や芸術に重きを置いたSTEAM教育を通して「デザイン思考」を学び、課題解決に向けた具体的な提案のできる生徒を育成する。
「学問探究系(人文科学系・理数系)」「課題解決系」「体験・実習系」「表現・芸術系」の5領域のゼミナールを創設し、全校生徒が一斉に探究活動を行う仕組みをつくる。学年(年次)を超えた探究活動が、先輩から後輩へと継続的な活動を保障すると同時に、テーマの継続性を生み、研究内容を深めることができる。
また「デザイン思考」という新たな視点を掲げ、宮城県内の生徒・教員と緊密なネットワークの構築を図っていきたい。相互に発表会に招待し合い、共同の生徒・教員研修を実施し、さらに「学都仙台」の地の利を生かした高大連携を図り、新しいネットワークの形成を試みる。その新たなネットワーク下で学び合ったもの同士が、自他の「しあわせ」のために、地域のリーダーとして、またグローバル人材として活躍することを目指す。
活動レポートReport
学科改編を契機に 学年超えゼミで探究
1995年度に県高校教育改革のパイロットスクールとして普通科、美術科に加え、前年度に制度化されたばかりの総合学科を併置する単位制高校というユニークな体制で創設。そして創立当初の理念に基づき、先進的な教育活動を推進するため22年度から普通科と美術科の2学科に改編することになった。
デザインの考え方をビジネスや社会の課題解決に生かす「デザイン思考」やそれに類する学習は、美術科はもとより総合学科でも行われていた。19年度から学科改編を検討する中で、それを改めて捉え直したのが、よりよい未来社会を創造する「未来デザイン力」だ。同校で育てたい三つの資質・能力として「自己教育力」「『共生と奉仕』の精神」と共に掲げた。
「しあわせ」というキーワードは、放送作家・脚本家の小山薫堂氏を招いた創立25周年の記念講演「幸せの企画術」を基にしている。小山氏は講演で「企画とは自他の人生を『しあわせ』にするためにある。そのために何をするのか、今はワクワクすることを探しながら生きてほしい」と生徒に呼び掛けた。これが創造的自由の精神を尊重して未来社会を構想するという同校の教育理念に通じるものだと受け止めた。
総合学科ではプロジェクトスタディ(PS)、普通科と美術科ではフロンティアタイム(FT)という探究学習を継続して行っており、これらに理数教育とアート教育を融合したSTEAM教育として拡大・拡充することにした。ただし文部科学省がSTEAMのAをリベラルアーツ(教養)と広く捉えているのに対し、同高では文字通りアーツ(芸術)のデザインに力点を置く。
PSやFTを土台にして全生徒の探究活動を充実させ、未来デザイン力を育む仕掛けが、学年を超えた「未来構想ゼミナール」だ。まず1年次前期に「未来構想学概論」でデザイン思考や探究スキルを習得。デザイン思考には①課題を見つける(観察共感)②課題の本質に迫る(問題定義)③解決策を考える(アイデア創出)④試す(施策・プロトタイピング)⑤検証する(検証)――という五つのステップを設定した。同概論で①~③までの流れとプレゼンテーション(伝える工夫)を体験してから、▽学問探究系(人文科学系、理数系)▽課題解決系▽体験・実習系▽表現・芸術系――の五つの系統に分属する。20年度の1年次からスタートし、学科改編後の23年度に3学年分がそろうことになる。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)