Programオンライン国際協働学習プログラム Global Classmates Plus
(グローバル・クラスメート・プラス)の開発および授業への導入
交流ペアとしてマッチングされた日本の高校の英語クラスと米国の高校の日本語クラスがオンラインで合同クラスを形成。合計50〜60人ほどの生徒たちが、半年間にわたり、毎週主に授業時間を利用し、バイリンガルで(両言語を用いて)、交流を深めていく。
都市部に限らない日本全国の高校生たちと米国全土の高校生たち合わせて約300人(うち日本人生徒は約半数)が、国際社会の課題などについて、共に探求し、思考を深め、意見を交換します。グローバルな視野を持って、異なる意見に耳を傾けながらも、「自分」をためらわず発揮する、地方のリーダ—人材の育成を目指す。
活動レポートReport
異文化の相手とのバーチャル協働学習を通じてグローバル人材を育成
2011年の東日本大震災をきっかけに生まれたバーチャル国際交流プログラム「グローバル・クラスメート(GC)」。一般社団法人Kizuna Across Cultures(KAC)の設立時からのメンバーであるスメサースト文子さんは、「当時私は米国ワシントンDCにいたのですが、ワシントンにいる世界中の方から日本への励ましの声を頂きました。こうした声を東北の若い世代に届けるとともに、世界は広く可能性に満ちていることを伝えたいという思いで、GCをスタートしました」と話す。
GCは、日米の高校をペアにして、半年にわたり、多様なトピックスについて、バイリンガルでコメントや写真、ビデオを交換し合っていくというプログラム。海外交流の一環として、Zoomなどでつないでリアルタイムでの対話を実施する学校は多いが、GCでは「協働学習」とあるように、クラスで話し合いをしたり、リサーチを行って、自分の意見を専用のツールに書き込み、読んだペア校の生徒がそれに返信するということを繰り返していく。プログラムマネージャーのカラソニー育子さんは「第2言語だとパッと聞かれてすぐに返信するのが難しいと思いますが、時間をかけられるライティングで交流することで、本当に自分が伝えたいことを考え、まとめることができます。生徒たちからは、思っていることが伝わったという喜び、もっと勉強したくなったという感想が多く寄せられています」と話す。
またプログラム実施中は、KACのバイリンガルコーディネーターが参加校ペアごとに寄り添ってサポートを行っており、先生たちからは、自分の意図や、生徒たちの個性、進捗などをプログラムに反映できると評価が高いという。当初は東北地域の高校生を対象に実施していたが、好評だったことから日本全国の高校を対象として展開。米国でも、日本語を使って同世代と交流できる場がなかなかなかった背景も受け、さまざまな州より多くの学校から希望があり、2020年までの9年間に両国で1万2,000人が参加している。
10年にわたってノウハウを蓄積してきたプログラムをレベルアップ
2021年度からは、GCのノウハウをベースに、異文化の相手との共修や協働を行う本格的なオンライン国際協働学習(Collaborative Online International Learning)レベルへとアップグレードさせた「グローバル・クラスメート・プラス(GCP)」をスタートした。相手と自分の国や文化に関する多様な視点や主体的な問いを引き出し、意義ある対話につなげ、より高度な思考力、ディスカッション力、異文化への認識、国際社会やグローバル課題への関心を育むことを目的としている。
GCがスタートして9年たち、世界の情勢が大きく変化する中で、グローバル人材になるために必要なことをKAC内で話し合ってきたという。スメサーストさんは、「近年AI翻訳の精度はとても上がっていて、英語を話す・書く力をある程度AIに頼れるようになり、語学だけができればいいという時代ではなくなっています。次に求められるのは、異質なアイデアに直面したときに面白いと思うだけではなくて、自分と相手の考え方の違いを明確に認識して、必要があれば自分の考え方をアップグレードする力、そして相手の考え方に100%賛成できなくても、違いを乗り越え、解決策を考え、新しいものを生み出していく力が必要なのではないかという認識が私たちの中で高まってきました。そうした力を大学や社会に出る前に育む機会をつくっていきたいという思いで、GCPをスタートすることになりました」と話す。米国側の事情についても、カラソニーさんは「米国は多様性の国ですが、GCの様子を見ていると、地球の反対側に住んでいる日本の生徒たちと自分たちの『当たり前』は思った以上に違うということを感じるとともに、その違いから自分の身の回りで起きている社会問題に気付き、ディスカッションを楽しむ生徒が増えてきています。これらをきっかけとして、さらに高度なトピックについて話す機会があるということは米国の生徒にとっても意義のあることだと思います」と話す。
