ProgramIIAS塾ジュニアセミナー「独立自尊の志」養成プログラム
高校生のリベラルアーツ学修への興味と関心の涵養、自習する契機の提供が目的である。
「思想文学」「政治経済」「科学技術」の3分野について、各分野の権威からテーマを取り上げて講義いただき、講義動画を配信するとともにテキストを配布して、生徒に事前学習を求める。
セミナー当日は、講師や大学院生の支援の下に、事前学習した講義内容を踏まえて、時間をかけてグループ討議を行い、生徒たちの思考力・表現力・創造力を訓練する場を提供する。セミナー後に、自らの考えをまとめた小論文を提出してもらう。
<参加者の代表的なご意見>
・自分一人では思い付かないようなさまざまな考え方に触れることができた。
・さまざまな方々との出会いを通じ、自身の将来について深く考える契機になった。
・普段の学校や日常の生活では絶対学ぶことができない貴重な経験ができた。
・グループ討議を通して、さまざまな意見を知る大切さ、自分の意見を積極的に伝える意義を学んだ。
活動レポートReport
リベラルアーツを旨とする学びの場
国際高等研究所は、「人類の未来と幸福のために何を研究すべきかを研究する」を基本理念として1984年に創立された公益財団法人。大阪府、京都府、奈良県にまたがる文化・学術・研究拠点として開発された「関⻄文化学術研究都市」(愛称・けいはんな学研都市)の中核的機関だ。当研究所が、18歳前後の高校生・大学生を対象とし、リベラルアーツ学修への興味や関心を養い、自習するためのプログラムとして2016年にスタートさせたのがIIAS塾ジュニアセミナー「独立自尊の志」養成プログラム。日本の歴史・文化的背景を踏まえ、思想文学・政治経済・科学技術の各分野における第一人者を講師として招いて、春季・夏季の年2回、十分な時間をかけて議論を行っている。参加者にはあらかじめテキストによる事前学習を課し、セミナー当日は、講師による講義を受けた後に、大学院生を中心とするティーチングアシスタント(TA)の支援の下、数人ずつによるグループ討議を行う。セミナー終了後もTAのアドバイスを得て、1カ月程度を目途に小論文を作成。受講生の学びはセミナー当日だけでなく、その前後約3カ月にもわたって続くというプログラムだ。知識の獲得が第一義ではなく、正解のない課題について討議を行うことで、他者の意見を受け入れて理解を深める機会と、自分の考えを整理して発表する機会を得て、新たな視点や幅広い視野を獲得することを目指している。
2016年春季から2019年夏季までの8回は、研究所の宿泊施設を活用し2泊3日の合宿形式で開催されたが、2020年の春季・夏季はコロナ禍により休止。翌2021年に2日間のオンライン形式にて再開したところ、自宅からでも参加できるという利点から、会場に近い近畿圏の生徒だけでなく、長野や東京など他地域の高校生、また高校時代に受講した大学生の参加を得ることができた。また、Google Classroomの導入により情報共有の質が向上し、講義動画も事前にアップできるなど、オンデマンドでの学習環境も充実した。
2022年春季は、「もっとグループ討議に時間をかけたい」という参加者の要望から、3日間のオンライン開催に。そして夏季には、3年ぶりに対面方式が復活した。3名の講師にはオンラインで参加いただき、受講者26名とTA11名には研究所での対面での参加を求め、ハイブリッド開催を試みた。参加校は14校中6校が新規校で、新たに福岡、宮崎、愛媛からの参加もあり、地域的拡大はさらに進んだ。もともと近畿圏のリベラルアーツに関心を持つ学校を中心に広まっていった参加校は、WWL拠点校や当財団の助成対象校という新たなルートへの積極的な働きかけによって、全国に広まっている。
次回2023年春季セミナーは、3月にオンラインでの3日間開催が決定しており、募集地域も全国に及んでいる。テーマは「生命とは何か。自然観・生命観、彼我の違いと変遷」という「課題検討型」で、今後も「人物学習型」(2022年は九鬼周造・吉野作造・司馬江漢)との2パターンのテーマを交互に挙げながら開催していく予定だ。
セミナー経験者を対象としたホームカミングイベント
2022年9月17日には、ジュニアセミナー受講経験者を対象としたホームカミングイベントが、TA3名、社会人2名、大学生9名、高校生4名の総勢18名の参加を得て、対面方式で初開催された。
テーマは、「いま日本人の幸福について考える」という、どの年代においても深く他者と語り合ったことがないもので、世代間の交流も含めて興味深い討論ができたという声が多く聞かれた。とは言え初回だけに、討論時間の不足、対象やテーマ、開催時期など、今後継続していくために再考すべき課題もいろいろ見つかり、今回の参加者から委員を募って、今後の開催に向けた企画委員会が早速開催された。当イベントの目的は、ジュニアセミナー既受講生とTA経験者を中心とするネットワーク強化を図り、志を共にする若者同士が切磋琢磨できる場の構築を目指すもので、今後のジュニアセミナーの運営においても大切な意味合いを持っている。
「ホームカミングはセミナーの受講経験者が対象ですので、参加者の年齢層は年々広がっていきます。若者から大人まで、等しく興味を持てるような内容にしていかなければならないという難しさがあります」と、中西博昭事業部部長は今後の形を模索している。今回のホームカミングも全員が研究所に集まって開催され、対面での討議の楽しさが再認識される形になったが、ジュニアセミナーもホームカミングも、先の見えないコロナ対策やデジタル社会への対応、地域・年代・定員の拡大などのためには、リアルとオンラインのいいとこ取りをした「ハイブリッド開催」へのチャレンジを、今後も続けていく必要はある。
その上で現在大きな課題となっているのが、グループ討議の最適規模はもとより、TAの確保の関係もあり、参加人数を際限なく増やすわけにもいかないという点。参加申し込みが増えるのはありがたいが、セミナーの質を確保するためには、何らかの選択制、先着順ということも、今後は考えざるを得ない。例えば、オンライン開催時に大学生の参加が増えたことから、高校生とは参加しやすい時期が異なる大学生に特化したセミナーを別開催するというのも、一つのアイデアとしてはあるという。
年代を超えシームレスにつながる「知的交流の場」
当ジュニアセミナーの前提には、2013年以来、当研究所で開催の「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ『ゲーテの会』」がある。既に開催は90回を超える、けいはんな学研都市に立地する研究機関や企業の方々、近隣の住民の方々など広範な方々対象の、思想文学、政治経済、科学技術にわたるさまざまなジャンルの第一人者をお迎えしての参加者との対話型講演会で、日常を離れ、未来に向けて考える時間を提供する貴重な場として定着している。90回を超える「ゲーテの会」の講演録は、これまでのジュニアセミナーのテーマ選定の基礎となってきたが、現在これらを整理し、誰でも閲覧できる「WEB資料館」にアップする準備が進められている。ジュニアセミナーやホームカミングのテキスト作成だけでなく、「デジタル図書館」として、さまざまな活動が生まれるきっかけとなる可能性を秘めている。
こうした「知的環境」の中で、若者たちに学びの本質と楽しさを経験してもらいたいという思いが、ジュニアセミナーの根本にはある。かの福沢諭吉翁が理想とした「独立自尊の志」は、「リベラルアーツ」という名で、現在の若者たちの人生観・学問観・リーダシップ形成に影響を与え続けている。ジュニアセミナーをスタートとして、ホームカミングを介し「ゲーテの会」へと「知的交流の場」がシームレスにつながっていくことで、若者向けのジュニアセミナーの意義が何倍にも増していくことが期待されている。