Program学都圏“いしかわ”創成
〜ラーニングストラテジーを学ぶPBLコンペティション〜
本プログラムは、石川県下の全ての高等学校の生徒を対象としたオンラインPBL(Project Based Learning)である(夏季休暇中開催)。「学都圏“いしかわ”を創成するアイデア」をテーマに学校混成型のチームを組み、オンライン環境のみで取り組む。
問題発見・解決スキルと共に、問題発見・解決のために必要な知識や技能の学びを創出するスキル(ラーニングストラテジー)の向上を目的としている。それらスキルは意識すること自体が難しく、多くの高校生にとって初めての学習体験となる。
さらに、遠隔地にある複数の高等学校をオンラインでつなぐことで、自身の高校では出会うことができなかった他高校の生徒との出会いが生まれる。初めての学習体験を、初めて出会うメンバーと協同する経験は、自己成長に資する「学び」を探究する動機付けを高める契機となり、心のエンジンを駆動させることにつながる。コンテストは、提案されたアイデアと活動を通した学びの過程の二つの観点から評価する特徴を有する。
活動レポートReport
学ぶための力「ラーニングストラテジー」を高校時代から身に付けてほしい
金沢工業大学は、三大建学綱領として「高邁な人間形成」「深遠な技術革新」「雄大な産学協同」を、科学技術を学ぶ者への指針を示す「3つのT」として「Truth(真理)」「Theory(理論)」「Technology(技術)」を掲げ、我が国産業界において指導的役割を担う技術者・研究者の輩出を目指している。
こうした教育理念の一環として、石川県下の高校生・高専生を対象としたオンラインPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)コンペティションを2021年度から開催している。参加する生徒たちは学校混成型のチームを組み、「学都圏“いしかわ”を創成するアイデア」をテーマに、オンライン環境でディスカッションを行い、問題発見・解決スキルとともに、その前提となる「ラーニングストラテジー(戦略的学習力)」を磨いていく。
本プログラムを推進する田中孝治准教授は、その狙いを「ラーニングストラテジーに対する感度を高め、 “学び方”を学び続ける動機づけを図る」と説明する。ラーニングストラテジーとは、様々な状況に応じて生じる問題に気付き、それらを解決するために必要な学びを自ら創り出していく力。オックスフォード大学による調査で「2030年に必要とされるスキル1位」に選定されている。
ラーニングストラテジーが求められる背景について、田中准教授は「予測可能な安定した社会では、一度身に付けた知識やスキルが生涯にわたって役立つことが、ある程度約束されています。しかし、現在のように予測困難な社会では、未知なる問題に対処できるよう、生涯にわたって常に学び続ける姿勢や、必要な知識を自ら創り出す姿勢が求められます」と話す。そうした姿勢を養う上で、ポイントとなるのが大学選びだ。高校生たちが自身に必要な専門的な学びを見つけ出せるよう、大学受験前にラーニングストラテジーを身に付けてほしいという願いから本プログラムが企画されたという。
オンライン空間ならではの「新たな学びの場」を創出
本プログラムの大きな特徴が、すべての学習活動をオンライン上の仮想空間で実施すること。先進的な環境構築を担った浦 正広講師は、「近年、コロナ禍でオンライン授業が余儀なくされる中で、対面でなくとも学べる、学生や教授が一カ所に集まらなくとも学べる、といったオンラインならではの利点も見えてきました。そこから、オンライン空間を学校や自宅に続く“第三のラーニングプレイス”として活用できないかとの発想が生まれ、2020年の夏頃から、本学の生徒を対象に仮想空間におけるPBLプログラムを実験的に行ってきました。本プログラムにはそうした実験から得られた知見が活用されています」とその経緯を説明する。
本プログラムで仮想空間として採用されたのが、オンラインビデオコミュニケーションサービス「Gather.Towm(ギャザータウン)」だ。親しみやすいレトロゲーム調の空間内で、参加者同士がアバターとして交流できるのが特徴だ。「一般的なオンライン会議ツールのような静的空間ではなく、仮想空間内を自由に行動できるのがこのツールを選んだポイント。参加した生徒たちは、海賊船などのイベントスペースも含め、空間内を移動しながらメンバー同士の関係性を深め、チームごとの課題や、その解決方法について語り合います」(浦講師)
仮想空間内には課題解決のための相談相手として、県下の多様な教育機関から集まった約20名の教員が参加している。生徒たちはチームごとに設定した課題を解決するために、誰に、何を教わるべきかを考え、仮想空間内を移動して会いに行くことで、自ら学び取る姿勢を身に付けていく仕組みだ。
「学内での実験があったとはいえ、前例のない試みだけに当初は不安もありました。蓋を開けてみれば、生徒たちがもともとオンライン空間に慣れていることに加え、学びへの意欲が高かったこともあり、オンラインのデメリットを感じることもなく、初対面の生徒同士や先生方との間で積極的な対話が交わされていました」と浦講師は確かな手応を語る。
参加した高校生はもとより、多くの関係者に学びをもたらしたプログラム
初年度となった2021年度のプログラムは、高校生が夏季休暇中の三日間で開催。参加した高校生たちは、「学都圏“いしかわ”創成」というテーマに対し、チーム内でのディスカッションや、幅広い専門分野の教員、さらにはファシリテータとして参加した大学生との対話を通じて、課題意識を深めていった。最終日に設定された発表会では、「大学での学びの拡大」「大学・企業・高校生による連携」といった提案が、そこに至る学習過程を表現した「もの語り」と合わせて発表され、その後の質疑応答も含めて、確かな学びの成果が見て取れた。
「本プログラムで重視したのは、提案内容もさることながら、そこで得た経験を言語化・概念化して今後に生かすこと。そのための経験学習として、参加者全員が『振り返りシート』に取り組み、次なる学びに向けた目標を設定しました」と田中准教授は説明する。
本プログラムにおける高校生たちの取り組みは、参加した関係者にも大きな刺激を与えている。大学生からは「自分も成長できた」との声が多く聞かれたという。「オンラインPBLは大学生にとっても未体験の空間であり、そこで高校生たちに成長してもらうためにはどうすれば良いかを考えることが、“学び方”について改めて見つめ直す機会になったようです。次年度以降も参加したいというリピーターも多く、運営側としてはありがたいですね」(浦講師)。また、多様な教育機関から参加した教員たちからも「高校生たちの質問が刺激になった」「思っていた以上に深く考えていて驚かされた」など、評価の声が上がっている。
本プロジェクトと学内の連携を支えるプロジェクト教育センターの松尾幸治氏は、初年度の取り組みを踏まえて、今後のビジョンを語る。「教育界にもDX(デジタル・トランスフォーメーション)が求められるなか、本プログラムはオンライン環境を生かした新たな学びの場として、大きな可能性があると考えており、次年度以降は対象範囲を全国規模に拡大する計画です。今後も本プログラムの成果を積極的に発信し、他地域の高大連携にも活用してもらえればと思っています」。