GCPの2021年度の対象校は、これまでGCを実施した約150の日米の学校の中から、学校の環境やこれまでの実績、先生の熱意、また地域多様性を配慮した上で、日米各5校、計10校を選定した。日本の5校は北海道・東京・大阪・愛媛と全国に散らばっており、スメサーストさんは「国際交流のイベントや国境を越えて働いている人が身近にいる環境は、日本ではいまだに都市部に限られています。そのため、選定の上では地方の高校生も参加いただけるよう意識しました」と話す。カリキュラム開発担当者、プログラムマネージャー、コーディネーター2名の体制でプログラムの開発と運営を担当し、KAC内では週1回のミーティングを実施。進捗確認、生徒の反応をモニタリングした他、先生方からのフィードバックも取り入れながら、レッスンプランのアップデートを図っていった。
最初の3カ月間は、海外とのやりとりが初めてだったり、また英語に苦手意識を持つ生徒も少なくないため、自己紹介や学校生活、文化行事といった身近なトピックを通じて、互いへの親近感を育てながら、英語で表現することへ慣れてもらうことに重きを置いている。この前半のプロセスは、GCのノウハウをベースとしている。
後半の3カ月間は、KACが実施する日米の高校生の対面交流プログラムで特に好評の「Country Impression Workshop(国の印象ワークショップ)」をカスタマイズしたものを実施した。このワークショップでは、相手の国に対して抱く印象を視覚化することから始める。①米国の印象についてコメントを作成し、解説を入れて発表、②米国の生徒が作成した日本についてのコメントと解説を観察し、反応や感想を投稿、③浮かび上がってきたトピックについて対話を深め、④発見したこと、視野の変化、今後に生かしたいことを振り返る、というプロセスを繰り返し、互いの国の比較や国際社会の課題についての議論につなげていく。
2022年度のGCPの内容も基本的に変わらないが、議論を深めるトピックはKACが設定する方向へ変えているという。「生徒達の関心は多様であり、全員が話したいと思うトピックが揃わないことが多い。そのため、こちらでトピックを厳選し、代わりに生徒達が、そのトピックを自分ごとに感じ、引き込まれてゆくような議論のガイドや、タスクのインストラクションに力を入れています」(スメサーストさん)。
生徒だけでなく先生の「心のエンジン」も駆動させる
プログラム終了後の生徒たちのアンケートでは、「日本と米国には同じ部分も全く違う部分もたくさんあると思うからそれを否定しないこと。何もかも否定をしていたら何も知ることはできない」「自分たちの常識を押し付けない。私たちの中では当たり前なことも細かく説明する。分からないことは進んで質問する」「相手から話し掛けられるのを待つのではなく、自分から積極的に関わりにいくことで、いろいろなチャンスをつかむ!」等など、自分の見解や意識、姿勢が変わった意見が多く見られたという。
スメサーストさんは初年度を振り返り、「社会課題について何もできないと思っていたけど、バックグラウンドの違う相手とアイデアを出し合うというプロセスを通じて、自分でも何かできるかもしれないという自信が付いた」という声を生徒さんからもらった時は感動しました。2011年からバーチャル国際交流に取り組んできましたが、今回、生徒たちの心のエンジンの駆動、主体的で対話的で深い学び、高次の思考の実践がここまで実現されたことは良い意味で驚きでした」と話す。また「先生たちの心のエンジンの駆動」の重要性を再認識したという。「先生方は、KACのコーディネーターや米国の先生との共同作業を非常に楽しんでおられ、両校の良い関係性がプログラムに影響していました。もともとGCを始めたいという先生方の多くが学校内で孤軍奮闘されていることが多く、校内での理解を深めてもらうために、私たちはこれまでGCの成果を校長先生や教育委員会にレターにして毎年送るなどの取り組みをしてきました。先生方が周りの目を気にせず、心のエンジンを駆動できる環境づくりも重要だと感じています」(スメサーストさん)。
今後、GCPの内容については、さらなるレベルアップを目指して、大学でオンライン国際共同学習の推進に取り組む教授をアドバイザーとするなど体制を充実し、高大連携も視野に入れながら大学レベルに近づけられるようブラッシュアップを図っているという。「私たちは、高校生の国際バーチャル交流の草分け的な存在だという自負があります。トライアンドエラーを繰り返しながら、引き続き先頭を走っていきたいと思います」(スメサーストさん)。