ProgramNTS(入善ツーリズムスタディ)
~参与観察的フィールドワークによる地域とともに考えるコミュニティ創造者の育成~
本プログラムは本校新設の普通科観光ビジネスコースを中心に、フィールドワークを軸に据え、地域と共に地域の現在・未来を考える人材を育成していくプログラムである。
本コース2年次では「観光基礎」(2単位)と「総合的な探究の時間」(1単位)を通して、在籍生徒の居住エリアである新川地域3市4町1村の自然、文化、産業、交通、人などを広義の「観光資源」として学ぶフィールドワークを行う。さらにそのフィールドワークによる「学び」を骨格として地域社会の持続性、発展性を探る問いを立てることを目標とする。
本コース3年次では「エリアスタディ」(2単位)と「総合的な探究の時間」(1単位)を通して、2年次に考えた「問い」をさらに鍛え精緻化し、フィールドワークによる調査を行う。地域課題に対する解決策の提案、地域の価値の再発見、地域の資源を利用した新たな価値の創造などを目標に調査、研究し、その成果を発信する。
本コースの特徴は、2年次、3年次ともに参与観察型フィールドワークによって行い、複数回の現地調査に基づいた研究を通して問いを鍛えることを重視している点である。フィールドワークを通して生徒の「当たり前」を打破し、生徒の持つ「問い」を生徒自身と地域との応答の中で鍛え、絶えず自ら学び続ける人材を育成することを目指す。
活動レポートReport
複数回・長期にわたる現地調査で地域を自分の一部として捉える
黒部川扇状地の中央に位置する豊かな田園地域にある同校は、普通科と農業科に加え、2021年度4月に普通科「観光ビジネスコース」が新設された。このコースを中心に、フィールドワークを通して地域の現在、未来について考察するプログラム「NTS(入善ツーリズムスタディ)」が行われている。不確実性の高まる現代社会において、未知の状況にも対応できる生徒、学びを自らのこととして捉え、地域社会に貢献できる、粘り強く誠実な探究力を持つ人材を育成するのが目標だ。
2年次の「観光基礎」と「総合的な探究の時間」では、入善町とその周辺地域の自然や文化、産業、人などを広義の観光資源と捉え、年12回のフィールドワークを通して地域社会の持続性や発展性を高校生の視点から探る。
フィールドワークの特徴は、複数回にわたり現場に身を置き、そこで出会う人へのインタビュー、経験、資料・文献とのかかわり、また、他の生徒や教師とのやり取りを通して、地域の姿を明らかにする「参与観察型」であることだ。これは文化人類学や民俗学の調査手法として知られる。21年度は文化人類学を専門とする大学教員を講師に招き、生徒と教師が共にフィールドワークや現地調査の目的や手法、まとめ方や評価方法を学んだ。
担当する山手浩輝教諭は「地域を安易に既成概念に落とし込むことをさけたい。多様な視点に気づき、当初立てた問いや発見を何度もゆさぶり、自らの一部として地域を考えられる、粘り強い探究力を育みたい」と話す。21年度、関心のある地域資源をグループでフィールドワークをした生徒たちは、自分の考えを話すだけでなく、相手の話を「聞く力」が身に付いたと感じている。
3年次では「エリアスタディ」と「総合的な探究の時間」を通して、2年次に得た知見をもとに研究テーマを深め、地域へ出かける調査研究フィールドワークを行う。地域課題に対する解決策の提案や、地域の価値の再発見・創造を目標に研究を進め、成果を発表する予定だ。ここでも参与観察型のフィールドワークを活用し、学びの質を高めていく。
同校は町の唯一の高校であり、その存在にかける地域の期待も大きい。それに応える教育の一つが、地域を対象として見るのではなく、生徒のアイデンティティの一部として捉えさせる探究学習、NTSなのだ。
長尾康子(教育ジャーナリスト)